日本の建設企業は国際化が進んできたか?? Part 3

4つの指標でみる国際化

これまで日本の建設産業全体で国際がどのように進んでいたかというマクロな視点で分析してきました。次は、日本のスーパーゼネコンである、4つの建設企業(大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設)と国際化が進んでいる多国籍企業のトップ3(Vinci、ACS、Hochtief)を、国際化に関する4つの指標で比較します。

4つの指標は、①海外での売上の比率(Foreign sales as a percentage of total sales (FTST))、②海外支店の比率(Overseas Subsidiaries as a percentage of total subsidiaries(OSTS))、③潜在的に進出可能国に対する実際に進出した国の比率(the ratio of the number of countries the contractor is actively engaged in(RNC))、④建設業界における得意分野の比率(Speciality)です。データは、各企業の年次報告書(Annual report)とEngineering News-Record(ENR)を元に作成しております。

1.海外での売上率の比較

げまず、以下の図が、①海外での売上の比率の比較です。日本企業は実線なので、明らかに多国籍企業のトップ3とは大きく差が出てます。また、ENRの上位225or250社の平均値(30%)より日本企業は少ないのが分かります。日本企業の中でも、大林組と鹿島建設は、ここ20年で海外売上比率が上がっているのが分かります。

画像1

2.海外支店の比率

続いて、②海外支店の比率についてです。以下の図に示しております。Hochtief GroupやACS Groupが高い海外支店比率を示しております。(ACS Groupは、Hochtief Groupを2010に買収しております。)また、日本企業において、鹿島建設は、非常に高い海外支店比率であります。その他の日本企業は40%未満であり、Vinci PLCも同様の比率になっております。多国籍企業は、海外売上率と支店率が同等の比率に対して、日本企業は、全体的に海外支店比率の方が高い傾向にあります。日本企業にとっては、海外事業より国内事業の方が、売上高を上げるのに効率的であることが分かります。

画像2

3.ビジネスの地理的な多様化

③潜在的に進出可能国に対する実際に進出した国の比率について、以下の図に示しております。潜在的に進出可能国は、ENRにおいて示される、海外売上ランキングの上位225社または上位250社が進出している国数を分母とし、各企業が当該年に収益を上げた国数を分子としました。日本企業は、20~10%の間で推移しつつ、いずれの近年に向けて10%に収束しつつあります。一方で、多国籍企業については、日本企業と比べると10%ほど大きく、特にVinci PLCについては、70%程度になっており、地理的な多様化がなされていることが分かります。

画像3

4.専門分野の多様化

④建設業界における得意分野の比率について、以下の図に示します。ENRでは、建設業界の分野を9つに分解(General building, Manufacture, Power, Water, Sewer/Waste, Industry/Petroleum, Transportation, Hazardous Waste, Telecomunication)されており、その分野を分母に、当該年に各企業が収益を上げた分野数を分子にしたものです。比率上は大きく違いは無いように思います。大成建設が建設分野のうちのビジネスの多様化は小さい傾向にはありますが。

画像4

もう少し詳しく見ていきましょう。以下の図は、海外売上のマーケット比率を示したものです。赤字の個所は、ENRにおいて売上トップ10に入った分野を示しております。鹿島建設は、一般建設(General building)や製造業建設(Manufacture)が強い傾向にあります。大林組は、近年は水関係(WaterやSewer Waste)が近年は強いでしょうか。清水建設は、一貫して製造業建設(Manufacture)が強い傾向があります。それぞれの企業において、強みは異なるものの、得意分野は2つ程度になっているのが、日本企業の海外ビジネスの傾向かと考えられます。一方で、多国籍企業群については、日本企業は主戦場していない、交通(Transportation)や石油(Petroleum)、通信(Telecomunication)関係において、存在感を示しております。加えて、比率も一つの分野に突出しているというよりかは、幅広に分散されていることが特徴です。


画像6

画像7

5.まとめ

今回は、スーパーゼネコンの5社とメジャーな多国籍企業の3社における、海外ビジネスの特徴について、比較しました。まず、バブル経済以降、日本企業の海外進出は海外の売上比率を見る限り、進んでおりません。日本のスーパーゼネコンは、海外売上比率が低く、地理的な分散もあまりなされていないことが分かります。特徴としては、多国籍企業の方は、海外売上率と海外支店率が同程度である(国内事業と海外事業の収益率は同程度)である一方で、日本企業については、海外売上率は海外支店率より低い傾向にあります。これより、国内事業の方が利益率が高いことが推察されます。この状況が、海外への進出に対するビジネス上の旨みが感じられない要因かもしれません。

また、海外売上に対するビジネスの多角化も多国籍企業よりは進んでいないことが分かりました。日本企業は2分野程度で集中的に海外の売上を出している一方で、多国籍企業は様々な分野で売上を出していることが分かりました。

それでは次回は、財務状況的にどのような違いがあるのか、どのように変わってきたかという点を見ていきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?