サクヤ姫と三皇子
天孫降臨し、笠沙の地で木花佐久夜毘売と出会った邇邇芸。
サクヤ姫に求婚したニニギですが、添えられた醜い姉を追い返し、サクヤ姫と結婚します。
不貞の疑い
ニニギの子を身籠ったサクヤ姫ですが、不貞を疑われてしまいます。
木花佐久夜毘売、参出て白しけらく、「妻は妊身めるを、今産む時に臨りぬ。是の天つ神の御子は、私に産むべからず。故、請す。」とまをしき。
爾に詔りたまひけらく、「佐久夜毘売、一宿にや妊める。是れ我が子には非じ。必ず国つ神の子ならむ。」とのりたまひき。
意訳：サクヤ姫は「あなたの子を身籠り、今、臨月になりました。この子は天の神の子ですから、勝手に産めないので知らせに来ました」と告げました。
するとニニギは「サクヤ姫、一晩の契りで妊娠したのなら、私の子では無いだろう。きっとの地上の神の子供だろう」と言いました。
＊天つ神（天津神）は天上界の神、国つ神（国津神）は地上界の神を指します。
火を放ち疑いを晴らす
「吾が妊みし子、若し国つ神の子ならば、産むこと幸からじ。若し天つ神の御子ならば、幸からむ。」とまをして、即ち戸無き八尋殿を作りて、其の殿の内に入り、土を以ちて塗り塞ぎて、産む時に方りて、火を其の殿に著けて産みき
意訳：「妊娠した子がもし地上界の神の子ならば、無事に生まれないでしょう。もし天上界の神の皇子ならば、無事に生まれるでしょう」といい、すぐに戸の無い宮を建て、中に入り土で入り口を塞ぎました。そしてお産の時に、その宮に火をつけて子を産みました。
＊「八尋殿」とは、大きな殿舎という意味です。八尋という言葉は、「八尋和邇」「八尋矛」「八尋白智鳥」など古事記でよく使われています。
＊西都市には、ニニギとサクヤ姫が新婚生活のために建てた「八尋殿」が、史跡となっています。
火中で出産
故、其の火の盛りに燃る時に生める子の名は、火照命。此は隼人阿多君の祖。次に生める子の名は、火須勢理命。次に生める子の御名は、火遠理命。亦の名は天津日高日子穂穂手見命。
意訳：火が燃え盛るときに産んだ子が、火照命。隼人阿多君の祖神です。
次に産んだ子が、火須勢理命。次に産んだ子の名前は、火遠理命。別名は天津日高日子穂穂手見命。
＊燃え盛る火の中で、三皇子を産んだエピソードを「火中出産」といいます。
また、日本書紀では火闌降命、彦火火出見尊、火明命の順で産まれます。
＊隼人阿多君は薩摩半島に居住していた「隼人」の祖神。大隅半島には、同族の大隈隼人が居住していました。
酒の神、サクヤ姫
日本書紀には、サクヤ姫が酒を醸し奉納する場面があり、その事から酒の神としても祀られています。
時神吾田鹿葦津姫、以卜定田、號曰狹名田。以其田稻、釀天甜酒嘗之。又用淳浪田稻、爲飯嘗之。
意訳：神吾田鹿葦津姫（サクヤ姫）は、神に供える田を占いで定め、狹名田と名付けました。その稲で酒を醸しました。また、米を新嘗祭で奉納しました。
＊「吾田（阿多）」は、鹿児島県の薩摩半島西部の沿岸地域の旧郡名です。「天甜酒」は、米で仕込んだ酒で、アルコール分は低く酸味の強い濁酒ような酒だと言われています。
＊霧島市には、ニニギが初めて水田を作ったという伝説が残る「狭名田の長田」があります。
＊宮崎県西都市にある都萬神社は、サクヤ姫が甘酒を醸し、足りない母乳の代わりに三皇子に与えた故事から「日本清酒発祥の地」とされてます。
＊サクヤ姫が占いで稲田を選び、その米で父神の大山津見が酒を醸したという伝説もあり、京都市右京区にある梅宮大社では、大山津見を酒解神、サクヤ姫を酒解子神としています。
富士山の神として
富士山の御祭神である浅間大神はサクヤ姫と同一視され、静岡県富士宮市の富士山本宮浅間大社をはじめ、全国の浅間神社で祀られています。
火中出産の故事から、火山の富士山と関連がある女神とされます。
江戸時代の慶弔19年に成立した「集雲和尚遺稿」には、サクヤ姫は浅間神と記されています。
「此神者、木花開耶姫、天津彦々火瓊々杵尊妻也、浅間神、開耶姫之御子有三人、火闌降命、彦火々出見尊、火明命」
意訳：この神は、ニニギの妻で浅間神である。三人の子があり、火闌降命、彦火々出見尊、火明命という。
