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インフラ輸出について part1

インフラ輸出について、携わったことがある者として、備忘録的に徒然なるままに記録する。

インフラ輸出とは、道路や鉄道などの日本のインフラを海外へ売り込むという政策である。
聞きなれない人もたくさんいると思うが、実は海外の様々なところで、日本が輸出したインフラが使われている。
例えば、日立製作所の高速鉄道用の車両がイギリス国内で使われていたり、アジアとヨーロッパを結ぶボスポラス海峡トンネルは、大成建設が建設工事を行った。
このような事業がインフラ輸出と言われるものだ。

実は、インフラ輸出の歴史は古い。
古くは、約140年前の1897 年に、朝鮮半島の京城-仁川を結ぶ京仁鉄道工事の建設工事を日本企業が行っている。
また、戦時中は、日本国が占領した国のインフラ整備を行っていた。戦後はしばらく海外での事業はなかったが、1954年から戦争被害国に対する賠償のため、海外の建設工事が再開され、ODAを通じたインフラ整備が行われた。

このように、ODAなどの国際協力を通じて、日本のインフラを輸出することが多々ある。
道路や鉄道、港湾、ダムなどのインフラ整備には膨大な資金が必要だ。しかし、発展途上国にはまとまったお金がないケースがある。そのため、ODAを通じてお金を借りるか無償でもらい、その資金でインフラ整備を行う。
お金を借りた場合には、インフラ整備による経済発展から借りた資金を返済する。

実は日本もODAを通じて整備したインフラがある。
意外と知られていないが、東海道新幹線(東京~大阪)だ。
このプロジェクトは、世界銀行からの借り入れ資金で建設したものであり、つい30年ほど前の1990年に返済を終えた。
他ならぬ日本も他の発展途上国と変わらず、ODAを通じたインフラ整備で経済成長をした国である。(もちろんすべてのインフラ整備が、ODAを通じたものではない。)

今の日本のインフラ輸出とは、どのようなものだろうか?
まず、世界の現状として、今の国際開発市場においては、発展途上国側(開発援助を受ける側)の方が選択権がある。買い手市場であるということだ。
過去に比べ、開発援助を行う国や機関が増えたことから、発展途上国側が自由に選択できることが多くなった。つい7年ほど前、インドネシアの高速鉄道事業の受注をめぐり、日本の新幹線と中国の高速鉄道が競い合い、中国が勝利したことは記憶に新しいだろう。

このような状況のため、開発援助を行う側は、他との差別化を求められるところだ。
では、日本のインフラ輸出は、他の国とどのように異なるのだろうか?

一つの大きな柱となる考え方は、「質の高さ」である。日本政府は「質の高いインフラ投資」と呼んでいる。
日本のインフラは、高価だが長持ちする。そのため、初期費用が高いと考えられることが多いが、10~20年ぐらいの長期的な期間で見れば、コストは高くない。ライフサイクルコストが低いと言われる。
このような考え方は、世界銀行の入札書類でも今年の9月から標準化されることが提示されており、持続的な開発のための一つの考え方として定着しつつある。日本的な開発援助方式が標準化されつつあるところだ。

もう一つの柱は、人材育成である。日本のインフラ輸出において、コアとなるもう一つの考え方である。
インフラ輸出というと日本企業のみで実施するようなニュアンスがあるだろう。
しかし、開発援助する国にとっては、インフラが完成した後、維持管理を行っていかなければならない。
日本においてもインフラの維持管理(メンテナス)は重要事項だ。2012年の「笹子トンネル天井板落下事故」により、走行中の3つの車両が下敷きになり、9名の死者がでた。な原因として、十分な点検が行われていなかったことが挙げられ、この事故以降は、インフラメンテナスの重要性が認識された。
このように、インフラ整備後のメンテナンスも非常に重要であることから、発展途上国の技術的な人材育成も重要な観点であり、日本のインフラ輸出においても重要な柱である。

ODAなどの政府からの貸付資金を活用したインフラ整備により、経済成長を実現する国々は多々ある。
しかし、時に問題となる事業も存在することも確かだ。
ODAではないと思われるが、スリランカのハンバントタ港建設プロジェクトである。このプロジェクトは、約1440億円の建設工事で、大半が中国からの借り入れにより実施された。
2010年に完成したものの、スリランカ政府が借入の返済がすることができなかったため、一部の債務返済を免除する代わりに、ハンバントタ港の運営権を中国国営企業に99年間貸与することなった。
この事案は、「借金の罠」の代表事例として、海外のメディアでよく紹介されている。
問題となったのは、「そもそも借金返済能力を考慮した貸付だったのか?」という点だ。
つまり、ハンバントタ港の運営権を手に入れるために、意図的に返済ができないような貸し付けを行ったのではないか? という疑惑である。
しかも、この港湾は中国の「一帯一路」のプロジェクトの一つとして位置づけられているところが、中国政府が戦略的に行っているのではないかと考えられている要因だ。
港湾の運営権を他国に譲渡するリスクは、軍事利用される可能性があることだ。実際に昨年の夏に中国の観測船「遠望5号」が、ハンバントタ港に寄港した。(中国は、必要物資の輸送と説明している。)

インフラ輸出は、国際政治のカードとして使われる側面もあり、純粋な開発協力ではない。また、民間企業のグローバル戦略にも関わる内容であり、非常に複雑な政策であると思われる。なかなか認知度は高くない政策だと思うが、面白い領域であると思われるので、今後も注目していきたい。

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