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チームマネジメントのための乃木坂46

AKB48の公式ライバルとして2011年に結成され、もはや無双状態の乃木坂46。そして本日2021年2月23日はその乃木坂46のオンラインライブ「9th YEAR BIRTHDAY LIVE」の日。

私がグッと乃木坂46に興味を持ちはじめたのは、ステイホームが増えた2020年になってからで(おそい)、それまでは白石麻衣とか西野七瀬とか齋藤飛鳥とかグループの1番前にいたっぽいメンバーくらいしか知らなかったのですが、知れば知るほどいいチームに見えてきて、これは学ぶべきところがたくさんありそうなので、ちょっとまとめてみることにしました。

まず個人的になにがすごいと思ったかというと、アイドルグループはもちろん、企業経営でやるべき仕事の中でも実はトップクラスに難しいであろう、チームマネジメントに成功しているように見えたこと。

エース人材が重圧に押し潰されてしまう、グループや企業を牽引してきた中心的人物の離脱、組織内の不仲による分裂が引き起こす組織の不安定化や凋落の事例なら、あなたにも思い当たることが一つや二つあるのではないでしょうか。創業社長が後任を見つけられずにいつまでも実権を握るケースなんかはいくらでも例が出てきそうだし、事業承継、後継者育成、採用や人材育成の問題に悩む企業はそれこそゴマンとあるでしょう。

だからこそ、それに成功しつつあるように見える乃木坂46から学べることがたくさんあるのではないかと感じるのです。

◆乃木坂46の目標
アイドルがファンに提供する本質的価値とは「少女たちの成長を応援する」こと。2019年公開のドキュメンタリー「いつのまにか、ここにいる」では「少女たちの成長譚」と表現されています。Netflixで観られます。

そしてもう一つ、創立時の乃木坂46には目標がありました。それは当時人気絶頂にあったAKB48を超えること。「AKB48の公式ライバル」として乃木坂46は生み出されます。AKB48も乃木坂46も秋元康プロデュースのグループで、手前味噌な感じもありますが、これにより「少女たちの成長を応援する」本質的価値は打倒AKB48という具体的目標を与えられることとなりました。具体的目標があるとグループとしてまとまりやすい上、ファンとしても応援がしやすいわけです。この辺りの演出と言葉選びはさすがですね。手前味噌な感じも公式とつけて打ち消してしまう。秋元康には糸井重里同様に怖いくらいの群衆心理の読みの鋭さが感じられます。アイドルグループ育成の再現性をテーマにするあたりをみても、かなりビジネスと親和性の高いアプローチをとっている様子。

さて、少しだけ2021年の乃木坂46を考えてみると、私の知る限りもはや「AKB48の公式ライバル」と自ら名乗ることはない状態になっています。6年連続6回目の紅白歌合戦出場も経験し、創立時の具体的目標を成し遂げたと言って問題ないでしょう。そうなると彼女たちは今、なにに向かって走っているのでしょうか。正直なところ、若干なにを頑張ればいいのか迷っているような節もありそうですが、個人的には乃木坂46というグループとそのメンバーを守りたい、引継ぎたい、受け継ぎたいというのが一番強いのではないかと感じます。プロデューサー秋元康によって与えられた目標を超えて、グループとして内発的動機、自己実現的目標に向かっているように思われます。なにもないところから生む痛みを経験した1期生も徐々に減り、その象徴で絶対的エースと呼ばれた白石麻衣の卒業を経て、グループとして変革の時期とメンバーが口にする機会が増えました。乃木坂46の良さを保ったまま変化に向い、後輩たちもそろそろ私たちの番だと覚悟を決めつつある雰囲気があります。外から見ていれば順風満帆にしか見えないこの時期に、中の人がしっかり危機感を持って動き始めているというのは盤石としか言いようがありません。


◆乃木坂46のチームマネジメント
ようやく本題に入ります。
乃木坂46をチームとして捉えた場合、マネジメントの視点からポイントになるのは2点あります。
◆心理的安全性
◆センターポジション

ここから一つずつ、見ていくことにします。
長いですが、お付き合いください。。。

◆心理的安全性
まず、メンバー一人ひとりの力として、ものすごく優れた化物人材ばかりではない点です。こんな時に引き合いに出すのはちょっと申し訳ないですが、宇多田ヒカルはやっぱりグループ活動はしないだろうということの裏返しです。歌詞も曲も編曲も歌うのも超一流みたいな人は一人で活動するんだと思います。そういう意味ではグループである、組織である特徴の一つとして、構成メンバーは不完全である、ということを一般論としては受け止めた方がいいのかなと。話はそこから、という意味で。

これを前提に置くと、重要なことは何か。
「個人の魅力を引き出すこと」と「グループが個人よりも有利な点を活かすこと」です。
前者「個人の魅力を引き出すこと」について、もう少し具体的には心理的安全性を確保することが、意外と人見知りで内向的な性格の大人しいメンバーが多い乃木坂46では重要度が高いように思います。つまり、結成時から続いているバナナマンMCの「乃木坂工事中(旧 乃木坂って、どこ?)」を中心とする冠番組の存在です。いきなりテレビでやってしまうのは秋元康かジャニーズ事務所くらいしかできない荒業かもしれませんが、冠番組があることによって過度の緊張を防いで心理的安全性を確保し、場数を経験することで自信を身につけて行く成長プログラムを用意できます。

このやり方のさらに素晴らしいのは、自前の成長プログラムを用意するだけでなくコンテンツ化することにより、本質的価値「少女たちの成長を応援する」ための機会をファンに対して創出していて、乃木坂46の目標に整合的であることです。非常に合理的な打ち手。グループの成長に合わせてそのチャネルは増え続けていて、Showroom, Instagram, Line, YouTube, Weiboその他のSNS生配信も同様の役割を担います。要するに、圧倒的に踏んでいる場数、見られている経験値が違うのです。10代20代で30分、1時間、2時間の生配信を一人二人の少数で何度も行い、数万人の視聴者を相手にコメントを拾いながらその場でリアクションする経験をして、テレビの冠番組が毎週あって、数万人の観客の前でいきなりライブステージに立ち、数十万人が視聴するオンラインライブに参加する。時間と人数と規模とチャネルを調整しながらグループのメンバーそれぞれに必要な成長プログラムを用意し、コンテンツ化してファンに提供しています。
これだけの場所が内輪で存在することで心理的安全性を確保し、個性を引き出すことにつながっています。うまく個性が出せるようになると、個人での仕事も増えていきますね。

さて、後者「グループが個人よりも有利な点を活かすこと」とはなんのことだと思いますか?

答えは時間の総量です。
先ほどあげたグループとしてのコンテンツの他にも乃木坂46メンバーは個人活動としてファッション誌の専属モデル、舞台・ミュージカル、バラエティ番組、テレビドラマ、映画、書籍の出版、ラジオパーソナリティなどなどを人気メンバーだけでなくアンダーメンバー(選抜制で、スポーツの控え選手的な立場)まで現時点で44名のメンバーが総動員で活躍しており、いくら宇多田ヒカルが超一流でも、ひとりで乃木坂46と同じだけのコンテンツ量を生み出すのはおそらく不可能です。ここに勝機があります。数の暴力で勝つのです!

どうでしょう、経営にも生かせるヒントがありそうじゃないですか。

◆センターポジション
2つ目のポイントになるのは、「センターポジション」です。
センターポジションはグループの一番前に立つ存在で、新曲に合わせて毎回メンバーを選抜する選抜制をとっていますが、その中でも花形、スター選手であり、どうやら想像以上のプレッシャーがかかっている役割のようです。

選抜制とセンターポジションはAKB48でも採用されていますが、乃木坂46のセンターポジションには特徴があります。それは、ローテーション制を(おそらく意図的に)採用していることです。つまり、人気メンバーを固定して長く最前線に立たせるのではなく、センターは楽曲ごとに変わるもの、とメンバーもファンも認識している状態です。こうなったのはおそらくいくつかの理由があります。

一番大きい理由は、前述のようにセンターが感じるプレッシャーが本人のキャパをたびたび超えてしまうケースが散見されていることです。それは例えば、初代センターから5曲連続でセンターを引き受けた生駒里奈など全てを背負いすぎて疲弊しすぎてしまったケースへのリスクマネジメント的対応だと思います。おそらく本人が自発的にそうしたのだと思いますが、6曲目以降の生駒里奈は明らかにセンターをサポートし、チームワークを高めるための役割に全振りしていきます。

乃木坂46は表題曲がこれまで26曲あり、歴代センター経験者は生駒里奈、白石麻衣、堀未央奈、西野七瀬、生田絵梨花、深川麻衣、齋藤飛鳥、橋本奈々未、大園桃子、与田祐希、遠藤さくら、山下美月と12名います。単独センターでは5thまで連続でセンターをつとめた生駒里奈の6回が最多、4回(加えてダブルセンター3回)の西野七瀬、3回(加えてダブルセンター2回)の白石麻衣、3回(加えてダブルセンター1回)の齋藤飛鳥と続きます。連続センター時代の生駒里奈を映像で見ると、明らかに背負いすぎているのがありありと伝わってきます。その後徐々にセンターの負担を軽減するべく、ダブルセンター制になったり、同期メンバーを近くに配置したり、ローテーションで固定化しないようなポジショニングへと変化していきました。

もう一つの理由は育成です。上記のうち、堀未央奈(2期生)、大園桃子(3期生)、与田祐希(3期生)、遠藤さくら(4期生)はまだ人気も実力も未知数の段階でセンターに抜擢されています。継続性の観点からは、育成というのはアイドルグループでも企業でも非常に大切な問題ですね。

ところでみなさんお気づきでしょうか。センターの脱固定化がもたらすのは、ポジション(役割)と人(メンバー)の分離です。ある時期からセンターが非属人的になっていくのです。「あの人はすごいからセンター」「センターといえばあの人」という話から、人気実力として必ずしもトップでない新しいメンバーであっても、今回はこの人がセンターの役割を担いますという話に変わっていくのです。これが結構組織のしくみの話で、メンバー同士の気持ちの話でもあり、企業でもまったく同じことが必要とされています。なぜなら属人的な組織は、個人に過度な負担を強いるだけでなく、組織として存続する力が弱いからです。ある人がいなくなったら、病気で倒れたら、回らなくなる組織は本当に脆いです。瞬間的な爆発力があっても継続力には欠ける。そして継続力こそ、個人に勝る組織の強みでもあるのです(会社は死なない)。

このポジション(役割)と人(メンバー)の分離には、もう一つ副次的な効果があります。それは、チームワークの醸成です。いくら仲がいいことで有名な乃木坂46とはいえ、オーディションから熾烈な競争を勝ち抜いて、新曲のたびに選抜メンバーに選ばれるかどうか、常にシビアな競争原理が働いている状態です。通常これだけ競争原理が働いてしまうと、チームワークは悪くなりがちです。選ばれる人と選ばれない人が、はっきりと誰の目にも明らかな形で結果に出てしまうからです。それでもしくみとして過度な競争を和らげる手を打ち、そして連続センターの辛さを知っていて、徹底してサポートにまわった生駒里奈がいて、徐々にその時々のセンターをみんなで支えていこうとチームワークが高まっていったのではないかと感じます。

この一連の流れ、まるで成功したスタートアップの創業期から上場までの物語を聞いているかのようじゃないですか。

いやぁ、めっちゃ長くなっちゃいました。「9th YEAR BIRTHDAY LIVE」は夜観ようかな。


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