小林研一郎さんの日本芸術院賞受賞の一報に接して思い出したいくつかのこと
昨日、日本芸術院は2020年度日本芸術院賞の受賞者として、千住博、小林研一郎、片岡孝太郎、観世清和、相武常雄、西川箕之助の6氏を選ぶとともに、千住氏と小林氏については特に業績が顕著であるとして恩賜賞も送ることを発表しました[1]。
この6人の中で私にとって最も馴染み深いのは指揮者の小林研一郎さんです。
私が小林さんの指揮を実際に演奏会場で見た最初の機会は1997年3月13日(木)にサントリーホールで行われた日本フィルハーモニー交響楽団の第488回定期演奏会で、この時はバリトン独唱に青戸知を迎え、マーラーの『さすらう若人の歌』と交響曲第5番が演奏されました。
この日は小林さんが日本フィルの2度目の常任指揮者に就任してから最初の定期演奏会でした。
そのためか、場内が聞き手にとっても演奏者にとってもある種の高揚感に包まれ、これまでの定期演奏会とは違った雰囲気であったことは、日本フィルの定期会員になったばかりの私も実感したものです。
実際の演奏は、このような独特の雰囲気と相俟って、それまでどちらかと言えば人間味があり瞬発力に富んではいても持続性に乏しいと思われた日本フィルが、終始緻密さと熱量に満ちた音楽を奏でていたこと大変に印象的でした。
その後、小林さんは日本フィルの音楽監督を経て2010年に桂冠指揮者、2014年に桂冠名誉指揮者となり、文字通り日本フィルを支える重要な存在となりました。
残念ながら私は定期演奏会の開催日が従来の木曜日と金曜日から金曜日と土曜日に変更された2007年9月以降、日程が合いにくくなったこともあり演奏会に足を運びにくくなり、定期会員の資格も更新しなくなりました。
しかし、浦田健次郎の『北穂に寄せて』の初演とブルックナーの交響曲第4番『ロマンティック』を取り上げた2009年4月24日(金)の第609回定期まで、12年にわたり小林さんの作る音楽に定期的に接することが出来たのは、実に意義深いものでした。
現在の小林さんは、かつての「軽自動車に乗ったF1レーサー」といった音楽作りは影を潜め、乗る車が「高級セダンのSUV」に変わったといった趣きがあります。
一方で演奏者が内に秘める力を引き出す手腕は健在です。
それだけに、小林研一郎さんのこれからのますますの活躍が願われるところです。
[1]恩賜賞に2人. 日本経済新聞, 2021年3月19日朝刊46面.
<Executive Summary>
Miscellaneous Episodes of Mr. Kenichiro Kobayashi: Celebration for Mr. Kobayashi and His Honor of the Japan Art Academy Award (Yusuke Suzumura)
Mr. Kenichiro Kobayashi, the Honorary Conductor Laureate of the Japan Philharmonic Orchestra, won the Japan Art Academy Award on 18th March 2021. In this occasion I remember some episodes of Mr. Kobayashi.