見出し画像

商業銀行から来た男

僕は日本興業銀行を経て、PEファンドの業界に入った。昨今のPEファンドの若手は、外資系投資銀行か外資系コンサルティングファームの出身が多いから、商業銀行出身者は珍しくなった。だからか、時おり商業銀行から来て大変では無かったのか、スキルはどう身に付けたのか、と聞かれる事があるが、そんなに大変では無かったというのが正直な所である。唯一、経験が全く無かった為、頑張ってキャッチアップし、未だにキャッチアップ過程にあるのは、コンサルティングファーム的なイシューアナリシスやインサイト導出だろうか。

PEファンドの若手に求められるスキルは多種多様だが、アウトプットの出力媒体は概ね4種類だ。Excelのスプレッドシートか、Powerpointのスライドか、Wordの契約書か、口頭・メール・電話等によるコミュニケーションである。スプレッドシートで言えば、僕は銀行でデリバティブのセールスとマーケティングを3年弱担当していた為、M&Aの財務モデルはオプションのプライシング、特に経路依存型のそれと比べると随分とシンプルに感じ、教科書を読んだら大体は対応できるレベルであった。Powerpointは大学のゼミの発表から使い始め、アルバイト先の三和総研でも見様見真似で用い、銀行でも顧客向けのプロダクトの提案書は、ほぼPowerpointで作っていた為慣れていた。Wordも銀行で用いた不動産ノンリコのローンアグリーメントやISDAのマスター契約はかなり複雑であり、SPAやLBOのローンアグリーメントの複雑性や分量自体への驚きはなかった。また、送る相手、あるいは集団の年次や部署によって、複雑な変化を要求され、かつ過ちを犯すと上司から「お粗末!」と詰められる銀行内の口頭・メール・電話でのコミュニケーションと比べれば、ファンドで使われるコミュニケーションはずっと簡素である。PEファンド業界に特異的なナレッジは、入社時に明らかに足りていなかったが、アウトプットとして出力するスキルは最初から割と足りていた、という事だと思う。

イシューアナリシスやインサイト導出に最初苦労したのは、これに限ってはアウトプットとしてデリバーするものが、上記の4種類ではなく、知的分析や問題解決そのものであったからだと思われる。

Microsoft Officeとコミュニケーションは、極めてジェネリックなスキルではあるが、アウトプットの品質は、アウトプットを作る道具を扱うレベルを超える事は無いから、道具を大変うまく使えるには越したことはない。ヘッドスピードが45m/sを超えなければ、どんな業師でもドライバーショットで平均280ヤードは打てないのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?