【追悼文】飯守泰次郎さんについて思い出すいくつかのこと
8月15日(火)、指揮者の飯守泰次郎さんが逝去しました。享年82歳でした。
米国と欧州で研鑽を積み、日本国内では読売日本交響楽団指揮者から始まり、東京シティ・フィルハーモニー管弦楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者を歴任しました。
海外ではブレーメン、マンハイム、ハンブルク、レーゲンスブルクの各歌劇場の指揮者を務めたほか、1970年にバイロイト音楽祭の音楽助手に就任し、ワーグナーの楽劇や歌劇への知見を深め、1990年代後半からは日本におけるワーグナー音楽の牽引役の一人となりました。
私にとって飯守さんといえば東京シティ・フィルとの共演が最も印象深いものです。すなわち、私が1997年4月にシティ・フィルの定期会員になると、9月に飯守さんが常任指揮者に就任したため、その指揮による演奏に接する機会がおのずと増えたのでした。
飯守さんとシティ・フィルの組み合わせは、在京の主要な職業楽団としては最も新しかった同団が大きく成長する時期と重なり、ワーグナーの『ニーベルングの指環』の全曲公演や新ベーレンライター版によるベートーヴェンの交響曲全集の録音などは、両者の残した大きな成果となりました。
また、愛好家団体との活動にも熱心に取り組み、新交響楽団とは演奏会形式によるワーグナーの楽劇『トリスタンとイゾルデ』の抜粋(第244回演奏会)など、意欲的な公演を行いました。
このように、ワーグナーをはじめとするドイツ・ロマン派の音楽に通暁している飯守さんではあるものの、手持ちの曲はこれらの時代の作品だけに限らないことは言うまでもありません。
特に、2020年7月19日(日)にNHK教育テレビの『クラシック音楽館』で放送された「日本のオーケストラ特集」の中で、オーギュスタン・デュメイのバイオリン独奏と関西フィルの管弦楽によるラヴェルの「ツィガーヌ」の様子が放映され、デュメイの妙技を引き出す飯守さんの端正な指揮を堪能できたことは、大変に印象深いものでした。
それだけに、いよいよその芸術の完成をみようという時期に長逝したことは、楽壇にとっても聴衆にとって大きな損失であり、実に悔やまれるところです。
改めて飯守泰次郎さんのご冥福をお祈り申し上げます。
<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of Mr. Taijiro Iimori (Yusuke Suzumura)
Mr. Taijiro Iimori, a conductor, had passed away at the age of 82 on 15th August 2023. On this time, I remember miscellaneous memories of Mr. Iimori.