現場主義
プライベートエクイティ投資に携わって17年になる。スモールキャップもラージキャップも経験したが、一つバリューアップにおいて正しいと信じているのは現場主義である。
取締役会や経営会議の場での議論やガバナンスも勿論重要であるが、バリューアップの真実は常に現場にある。小売なら売り場、外食なら店、メーカーなら工場、toBサービスならオフィスあるいはコールセンター。これらに用事なく行く事が極めて重要である。毎度現場に行く前に、オフィシャルに経営会議で議論してプロジェクト化したい気持ちにはかられるが、それでは大体現場に行くタイミングを計っている内に投資期間が終わる。投資が実行されたら、チームの誰かが現場で1日3時間は立ち、顧客や社員に声を掛け、気付いた事をマネージャーに聞く。1週間位は、それを繰り返す。
「なぜ、原料の受け入れは固体なのか。その後水に投入するのに、最初からスラリー(流動体)で受け入れない理由は?」
「生産シフトは何日前に決めているのか?それはどういう基準で決めているのか?また、シフトは何パターンあって、それぞれどういう理由で決まったのか?」
「廃棄が多く無いか。廃棄は誰がどうカウントしているのか?多い時のフィードバックプロセスはどう設計されているのか?」
「ランチタイムは待ち時間が長いと、顧客が苛立っている様に見える。声掛けの基準はどうなっているのか?」
これ位質問はイノセントでいい。また、現場のディテールに基づいているべきで、財務のKPIを聞く必要はない。現場のマネージャーに、「この機械のROIは?」などという質問を投げても、はかばかしい答えが得られないばかりか、ファンドのROIさんという渾名が付けられるのがオチである。
これを続けると、経営会議が如何に二次情報・三次情報に基づいて議論されているかが理解できる。ヒエラルキー構造で、上を向いた組織というのはそういったものである。経営会議というのは、マネジメントが聞きたい情報だけが取捨選択されて、報告される場に往々にしてなる。また、報告するラインマネージャーが優秀であればある程、巧妙に情報の非対称性が形成され、ラインマネージャーが願う方向に議論が進む。ラインマネージャーが粒ぞろいな組織であれば、それでパフォーマンスが上がる事もあるが、そうでないのが世の常なので、プライベートエクイティファンドの投資プロフェッショナルが率先して現場のディテールで議論を戦わせてみるべきである。それによって、組織が「下を向く」。
現場のディテールが問われる経営会議に臨むのであれば、ラインマネージャーは現場のディテールを知る様になるだろう。マネジメントが頻繁にお店に来て、その場で現場の悩みへのアイデアを出し始めたら、ラインマネージャーは先回りして現場の悩みを解決し始めるだろう。この「下を向く」ベクトルを持った組織における取締役会や経営会議は形骸化しにくい。若いファンドの投資プロフェッショナルが出来る一つの大きな役割は、このベクトルをもたらす触媒だと僕は思っている。