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なぜ事業を拡大させるのか?それは社会課題の解決に繋がっているのか?

「安田さん、本当に事業を拡大する必要があるんですか?」

先日マネージャー会議で、一人の社員が発言した。

キズキは現在、これまでの事業をさらに拡大しようと考えている。全国に7校ある不登校・中退者向けの学習塾「キズキ共育塾」は、今後も拡大予定だし、うつ病や発達障害によって離職した若者向けの就労移行支援事業「キズキビジネスカレッジ」も、第2事業所を立ち上げる準備をしている。大学・自治体からの委託事業も、8つに増えた。

事業を拡大しより多くの人に支援の手が届くことはもちろん喜ばしいことだと思う。

一方で現場スタッフへの負荷はかかる。事業所を増やすためには良い人材の採用が必要だ。人事や面接担当の社員はますます忙しくなる。また採用したばかりのスタッフには丁寧な育成が必要になる。だから、既存スタッフは、事業を回しながらも育成に追われることになる。

また、一人前になり事業所の中核を担うようになったスタッフは、新しい事業所ができると、その力を買われて異動してしまうことも多い。そのため既存の事業所では、息をつく暇なく採用と育成のサイクルを回さなくてはならなくなる。

「安田さん、本当に事業を拡大する必要があるんですか?」

疲弊した現場のスタッフからそう言われるたびに、「その通りだよな…」とよく思った。

「生きていけるだけ稼げればいい」と思っていた数年前

実は数年前まで、僕自身も事業拡大には積極的ではなかった。

僕が27歳のときに起業したのは、もともと「自分が正しいと感じる方法で最低限生きていけるだけのお金を稼ぐ」ためだ。そう考えると、事業拡大は必然ではなかった。

大企業をうつ病で辞めた僕に、事業拡大に伴うプレッシャーはキツイ。規模が大きくなれば責任も重くなるし、うまくいかなかったからといって、生徒や利用者の方を投げ出すわけにもいかない。プレッシャーの中で寝られない日がますます増えそうだ。

「わざわざ辛い思いをしなくても、自分が生きていけるだけ稼げればいいんだ」

そんな思いから、事業拡大に及び腰になっていた。

そんな中で、僕の考え方を変える出来事があった。それは、2017年に渋谷区で行ったプロジェクト「スタディクーポン・イニシアティブ」だ。

経済的な理由から塾に通えない子どもたちに、学習塾などで使える「スタディクーポン」届けるこのプロジェクトでは、公益社団法人Chance For Childrenさんと共にクラウドファンディングによる資金を集めを行った。

すると、2か月にわたるクラウドファンディング期間で応援してくれた人の数は700名以上にのぼり、なんと1,400万円以上の支援金が集まった。

さらに2019年には、渋谷区が政策としてスタディクーポンを導入することが決定。民間の取り組みが広がれば、自治体の政策をも変えることができると知った。

「意外と社会は変えられるのかもしれないな」

そう思えるようになった。どうせなら残りの人生を「社会を変える」ことにコミットしてみたいと心の底から思えるようになった。34歳になった頃に、小さく誓った。

事業拡大することで、社会の価値観変える

キズキはビジョンとして「何度でもやり直せる社会」、ミッションとして「事業を通じた社会的包摂を行う」を掲げている。

ビジョン・ミッションに沿った会社であるために、何をしたらよいのだろうか、最近よく考える。事業を拡大させて多くの人を支援した先に、自分たちが掲げるビジョンは達成されるのか。

最近になって、「何度でもやり直せる」社会を創るには、「社会の価値観を変える」ことが必要だと考えるようになった。なぜなら、不登校や中退、ひきこもり、離職を経験した人たちは、社会で常識とされている「価値観」に苦しんでいることが多いからだ。

「一度不登校になったら、大学には行けない」
「一度うつ病になったら、二度とビジネスパーソンとして活躍できない」

社会からのメッセージを敏感に感じる当事者は、そう思いこんでしまいやすい。すると「やり直したい」という気持ちをもつことすら難しくなってしまう。

でも、「あの人は不登校だったけど、今普通に働いているよ」と言われる人が、身の回りにたくさんいたら。「あの人は、うつ病で休んだ後に大活躍したよ」と言われる人が、身の回りにたくさんいたら。
きっと一度立ち止まることはあっても、自信を失うことなく納得できる人生に向かって再度歩き始められる人は増える。

だから、一人でも多くの方を支援することは、社会の価値観を変えることに繋がっているはずだ。

最近はようやく、事業を拡大し多くの方を支援することがしっくりくるようになった。きっとその先には、社会の価値観が変わっていく未来が待っているからだ。そしてその先に、自社のミッションやビジョンの達成も待っている。

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