日本の建設企業は国際化が進んできたか?? Part 4
前回までのおさらい
前回までで、日本の建設企業については、以下のことが分かりました。(詳細は、Part 3を参照ください。)
・バブル崩壊以降、鹿島建設・大林組は10%→20%程度まで増やしているものの、日本の建設業大手4社は海外売上比率は低い。清水や大成は依然として10%程度。海外トップ企業では40%以上である。
・海外トップ企業は、海外売上比率と海外支社の比率が同程度であるが、日本企業は海外売上比率より海外支社比率の方が大きい。これより、海外事業は国内事業より収益率が低いことが推定され、日本企業に海外事業への進出は美味しいものではない可能性。
・日本企業は主にアメリカを中心に海外事業を展開。一部、東南アジアに進出している。また、一般部門や製造部門、交通部門での建設事業が主なマーケット。
今回取り扱う、財政指標について
今回取り扱う財政指標は、①流動比率、②当座比率、③ギアリング比率、④総資産利益率(ROA)です。①流動比率は、流動資産/流動負債、②当座比率は、当座資産/流動負債、③ギアリング比率は、有利子負債/(自己資本+有利子負債)、④総資産利益率は、当期純利益/総資産で計算しております。
①流動比率について
流動比率については、日系大手建設会社も海外のトップ建設会社も大きく買わないことが分かります。1~1.4の間を推移している形です。いずれも問題のある値ではないと思われます。
②当座比率について
流動比率は日系・海外のトップ建設企業は変わりませんでしたが、当座比率については、日系大手建設企業が近年になって海外トップ建設企業と同水準に達してきたことが分かります。当座比率が1を超える場合には、安定した財務状況であることが示され、海外トップ建設企業は0.8より大きいことが分かります。バブル期以降に、日系大手建設企業も当該指標が改善され、財務的にも安定してきたことが分かります。財務状況が優れない中で、海外進出は難しかったことがうかがえます。
上記図は、棚卸資産における、建設途上のプロジェクトの割合を示したものです。鹿島建設を除き、バブル期以降~2010程度まで50%以上の高い比率を占めてしておりましたが、近年は50%未満となっております。これは、日系大手建設会社は、バブル期やドットコムバブル期に始まった建設プロジェクトを、それぞれの景気後退以降も抱えていたことを示唆してます。そのため、財務状況の問題のみならず、人的資産も国内に集中せざるを得ない状況であったため、海外展開が困難だったことが分かります。
③ギアリング比率について
ギアリング比率が高いほど、自身の長期的な資産に対して有利子負債が大きいを示しますが、バブル期以降すべての日系建設はギアリング比率が下がってきており、自己資産比率が高くなってきていることが分かります。特に、大林組を除く、鹿島・清水・大成建設について、1998~2003年の間は高いギアリング比率となっており、これはアジア通貨危機やドットコムバブルの影響で民間投資が落ち込んだためであります。
一方で、近年では、海外トップ建設会社の方がギアリング比率が高くなっているところです。ただ、一概にギアリング比率によって財務状況の良し悪しは判断が難しいところです。負債が大きくなれば、デフォルトリスクが高まりますが、レバレッジを効かせることができます。一方で、一般的に資本コストの方が負債コストより大きいため、ギアリング比率が低くなるとデフォルトリスクが低くなりますが、資金調達のコストが高くなります。
④総資産利益率(ROA)について
日本企業のROAは、バブル以降改善してきていることが分かります。前述の景気後退の影響で悪化した時期もありますが、近年は海外トップ建設企業より高いROAが示されております。
まとめ
日系大手建設会社の財務状況は、バブル崩壊以降改善してきています。今や海外トップ建設会社と同等の水準まで達しているところです。一方で、海外事業比率が大幅に低いことが分かりましたが、財務状況や国内プロジェクトの請負状況から、海外展開が難しかったと推測されました。
日本国内の建設需要が今後も同水準で推移すれば、日系大手建設会社として、財務的にも問題ないと思われます。一方で、人口減少・高齢社会における建設需要がどの程度見込まれるかは不明なところです。そのため、地政学的なリスク分散として海外事業展開をしている、しようとしているのが、日系大手建設会社かと思います。
また、海外事業の収益性を上げるための企業努力が必要となると思われます。Part 3でも述べた通り、日本の建設事業の方が収益率が高いと推察されます。海外事業は、下請け業者のネットワークの確立や現地作業員の育成、事業所の設置等、様々なリスクがあります。そのため、海外事業への投資決定には、当該リスクの低減と高い収益率が必要です。非常に難しい命題だと思いますが、これから日系大手建設会社が取り組むまなければならない、宿命だと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?