外国人労働者プログラムの実態を深掘りしてみた
ご相談を受けている中で、よく話題に上がるカナダ国内での就労の手段。その中で、かなり多くの人がカナダに残る手段として”雇用主からのサポート"を得てワークパーミットを取得することを考えていると思います。以前から、ワーキングホリデーのワークパーミットが失効した後の手段として利用している人が多かったのですが、コロナ以降は私立の学校を卒業されている方も増えてきて、Post-Graduation Work Permit(PGWPと呼ばれ、カナダが指定した学校を卒業した後に申請することができるワークパーミット)の参加資格がなかったり、もしくはコロナの影響でた度々行われたPGWPの延長対象外だったり、PGWP期間中に永住権申請をすることができない場合のワークパーミット申請の手段として考えている人が増えているような気がします。
この”雇用主からのサポート”というのは、多くの場合はTemporary Foreign Worker Program(TFWP)を指し、カナダの雇用主が主導となってLabour Market Impact Assessment(LMIA。LMIAについては少し詳しいことを後で説明しています)という書類を得て、外国人労働者がワークパーミットを申請するという流れになります。以前、”カナダ留学=永住権”を深掘りしてみでも触れた、永住権取得の王道パターンとも言えるカナダ留学→PGWP→永住権と同じくらいに永住権申請の手段として広く認知されているのではないでしょうか?しかし、このプログラムがどういうものなのかを理解している人は、”サポート”する側もされる側もあまり理解していないような気がします。また、最近大きな変更があったことで、このことについて詳しく知りたいと思っている人もいるのではないでしょうか?(今回の変更だけ知りたいよー!って方は”Low-Wage Streamの変更について”までスキップしてね。)
ということで、カナダの外国人労働者プログラムであるTemporary Foreign Worker Programについて深掘りしていこうと思います。留学生について書いた時もそうだったのですが、書いているとどんどん長くなってしまったので、とりあえず今回はTemporary Foreign Worker Programについて。分けているにも関わらず、いつもの通り長くなってしまうんだけど、これから”雇用主にサポートしていたいなー”とか雇用主の人に”ワークのサポートするよ!”って言われている人は、実際はどういうものなのかを理解して決めてほしいなーと思います。ただし、今回の記事は余計な情報も多いし、正直プロでもあまり知らないであろう情報も含まれていてめちゃくちゃ細かいので、全部読む必要はないかも。。。笑
そもそもTemporary Foreign Worker Program(TFWP)ってなに?
簡単に言ってしまえば、カナダ国内で必要な人材を確保することができない雇用主のために、一時的に外国人労働者を雇うことができるようにするための救済措置のためのプログラムです。早速、あれ?って思った人いますよね?そう、このプログラムはあくまで人材不足という要因で会社の運営に悪影響が出ないようにするための雇用主のためのプログラムなのです。
しかも、位置付けとしては、最終手段。”サポート”という言葉を使われるので、外国人労働者がカナダで就労するための手段という印象を持っている方もいるかもしれませんが、TFWPの本当の目的は、雇用主の労働力不足の解消。そして、経済的効果です。経済的効果という言葉を使うと語弊を生むかもしれませんが、足りない労働力を外国人労働者を雇用することで補って、企業が経済的打撃を受けないようにしようという意味合いがあります。
Temporaryという名がついている通り、外国人労働者の雇用は一時的であって、長期的に利用するということではありません。そのため、TFWPに参加する際は、カナダ国内の労働市場に悪影響を与えないこと=カナダ市民や永住者の仕事を奪わないことが条件になります。当たり前ですよね。外国人労働者を雇うことで、失業する人が出てしまったら、プログラムの目的から逸れるし、自国で労働力を確保できるのであれば、自国民に働いてもらって税金を納めてもらうのがいちばん効率がいいです。だから、そもそもTFWPは外国人労働者をサポートするということを目的とはしていません。
ではなぜ、サポートという言葉が頻繁に使われているのでしょうか?それは、外国人労働者がカナダで働く際に必要になるワークパーミットを申請するのに、LMIAが必要になることが多いからです。冒頭でも触れましたが、TFWPを利用して外国人労働者(打つのが面倒になってきたので以下TFWに省略します笑)を雇用するためにはLMIAが必要になります。すっごい簡単にいうと、LMIAはカナダの雇用主がTFWを雇うために必要な許可証みたいもの。(ワーキングホリデーやPGWPみたいにLMIAが不要な場合もありますが、なかなか条件を満たすのが難しかったりします。)ただ、LMIAは目的別に使い分けられていて、ワークパーミットの申請ができない種類もあります。ざっくり分けるとTFWがワークパーミットを申請できるようにするためのワークパーミット、Express Entryでの加算がされるPermanent Residence、そしてその両方を担うDual Intentの3つ。それぞれの特徴はざっくり以下の通り。
上記の表を見ていただけるとわかりますが、永住権に関連する場合は職業はTEER 0, 1, 2, 3のいずれかになり、TEER 4または5は対象外になります。これはPermanent Resident LMIAがSkilled Worker職と呼ばれる職業にのみ適応されるためです。まぁ、このLIMAはExpress Entryでの加算対象になる=Skilled Workerということを考えれば当たり前なのですが、意外と知られていなかったりします。そして、LMIAは条件的なことを言えば今はHigh-wageとLow-Wageで分かれています。High-WageとLow-Wageは州の平均的な給与を基準にして決められるため、申請する州によって若干変わってきます。条件いついてはそんなに大きく変わらないのですが、求人広告についてやTransition Planの有無なのどに影響します。
TFWPの特徴の一つとして、ワークパーミット用のLMIAを利用してワークパーミットを申請した場合は、TFWはLMIAを取得した雇用主の元でしか働くことができず、また職業もLMIAを申請した職業に限定されるというのがあります。雇用主の制限なく働くことができるワーキングホリデーで取得したワークパーミットやPost-Graduation Work PermitがOpen Work Permitと対照に、LMIAを利用して取得したワークパーミットがClosed Work Permitと呼ばれるのは、働く場所と職業が限定されることに起因されます。この限定的なワークパーミットというのは、これからTFWPの実態について深掘りする上ですごく重要な要素になってきます。
ちなみに、結構勘違いしている、もしくは知らない人もいると思いますが、LMIAの申請はEmployment and Social Development CanadaのService Canada(ESDC)という政府機関が審査、発行を行います。一方で、ワークパーミットの申請はImmigration, Refugee and Citizenship Canada(IRCC)へ行います。ESDCもIRCCもカナダの政府機関であることは共通していますが、それぞれ担当しているものが全く違うので、LMIAとワークパーミットの条件はもちろん違うし、審査の基準も全く異なります。さらに細かいことを言うと、ワークパーミットの申請条件は共通しているのですが、カナダは州や準州によって労働基準法が異なります。なので、ESDCがLMIA申請などの監査をするのですが、各州・準州によって雇用主が満たしていなければいけない雇用条件も変わってきます。ESDCが必ずしも労働基準法について細かく監査するわけではないことがLMIAの抜け穴になっているのですが。。。(本当はするべきだし、その点においてはもっとLMIA承認において重要な要素であるべきなんだけど。。。)
ほかにもサポートと呼ばれる要因があります。今までの話の流れから察する人もいると思いますが、LMIAは雇用主が申請者であり、雇用主がしなければいけないこと。だから、LMIA申請にかかる費用は全て雇用主負担です。外国人労働者にLMIA申請の費用を含め、広告費、コンサルタントの代理申請費などの費用を負担させるのは違法です。
TFWPの条件
TFWPの実態に触れる前に企業がどのようにしてTFWを雇うことができるのかというのを簡潔ですが触れていこうかなーと思います。昔の条件に関してはあまり詳しいことは知らないので、現在の条件についてざっくり触れていこうかと思います。
まず、一番最初にLMIA申請をする会社について。ごく稀に、LMIA申請のために会社を作るというケースがあるため、会社が利益を生み出すための経済活動をしているかどうかという当たり前のことも見られますが、それ以外にも会社がその州や準州の労働基準法に則って会社が運営されているか(過去に労働基準法に違反しているか、現在労働争議などがあるか)などが見られます。また、会社がTFWを雇うために十分な利益を生み出しているかどうかというのも見られます。これは、会社がTFWに対して十分な給与を払うことができる経済的能力があるかどうかですね。
そして、先ほど触れたカナダ市民や永住者の仕事を奪わないこと。具体的に何をするかというと、カナダ国内でのカナダ市民権・永住者を対象とした採用活動。一部の職業や条件を満たしていればTFWPの雇用努力証明が不要な場合もありますが、一般的には必要な場合が多いです。この採用活動はLMIA申請前にしておかなければいけない上、広告を出す場所や期間や広告内容など。Low-Wageの場合は、Underrepresented Groups(新移民や先住民、障がいを持っている人など。最近はワークパーミットを所持した避難民も対象となっています)と対象として広告の記載も必要になります。また、カナダの政府が運営しているJob Bankで広告の記載はLow-Wage、High-Wage共に必須ですが、どちらで申し込むかによってJob Matchという機能を使って誰を招待しなければいけないかが変わります。採用活動は求人広告やJob Matchを利用すればいいというわけではなく、面接等もしなければいけません。TFWPは”カナダ国内で雇用を見つけることができない雇用主のための救済措置”という名目上、求人広告を含めた採用活動はLMIAの申請前に行い、LMIAが発行されるまで継続的に行う必要があります。(まぁ、LMIA申請前に誰を雇いたいか決まっていることが多いので、建前上の採用活動であることが多いです。。。)
次に雇用。求人広告に記載された職業が会社にとって本当に必要なのかどうか、その職業が会社が提供しているサービスや商品と合致しているかだけではなく、雇用条件についても詳しく見られます。LMIAを申請する場合はTFWに支払う賃金は各地域のその職業の平均的給与以上である必要があります。また、業務内容もNOC(National Occupational Classificationと呼ばれるカナダの職業を分類するシステム)の内容と合致している必要があります。TFWPを利用する場合は雇用契約書が必須になるので、雇用契約書に必要事項が記載されているか、契約書内容が州・準州の労働基準法に反していないかどうかなどが見られます。
そして、最後に労働環境。労働環境は色々な側面があるのですが、その州や準州の労働基準法に則って会社が運営されているかどうかというのをみるために、過去に労働基準法に違反しているか、現在労働争議などがあるかなどが見られますが、それ以外にも職場の安全性やTFWに対して必要最低限の健康保険をなども見られます。Low-Wageの場合はTFWが規定の割合を超えていたらLMIA申請ができなかったり、High-Wageの場合はTFWに依存しないようにTransition Planと呼ばれる計画を提出して、今後どのようにしてTFWを減らしていくかということを説明する必要もあります。他にもLow-Wageの場合はTFWの居住の手配、カナダ国外から勤務先までの交通費の負担に関してなど細かく決まっています。
かなりざっくりしていますが、LMIA申請には細かく条件が決まっていることはなんとなくわかっていただけたかと思います。現在でこそTFWPの条件はかなり細かくなってきていますが、実はこの条件は形骸化していた時期がすごく長く、個人的には現在のTFWへの問題に大きく影響していると思います。これは、今までのTFWPの歴史をみてみるとわかりやすいかもしれません。
TFWPの歴史
実はあまり知られていないと思いますが、カナダの移民においてはTFWPはかなり長い歴史があります。まぁ、知らなくてもいいかもしれないのですが、どういう経緯で今のTFWPが作られたのか、そして今のTFWPの状況がどうやって作り上げられてきたのかを知る上では大切かなーと思います。現在のTFWPの実態を語る上で必ず必要かというとそうでもないかもしれないのですが、今の形に至るまで多くの問題を隠し、都合のいいように変えてきているので、TFWPの変遷を知ることは、現在の問題について理解する上でとても重要だと思います。
TFWPの起源: Seasonal Agricultural Worker Program
TFWPの始まりはSeasonal Agricultural Worker Program(SAWP)という農場などでの季節労働者不足を解消する目的で1966年に作られました。そもそもこのプログラムは元々は農場などでの季節労働者不足を解消する雇用主ためにできたプログラムで、名前から察することができるようにSAWPは農業に限定されているので、他の業種でTFWを雇用する目的では使われていません。50年以上も前のプログラムなので自分もあまり詳しいことは知りませんが、現在のSAWPと大きく変わらないのではないかと思います。(そう、50年以上経過した今でもSAWPは存在しています!)SAWPはカナダと特定の国との提携のもと成り立っているので、どの国の人も参加できるというプログラムではありません。SAWPに参加できるのはメキシコやジャマイカといったカリブ海諸国です。Temporary Foreign Worker Programという名前ではないにしろ、カナダはSAWPを通して不足している労働力を一時的にTFWを受け入れることで農業への経済的打撃を軽減します。Seasonalという名が付く通り、このプログラムを利用してカナダに来ることができるのは、短期間のみ。翌年参加することはできるけど延長はできません。(もうこの時点で、労働力の使い捨て感が出てる。。。)何度SAWPに参加しても、永住権を取得することはできません。なんだったら、カナダに滞在している8ヶ月の間はフルタイムというのが保障されているわけでもなく、労働環境も決していいとはいえず、現在もこのプログラムに関しては時折ニュースになっています。
全ての始まり:Temporary Foreign Worker Program
今から約50年前の1973年にはTemporary Foreign Worker Program(TFWP)が正式に作られます。こちらに関しても自分はあまり当時の詳しいプログラム条件は知らないのですが、当時はHigh Skilled Workerという技術労働者に限定した形だったようです。High Skilledという定義は時の流れで少しずつ変わってくるので、このプログラムができた当初どのような職業をターゲットにしていたのかやどの職業でワークパーミットの発行が多かったのかなどの具体的なデータは手元にないのでわかりませんが、現在のカナダが行っている政策と似ている気がします。TFWPが作られた当初の目的としては、カナダ国内で不足している技術労働者をカナダ国内で見つけることができないため、不足している労働力を補うと共に、雇用主が不足している人材を育てるコストの削減をして経済的効果を生み出すというものです。当時、カナダ国内では経済の成長に合わせた人材を得ることができず、特にAB、MB、SK州での労働者不足は深刻だったようです。かといって雇用主が人材を得るために給与を上げ続けると急速なインフレに繋がるとの懸念があったようで、”それならカナダ国外から労働者を受け入れて、人材不足を補おう!”という結論に至ったようです。時が経てば、労働市場も変わるのですが、50年も前から問題となっている労働者不足をTFWで補い、カナダ国内から必要な知識や技術を持った人材を育てることができていない時点で、カナダの教育システムが経済的な需要と合致していない証拠だと思うのは自分だけでしょうか。。。?笑
Non-Immigrant Employment Authorization Progmra(NIEAP)の一環として始まったTFWPですが、すでに現在と似たような制限がTFWに設けられていたようです。TFWがカナダへ来る前から、雇用形態、雇用先、業務内容や職業、雇用期間など雇用に関することが事前に決められており、Citizenship and Immigration Canada(CIC: Immigration, Redugee and Citizenship Canada以前のカナダの移民に関する業務を担っていた政府機関)の許可なしに、カナダ入国後にこれらの条件を変えることはできませんでした。この点においては、現在と大きく変わっていません。また、Non-immigrantとあるように、最初からTFWを永住者として受け入れるためのプログラムではなく、カナダ国内で不足している労働力を一時的に補うためのもので、TFWが永住権を申請できるというものではありませんでした。この時点で、カナダが欲しいのは足りていない労働力。労働者ではないことがわかると思います。
各家庭から雇用を生み出す:Live-In Caregiver Program
しばらく時間が経って、1992年にはLive-In Caregiver Programが作られます。このプログラムは厳密にはTFWPとは別のプログラムですが、この時点ではまだTFWPを利用できるのはSAWPを除いてHigh Skilled職だけでしたが、Live-In Caregiver Programができることによって、本来は雇うことができないナニーなどの職業でTFWを雇うことができる用になります。このプログラムはデイケアや老人ホームなど高額な費用を抑えて、住み込みの世話で子供や障がい者のサポートしてくれう人を雇うことができるようにするためのプログラムでした。言い換えれば、家族の面倒をTFWに任せて家族が働くことで、経済的効果得るためのプログラムです。(もうこの響きのヤバさはどこから突っ込んでいいかわからない。。。)このプログラムは既になくなってしまっていますが、プログラム発足当初のデータこそないものの、2008年にはLive-in Caregiver Programを利用する人がピークを迎えLive-In Caregiver Programを利用したワークパーミット所持者は32,605人でした。
それもそのはず。このプログラムはTFWPやSAWPとは違い、Low- Skilled職で唯一TFWがカナダで長期間働くことができ、しかも永住権申請をすることができたのです。現在も状況は似ているのですが、Temporaryという名がついているだけあって、TFWPを利用してカナダで働いていても、永住権につながるわけではないのですが、このLive-In Caregiver Programは最初から”永住権という名のご褒美”が約束されていました。
しかし、多くの人が利用する一方で、Live-Inという名前がついているように、雇用主の家に住み込みで働くことで様々な問題が生まれます。しかも、雇用主は一般家庭であることがほとんであるため、監査がほとんど入らず、野放し状態。結果的に、Live-In Caregiverとして働くTFWは長時間の労働を強いられたり、規定以上の時間を働いてもOvertime(時間外手当)は支払われなかったりということが当たり前のように行われていました。しかも、当時は最低賃金でTFWをナニーとして雇うことができた上に、居住や食事の費用を給与から控除することができたため、ひどいケースだと手元に残るお金がほとんどないということもあったようです。雇用主を変えることはできたものの、審査期間が長いことや新しい雇用先の確保などが困難だったため、どれだけひどい労働環境でも永住権申請をするための条件である2年間の就労経験を得て、永住権を取得するまで雇用先を変えることはあまり現実的ではありませんでした。さらに、この当時はLive-In Caregiverは家族と一緒にカナダへ来ることができなかったため(実際は可能と言えば可能ではあったのですが、配偶者がワークパーミットの申請をすることができないため、ビジターでのカナダ滞在になってしまっていました)、永住権と取るまで4・5年家族と離れ離れというのはごく当たり前でした。。。
Live-In Caregiver Programを利用した90 %以上は女性で、多くはフィリピン出身の方です。家族を自国に残し、将来カナダで家族と暮らすことを夢見て、Live-In Caregiverとして働くためにリクルーターを利用しカナダに来ている人が大半で、リクルーターに多額のお金を払って雇用先を見つけていた人が多かったようです。どんなに酷い状況でも、稼いだお金を送金し、辛い労働環境を乗り越えた先に”家族とのカナダ移住”を夢見て、職場を変えずに苦汁を嘗める日々を過ごしたのはお母さん達でした。。。少し話はそれますが、リクルーターや正しい知識がない人たちに、家族がいることを移民局に言わないほうがいいという話を聞き、それが原因となって永住した後も家族を呼び寄せることができない人が多かったのもこのプログラムを利用した人が多かったようです。。。家族がいることをリスクと考えていた人が多かったので、当然家族と一緒にカナダへくる人はいませんでした。
永住権のために高いお金を払って、しかも劣悪な労働環境で働いているLive-In Caregiverの権利に関しては問題視されていましたが、2010年にようやく雇用主が旅費を支払うことが義務付けされ、雇用にかかる費用も雇用主が負担することになりました。上記のグラフで2010年以降申請が減っているのはこの変更があったためです。
余談ですが、2010年の変更前まではLive-in Caregiverとして働いていても、ワークパーミット申請時と永住権申請時にそれぞれ健康診断が必要だったのですが、フィリピンからLive-in Caregiverとして働いていたJuana Tejadaさんが永住権申請をする際に癌を患っていることが発覚し、永住権が不承認となったケースがありました。永住権取得間際で健康に問題があることが原因で永住権が不承認になっただけではなく、退国命令が出されてしまいます。しかも、彼女は治療費を払うことができなかったため、治療を先延ばしにすることを決意。彼女の境遇が知れ渡り、労働者、特にLive-In Caregiverについての権利について話題になり、結果としてJuana Tejada Lawができ、2010年のLive-in Caregiver Programの改善以降は2度目の健康診断が不要になるなど大きな影響を与えています。39歳という若さで命を落としてしまったJuana Tejadaさんですが、カナダの移民の制度が機能していれば、より早く癌の治療をすることができ、もしかしたら癌を乗り越えて今も生きていたのではと思うと残念でなりません。。。
TFWPの拡大:Low-Skilled Stream
問題だらけのLive-in Caregiver Programができた10年後の2002年にはLow Skilled Workerでの申請も可能になります。SAWPやLive-In Caregiver ProgramもLow Skilledではあったのですが、Low Skilled Worker職での申請ができるようになったことよって、雇用主はより幅広い職業で外国人労働者を雇うことができるようになり、2006年には10年で約120%のTFWが増加し、2008年にはTemporary Foreign Worker(TFW)を初めとするTemporary Resident(TR)の数が永住者を上回りました。この数は留学生の数も含まれているので当然と言えば当然なのですが、”カナダ留学=永住権”を深掘りしてみた。でも触れましたが2008年以降は留学生の数も爆増するため、今ではTRの人数は永住者の人数を遥かに凌ぐ数になっています。
より多くの雇用主のニーズに応えLow Skilled職でもTFWが雇えるようになり、TFWPはより一般的にカナダ国内の雇用主の間で業種を問わず使われることになります。なんだったら、2006年にはカナダは”Reginal Occupations Under Pressure”という特定の職業リストを発表し、BC州とAB州の雇用主がより迅速にTFWを雇うことができるようにしました。
しかし、これによる弊害も出てきます。急速にTFWを様々な職業で受け入れたことにより、TFWに依存する企業が出てきました。本来は、カナダ国内で人材を確保できない雇用主のための最終手段としての位置付けだったTFWPですが、雇用するできるTFWの人数に制限がないことを利用し、半数以上をTFWで補う企業が出てきます。雇用主の要望に応え、その要望を聞いてTFWPが拡大した結果、”最終手段”という認識は完全になくなります。それどころか、本来であれば労働環境の改善や賃上げなどカナダ国内で雇用を増やすための企業努力をしなくて良くなります。一般的に言われている”TFWがカナダの雇用を奪う”というのは実は事実ではなく、TFWを雇用できる職業が増えたことにより、カナダ国内で”誰もしたくない仕事”をTFWが補うと言う構図が出来上がります。
それはそうなりますよね。冷静になって考えてみればわかることですが、雇えるTFWの数に上限もないし、職業の平均より低い賃金しかもらえないのであれば、カナダで働くことができるカナダ市民や永住者がその仕事をする理由がないので、カナダ国内で雇用が増えるわけないんですよね。その仕事のが肉体的・精神的に負担が大きいのであれば尚更です。実はこれはTFWPが始まり、High-Skilled職でしかTFWを雇うことができない時から懸念されていたことなのです。。。
しかし、この構図は本来のTFWPの目的は全く違う問題を生み出します。
元々、以前は学生がアルバイトで働いているファストフード店などではTFWの雇用を優先するということが起きてしまいます。これはTFWが他の場所で働くことができないことや永住権に繋がるというエサを与えることでTFWが一生懸命働くことにより職場で”使える”という考える雇用主が一部で増えてしまったためのようです。
問題はそれだけではありません。TFWへの搾取がより深刻になってきます。給与の面で言えば、2012年4月からTFWに対して雇用主はその会社で同じ職業で働いている従業員と同等の給与さえ払っていれば、その職業の平均の賃金(Prevailing wage)よりも低い賃金で外国人労働者を雇うことができました。(それ以前はどうだったんだって聞くのは野暮ですかね・・・?笑)結果的にどうなったかというと、TFWPはカナダで雇用を確保することができない雇用主のための救済措置であるにもかかわらず、カナダ市民・永住者がしたくない仕事を企業がTFWを雇って補うという構図が出来上がります。
なので、たった1年後の2013年4月にはTFWを雇う雇用主は平均の賃金またはそれ以上を支払わなければいけなくなりました。同時期に、TFWを雇う前に出さなければいけない求人広告のも従来の2週間から4週間へ延長され、求人広告にも細かい条件が追加されます。そもそも、最終手段だよって言いながら2週間の採用活動だけで良かったことが驚きです笑 2週間で採用活動が簡潔すること自体かなり稀だと思うのですが。。。笑
TFWの利用についてニュースで取り上げられ、このことが明るみになり話題になりました。議論がヒートアップしすぎてちょっと聞き取りにくいけど、TFWPの問題についての議論も繰り広げられていました。
TFWPの大幅改変:LMOからLMIAへ
2013年にTFWPに関しての問題が色々明るみになり、TFWPの条件など色々な変化がありましたが、翌年の2014年にはさらに大幅に改変が行われます。この改変は外国人労働者に頼り切った会社運営をしている雇用主が増えてきたことと外国人労働者に対する搾取を抑止する目的があります。1973年にTFWPが作られてから、ようやく外国人労働者の搾取に対して行動するとか狂気の沙汰。。。(この40年間何してたの?)余談ですが、Federal Skilled Trdes Programができたのも2013年です。改変の結果、Temporary Foriegn Worker Programに必要となる今まで雇用主が必要だったLabour Market Opinion(LMO)が現在と同じLabour Market Impact Assessment(LMIA)という名前に変わり、雇用主が負担する申請費は$275から$1,000へ大幅値上げ。しかも、これは外国人労働者1人に対しての申請費なので、5人外国人労働者を雇うのであれば申請費は$5,000になり、10人雇うのであれば、申請費は$10,000になります。申請基準にも変化があり、カナダ国内での雇用努力がより詳しく審査されるようになりました。(この時点でTFWに対して搾取が酷かったLive-in Caregierは廃止)
あと、2014年まではNational Occuaptional Classification(NOC。カナダの職業を分類するシステム。カナダの移民においてこの職業を分類するシステムはかなり重要)でSkill Levelで分けられていたものが、給与で分けられHigh-wageとLow-wageになりました。Low-Wage職は企業内(厳密にいうと、勤務先)で外国人労働者の雇用が10%を超えないように上限も設けられるようになりました。この改変が行われた時点で、外国人労働者が10%を超えている場合は最大30%という例外が設けられましたが、前述しているように、企業が外国人労働者に依存しないようにするために条件が大きく変わりました。(行動遅すぎ)外国人労働者の搾取を減らすために、罰則も厳しくなりました。(とは言っても、まだまだ緩いのだけど。。。)
意外と知らない人がいるけど、同年秋にはEmployment and Social Development Canada(ESDC: TFWPに必要な書類の審査を行う機関。TFWPに参加している雇用主に対しての監査も行います)が監査のために銀行や給与管理会社に対して銀行や給与に関する記録を強制的に提出することができるようになったりました。雇用主に対する目を光らせるようになった一方で、TFWのための相談窓口的なものもつくられ、TFWが政府に対して雇用主の不正を報告することもできるようになりました。しかし、この時点で雇用主から酷い扱いを受けていても八方塞がり。。。
また、先ほど触れたLive-In Caregiver Programは2014年のTFWPの改訂に伴って廃止されました。問題が多い中20年以上継続されましたが、違う形で永住権プログラムが作られ、雇用主と居住を共にする必要がなくなります。それでもすべての問題が解決されたわけではないし、今年もHome Child Care Provider/ Home Support Workerk系は新しく変わり、現在も未だに手探りのような感じなので、人気がある一方で未だに多くの課題を抱えていると思います。これだけの変化があっても、悪さをする人は法律やルールが変わっても関係ないんですよね。
TemporaryからPermanentへ:無期限に利用できるTFWP
あまり知られていませんが、2011年4月1日以降はTFWPを利用して取得できるワークパーミットは4年までという期限がありました。cumulative durationで4年というルールであったため、合計で4年間TWFPを利用していたら、それ以降はTFWPを利用してワークパーミットは取得できませんでした。Skill Level AやType 0の職業や永住権申請やは対象外であったものの、4年という上限に達してしまった場合は、その後の4年間はワークパーミットを取得できませんでした。(4-in, 4-outとか4&4 Ruleとか呼ばれてました)そのため、4年以内に永住権を申請しなければいけませんでした。
しかし、2015年に政権がLiberarlへ移り、2016年12月にこのルールが撤廃されます。これにより、事実上半永久的にTFWPが利用できることになりました。TFWPを利用したい人にとってはいいことに思えるかもしれないですが、これは実は今の状況に大きく影響しています。”カナダ留学=永住権を深掘りしてみた。やカナダ留学が永住権に繋がらない理由を読んでいただいた方は覚えているかもしれませんが、この変更が発表された時点でExpress Entryが導入されています。Express Entryとは簡単に言ってしまえば、永住権取得希望者を年齢や学歴、就労経験などでポイントを割り振り、ポイントが高い人を優先的に永住者として受け入れるシステムです。Express Entry導入直後は、offer of arranged employment(LMIAを取得している雇用主からのJob Offer)があればCRS(
Comprehensive Ranking Systemと呼ばれるポイントシステム。)600ポイントが加算されていました。
CRSスコアは1200が最高で、2015-2016年で永住権申請をするために必要となるCRSスコアは時折600を超えるものの500あれば招待状を得ることができました。つまり、600ポイントを得ることができるLMIAは永住権取得へのゴールデンチケットでした。
しかし、この4年の制限が撤廃される1ヶ月前に、LMIAで得られるCRSポイントが激減。職業に関わらず600ポイント得られていたものが最高で200へ変更されました。200ポイントを得られる場合はType 0のごく限られた職業だけになったので、実質LMIAで得られるポイントは50。以前の10分の1以下になりました。
全然TemporaryからPermanentじゃないじゃん!って思いましたよね?そう、全然Permanentじゃないんです。だって、永住権に繋がらないから。でも先ほど触れたように、2016年12月にTFWP利用上限が4年という制限がなくなります。この変更によりPermanentになったのは、本来は人材不足を解消するために利用できる一時的な救済措置であるTFWPの利用です。個人的にはカナダ国内での就労経験が長いとCRSポイントが増えることや、LMIAがあれば以前ほどではないにしろ50ポイント加算されることなどがあり、本来の目的とは違うLMIAの利用が増えた気がします。どれくらいの割合かはわかりませんが、半永久的にLMIAおよびワークパーミットの申請ができることを利用して、永住権申請の可能性が低いにも関わらず、何度もLMIA・ワークパーミット申請をする移民コンサルタントも出てきたような気がします。自分は移民コンサルタントとしては、一回で仕事を終わらせられるのが理想的であると思っていますが、それだと収益に繋がらないのも事実。LMIAを継続的に申請することで、安定した顧客維持と収益を確保している人もいるのがこの業界です。PNP申請資格を満たしているのに、永住権申請に関して誤った情報を与えられ続けた結果、過去に10年ほどLMIAとワークパーミットの申請を繰り返している人に出会ったこともあります。。。
より時代にあったTFWの受け入れへ:Global Talent Stream
カナダの政府がようやくTFWの権利や労働環境に対して行動し始めたかなーというのも束の間、2017年にGlobal Talent Streamという政府が指定した機関からの推薦がある場合や特定の職業(主にSTEM系)でLMIAを申請する場合は、急速に成長する革新的な企業の雇用を補助するために審査機関を短くするという別カテゴリーが出来ました。Global Talent Streamは政府が指定した機関からの推薦がある場合や特定の職業(主にSTEM系)でLMIAを申請する場合は、急速に成長する労働市場に対応するために申請費を短くするという目的があって、急速に成長しているTech関連の雇用主がより早くTFWを雇うことができるようになりました。今でこそLMIAの審査はかなり短くなりましたが、当時はLMIA申請にかなりの時間を要していました。そのため、2017年以前も需要が多い職業や給与の高い職業、雇用期間の短い短期の職業などを優先的に審査するような処置はされていました。LMIA申請の審査期間というのが国際的に急速に成長している業界ではこの審査期間がネックになっていたので、その雇用主のニーズに応える形でGlobal Talent Streamができました。(LMIA取得してからワークパーミット申請があるので、どっちにしろ時間はかかるのだけども。。。)しかし、Global Talent Streamは申請から大体2週間くらいで完了します。むしろ、2週間かからないことの方が多い気がする。そのことを考えると、いかにカナダがGlobal Talent Streamによる経済的効果を気にしているかがわかるかと思います。しかも、労働不足がカナダ国内で急速に発展している企業の成長の妨げにならないように作られたため、求人広告などの採用活動は不要。(あれ、カナダ国内での雇用を得られないというプログラム本来の目的は。。。?)とは言え、求人広告を含めた採用活動をすることが勧められており、申請時にも採用活動行なったか聞かれるし、採用活動の内容についても説明が求められる。。。
少し話はそれますが、Global Talent Streamは基本的にHigh-Wage のカテゴリーになります。これはLMIAの条件でも触れましたが、LMIA申請をする際は各地でのその職業の平均の給与以上をTFWに支払わなければいけないためで、Global Talent Stream対象の職業は州・準州の平均賃金より高いことが多いです。また、Global Talent StreamはHigh-Skilledの職業になります。参加資格のある職業は時代が変わっているので違うとは思いますが、Global Talent StreamはTFWPが一番最初にできた時と同じような感じになっているのではないかと思います。
TFW救済へ:Open Work Permit for Vulnerable Workers
Seasonal Agricultural Worker Programが開始された1966年から、TFWはずっと特定の雇用主の元でしか働くことができず、仕事を辞めてもワークパーミットが有効であればカナダに滞在することはできても、カナダで働くためには再度雇用主を見つける必要がありました。また、たとえ雇用主を見つけたとしても、ワークパーミットを取得するまで働くことができず、経済的理由により結局泣き寝入りすることが多かったのですが、2019年にようやくTFWの救済プログラムが設けられ、職場で虐待を受けている、または受ける危険があるTFWはどこでも働くことができるワークパーミットを申請できるようになりました。2014年以降、TFWが雇用環境について電話をして報告することはできたものの、雇用主との対立やその後の不当な扱いを恐れているTFWが多かったためあまり効果的ではなかったのに対し、TFWが同じ職場で働かなくてもいいようになったのはとても大きいです。こう考えると、TFWPの長い歴史の中で、TFW自身が労働環境や自身の権利がようやく行動を起こせるようになりました。2022年にはより雇用主の義務が明確に法律に明記されるようになりました。
しかも、このワークパーミットの申請はかなり審査が早く1ヶ月前後で終わることが多いため、危険に晒されているTFWが迅速に職場を離れることができるようになりました。給与から不当な控除をされてるなど雇用主から経済的な搾取を受けているTFWを考慮して、この種類のワークパーミットは申請費も無料。かなりTFWに寄り添った形でワークパーミットの申請ができるようになりました。
ただ、これは根本的な解決にはならず、あくまで一時的な救済措置。発行されるワークパーミットは最大1年間有効で、その間に新しい雇用主を見つけてワークパーミットの申請を行うことを目的としているため、延長はできません。TFWがワークパーミットを申請することができるようになったので、雇用主がTFWを完全に縛り付けるということができなくなったものの、TFWP自体に大きな変化が起きたわけではないので、根本的な問題はそのまま。
このプログラムが出来てすぐに、手探り状態で何件か申請をしたのは今となっては懐かしい思い出。。。ただ、このプログラムが出来て4年が経過しましたが、未だにこのプログラムの存在はあまり認知されていないため、利用している人はあまり多くないです。最新のデータはないのですが、2019年の発行数は230、2020年は575、2021年は882と毎年1000以下。
これはあくまで個人的な経験上だけでの話ですが、認知してたとしても、このワークパーミットを申請したことにより雇用主から仕返しされるのではないかという恐れや、発行されるワークパーミットの期間が1年間という限られた時間であること、そこからさらに滞在を延長するためには再度1年以内に永住権申請をするか、LMIAを取得してくれる雇用主を見つけなければいけないことなどがネックになり、申請まで踏み切る人が多くない印象です。事実、個人的にOpen Work Permit for Vulnerable Workersのお話をさせていただくことはありますが、実際に申請まで踏み切る人は10人いれば2~3人くらい。Open Work Permit for Vulnerable Workersの参加資格や労働者の権利についてはまた改めて詳しく書こうかと思います。余談ですが、もしこの記事を読んでいて雇用に問題がある方は、無償でOpen Work Permit for Vulnerable Workersについてのコンサルティングを行っているのでご相談ください。
コロナによるパンデミック。そして、再び雇用主と経済利益中心へ
2019年にようやくTFWが劣悪な雇用環境を逃げ出せる手段ができたと思ったのも束の間、世界的にコロナウィルスがが蔓延し、カナダに限らず多くの国で渡航制限が行われます。一時的にはTFWがカナダへ来ることもできませんでした。そのおかげで、TFWに依存している業種などでは雇用が激減し経営が困難になる雇用主が声を上げます。特に元々LMIA発行数の多い業種は多大な被害被っていました。コロナの水際対策として行われた入国制限により、TFWに頼っていた雇用主は深刻な人手不足に。Essential Serivceに従事する留学生の就労時間を増やしたり(困った時は都合よく留学生使うカナダ。。。)、食品加工や農業、運送関連でのLMIAの審査を優先的に行うなど対応をしていました。また、苦肉の策として、過去にワークパーミットを所持していたビジターに対して、カナダ国外へでなくておワークパーミットの申請を許可するようにしました。2022年には人材不足が特に深刻であった季節労働者に依存していた業種に関しては、本来は180日の雇用期間が延長されたり、LMIAの有効期限が本来の9ヶ月から倍の18ヶ月まで延長など色々な対策が行われました。人手不足が深刻だったため、もともとあったRefusl to Processという失業率が6%を超える地域では特定の職業でLMIAが申請できないとルールがありましたが、これも廃止され、失業率が高くても多くの職業でLMIA申請をすることができるようになりました。また、Low-Wage Streamは先ほど触れたように雇用できる人数に上限がありますが、全体の10%から20%へ増加。食品加工や木製製品工場、食品関連など人材が不足している業種に関しては、30%と大幅にTFWを雇える人数を増やしました。ついでに同じ時期に、High-Wage StreamやGlobal Talent Streamで働く人たちに対しては、ワークパーミットの有効期限を2年から3年に延長しています。コロナが落ち着いてきた2023年9月にはRecognized Employer Pilotが実施されます。これは特定の職業でLMIAを繰り返し申請している雇用主に対してのLMIA申請を簡略化することにより、審査期間を短くしてより効率的にTFWを雇うことにするためのものです。ここでもう一度おさらいです。LMIAの本来の目的はカナダ国内で必要な人材を確保が困難な場合の救済措置です。政府のみなさん、読んでますか?これが本来の目的ですよ?なんで申請の手順を簡単にするんですか?何考えて政策作ってんの?)ついでに、このプログラムを利用できる雇用主はLMIAの有効期間が36ヶ月。いや、待って。流石に優遇しすぎ。もう一度確認しますが、LMIAはTWFに依存している会社のためのプログラムではないです。が、そんなのお構いなしで、経済発展を優先させます。余談ですが、2022年頃からLMIA申請で本来行われるはずの電話でのインタビューが行われないケースが何件かありました。審査官によっては不承認にする前提で話を進める人もいたりするくらいで、このインタビューはLMIA申請においてかなり重要なのですが、LMIAのお仕事をさせていただく時は、大体雇用主の方にインタビューについてお話をするのですが、書類審査だけで終わることがありました。電話があっても、申請内容の確認だけであまり深く質問されないケースが多く、サクッと申請が終わること増えてきました。それもそのはず、審査官は本来必要な手続きを省くように指示されていたのです!(そのことについては有料ですが、Toronto Starで読むことができます)いくらなんでもコロナで失ったものを取り返す必要があったとしても酷すぎる。。。LMIAの審査を行なっているSerivice Canadaはパスポートの発行の問題も抱えていたので、人手不足も原因だと思いますが、審査手順を省くのは流石にアウト。。。これらの対策(?)が裏目に出て、すぐに手の平を返します。(まぁ、実際に原因はこれだけではないですが。。。)
2024年、外国人労働者の規制へ
2024年初めに留学生の受け入れの規制制限を導入することを皮切りに、32024年3月には政府はカナダが受け入れる一時滞在者(学生や就労者を含むTemporary Resident:TR)の数を減らすことを発表します。厳密に言えば、今まで制限なく受け入れていた一時滞在者においても永住者の人数と同じように年間の受け入れ人数を決めて、増えすぎないようにすることが今後の方針となりました。同時に、TFWPの見直しに関して言及されました。しばらく政府から公式の発表はなく、どのような見直しがされるのか様々な憶測が巡る中、Quebec州でLow-Wage Streamの利用が9月から6ヶ月間停止されることが発表されました。そして、その約1週間後の2024年8月26日にはカナダ全土において9月26日からLow-Wage Streamの利用に制限が設けられることが発表されました。申請する場所の失業率やLow-Wage Streamを利用して雇うことができる人数が変更されたため、TFWPの利用自体に制限がかかることになります。これらの変更については以下で少し詳しく書いています。
LMIA申請をすることができる雇用主がTFWPの規制が発表された2日後の2024年8月28日にはカナダ国内でビジターから就労者へのステータスの変更ができなることも発表。ただ、これは元々ワークパーミットを所持していた人たちを対象とした一時的な政策だったので、ビジターから就労者へとステータスを変更する場合は、コロナ前と同じように一度カナダを出て、再入国をするという従来のルールに戻りました。
コロナ禍では留学生をはじめとしたTRに依存していた部分がありましたが、コロナという問題がなくなり、その裏に隠れていた住宅や医療の問題、そしてインフレなどの煽りを受けて、TRはとても立場的に弱くなってきてしまいました。一般的に移民の受け入れに対しては先制的な声が多いカナダであっても、今は世論も変わりつつあります。結局のところ、”外国人”という立場はとても弱く、色々な側面において影響を受けやすいことがより明確になってきたような気がします。まぁ、元からそういう部分はあったんだけれど、政府の対応が2025年の選挙を意識しているのか、一般的にわかりやすいものになってきている気がする。わかりやすくて問題解決に繋がっていればいいんだけど、実際そうじゃないことが多い気がする。。。
Low-Wage Streamの変更について
じゃ、今回どんな変化があったのかについて、一つ一つ触れていこうかなーと思います。条件でも触れましたが、雇用主が申請しなければいけない書類ではありますが、これからLMIAを利用してワークパーミットを申請したいなーと思っている人に関してはかなり大きく影響するので、知っておいて損はないと思います。詳しく進める前に、おさらいですがLow-WageかHigh-Wageかの賃金は各州によって異なります。2024年9月現在は以下の通りになっています。
失業率が6%を超える地域では申請ができない
食料維持に関わる農業や食品加工、医療、建設関連の職業を除き、失業率が6%を超える都市部ではLMIAの申請ができなくなります。これは前からアルバータ州の特定の職業にも適用されていたし、失業率6%を超える場合は宿泊・飲食業などの特定の職業でのLMIAは申請できないRefusal to Processというルールがあって、コロナの影響でRefusal to Processが廃止されていたのが、同じルールにするのではなくLow-wage全体で適用されるようになったという形になっています。前までは職業が限定されていたけれど、Low-Wage全体になるというのが結構大きくて、職業に関係なく失業率が高いと都市部ではLow-WageではLMIAが申請できなくなってしまう。サービス業などはターンオーバーが早く、都市部でも人が必要になることが多かったりしますが、給与がHigh-Wageになることが少ない。よって、失業率次第でLMIAからワークパーミット申請への道が絶たれてしまう。失業率が6%超えなければいいんだけど、トロント、ハミルトン、ロンドン、ウィンドサー、カルガリー、エドモントンなどなど、なかなかの数の都市で失業率が6%を超えています。よって、これらの都市ではLow-wageでワークパーミットを取得することができなくなるので、一部の人にとってみればかなり大きな影響が出ると思います。
雇うことができるTFWの上限が10%になる
これはあまり馴染みがない人もいるかもしれないけど、LMIAを利用して雇うことができるTFWの人数の上限が会社の全体の10%を超えて雇うことができないというもの。先ほども触れましたが、これは会社がTFWに依存しないために設けられたものです。2024年3月に上限が減ることが発表されたから、ペースは早いもののコロナ前の数値に戻しただけ。多くの人が職を失っている中で、コロナ禍でLMIAの割合を増やし、TFWを雇いやすくしたこと自体が愚策だと思っているので、ようやく間違いを正したかというのが個人的な感想です。この上限は失業率と同様で、食品加工、医療、建設関連の職業は対象外になります。また、厳密にいうと、TFWPを利用して雇うことができる人数の上限になるので、TFWPを利用せずにワークパーミットを取得している人は、TFWとしてカウントされません。なので、PGWP所持者や永住権申請が完了していてBridging Open Work Permit(BOWP:永住権を取得した人が、永住権申請の審査が完了するまでカナダで働き続けるために取得することができるワークパーミット)を取得している人はカウントされません。具体的な例を出すと、会社で働いている人数が20人で、そのうちPGWP所持者が3人、ワーキングホリデー参加者が2人、BOWP所持者が1人、それ以外の人が永住権または市民権を持っているとします。この場合、この会社がLMIAを申請し雇用することができるTFWの数は、全体の10%の2人まで。PGWP所持者、ワーキングホリデー参加者、BWOP所持者は外国人労働者ーTFWであることには変わりませんが、ここでいう上限ではTFWとしてはカウントされません。
申請できるワークパーミットの期間が1年間になる
LMIAを利用したワークパーミットの有効期限は今まで2年間だったのが、1年間に変わります。これにより、今まで以上に”Temporary"の側面が強くなります。とはいえ、最大何年というような縛りがないため、1年を超えてTFWPを雇いたい場合は単純にLMIA申請の頻度を増やすことになります。個人的にはこの変化が、一番大きいと思っています。LMIAは雇用主が申請しなければいけないので、雇用主の負担が大きくなります。一見すると、これは雇用主に対してのTFW依存を防ぎ、よりカナダ国内での雇用を増やすようにしているように見えますが、現段階でLMIAが本来の目的とは異なった形で利用されていることを考えると、今まで以上に雇用主が優位な立場になります。LMIAの歴史を長々と書いている理由には、システムの中に隠れている雇用主とTFWの不均等な関係性を知ってもらいたい部分が大きいのですが、この不均等さは雇用主の負担を増やしてもあまり意味がない思います。(このことについては、違う記事で書く予定です。いつになるかは未定だけど。。。笑)
最後に
さて、長々とLIMAについて書きましたが、ここまで読んでいただきありがとうございます。書き始めた時はこんなに長くなる予定ではなかったんですが、書き始めるとどんどん長くなって、書き始めてからずいぶんと時間も経ってしまった。。。(書き始めたのは2023年の7月くらい笑)カナダ移民の闇の一つであるこのトピックは話出すとキリがないくらい。。。今回は主にTFWPの変遷についてでしたが、カナダの政府がいかに外国人労働者を利用しているかなんとなくは伝わったのではないでしょうか?冒頭でも触れた通り、これでLMIAおよびTFWPについてはまだ終わりではないです笑 TFWPにはもっともっと色々な問題が付随しているので、また別の機会に書いていこうと思います。予告といえば予告なのですが、次回はとりあえずLow-Wage Streamの規制が永住権申請にどう影響してくるかについて書いていこうかなーと思います。多分気になっている人も多いと思うし、実際に直に影響を受けている人も多いと思います。時間があるときに書いているので、いつになるかわからないけど、なるべく早めに終わらせようかなー。(と思っている笑)どんな内容になるかはまだわからないけど、内容次第では有料にするかもしれない。。。有料にするしない関係なく、これからLMIAを考えている方にとっては参考になる内容にしたいかなーと思います。次回も長くなるかと思いますが、お付き合いいただけると嬉しいです!
Cover Photo by Tim Mossholder on Unsplash