研究書評-ふるさと納税を用いた地方活性化-2024年度



 

2024年4月18日


内容要約

過度な返礼品について 構造的要因と憲法上の問題について考察
①    経済的利益の大きさ
利用者は「住民税等が控除されるだけでなく、寄付を受けた自治体から返礼品まで貰える」、自治体は「「寄附金の受入額がそのまま歳入の増加につながる」ことから、より多くの寄附を集めるために、自治体間で返礼品競争が過熱していく」。先行研究で嶋田は「税の奪い合いの仕組み」にほかならず、「やらなければ,やられる」ために、「自治体としては、参加したくなくても、参加せざるを得ない」との見解を示す。その結果、「参加を望まない自治体を含め、『税の奪い合い』競争に駆り立て、自治体間の対立・分断を惹起するもの」である。
 
②    マスコミの影響
「寄附者の利便性向上に役立っている反面、誤算だったのは、返礼品の通販カタログ化が進んだこと」であると指摘し、「安易なネットショッピングになっていることが、この制度に多くの批判が集まる要因となっている」として問題視している。
 
→国が行うインターネット通販になってしまっている。
 税による投票感は否めない

【参考文献】土屋 仁美(2020)「ふるさと納税における返礼品競争の要因と問題点」『金沢星稜大学論集』53巻2号p29-39

2024年4月25日

内容要約
ふるさと納税の寄付者の意識調査
寄付者の地域活性化にかかる意向調査
愛媛県宇和島市に対しての調査
 
理由 大都市圏からも地理的に離れ、人口減少が進んでいる。ふるさと納税により、「環境」「やさしさ」「教育」「歴史・文化」「その他」の5分野の用途メニューを選択することができる。ふるさと納税の実施にあたって特典も豊富であり、寄付者が用途を選択できる。
 
結果
回答者の85.1%が宇和島への関心が増えたとしている。ふるさと納税を行う動機として、「特典目当て」である人が最も多いが、きっかけとして地域への関心が高まることがわかる。またふるさと納税を(宇和島出身ではない)の75.4%が「使用用途に関心がある」と回答している。
 
今後
このようなことから、ふるさと納税の成功を「新たな財源の確保と地域活性化の実現」と考えれば、自治体は特典の魅力を高めるだけでなく、使途に対する多様なニーズを細かく汲み取り、使途に共感できる仕組みにしていくことが重要である。「使途を提案したい」といった双方向の情報の交流を望む者には、積極的に地域と関わっていくことが期待できる。
 
【参考文献】西村 忠士、瀬田 史彦(2017)「ふるさと納税の寄付者の地域貢献に対する意向に関する研究」『計画行政』40巻2号p90-97

2024年5月2日

内容要約
ふるさと納税による赤字団体は462自治体で全体の4分の1を超えている
赤字の自治体は都市部の集中しており、ふるさと納税が広がるほど都市部の財政が苦しくなる(本来納税されるはずであった個人住民税が減収となり、それだけ自主財源が喪失するので、自主財政権が侵害されていることになる)
→地方税法と照らし合わせて、「ふるさと納税」の寄附金控除に係る事項を規定していない税条例は、地方税法に反しているのであろうか。結論、税条例は地方税法に反すると考える。したがって、「ふるさと納税」に自主財政権の問題があるとしても,地方団体は、税制としての「ふるさと納税」から離脱することができないのである?
 
見直し、結論
ふるさとの応援が目的のはずが、税金控除、返礼品目的の現状であるなら廃止すべき
→返礼品においても、税法上、寄附で受け取る返礼品が地方団体の良識の範囲内のものであれば、その寄附が寄附金控除の対象となる。総務大臣通知によれば、「ふるさと納税は,経済的利益の無償の供与である寄附金を活用して豊かな地域社会の形成及び住民の福祉の増進を推進することにつき,通常の寄附金控除に加えて特例控除が適用される仕組みである」したがって、対価を得ている場合または対価をあらかじめ期待しての無償の供与であれば、それは形式上対価を得ていない場合であっても寄附とは見ないものとしている。しかし返礼品のネットショッピング化や通販カタログ化が進んでいるという実態は,納税者が「返礼品」という対価をあらかじめ期待して寄附していることが明らかである。「寄付」ではなく、「消費」である。
 
片上孝洋(2018)「「ふるさと納税」から見る自主財政権に関する一考察」『税法学』579巻p23-43

2023年5月30日

ふるさと納税(ガバメントCF)とは
・ふるさと納税の進化系であり、レッドホースコーポレーション(株)の川崎貴聖氏は「地域の課題を世の中に訴え、寄付者にその課題解決の仮説に共感してもらい、解決のための様々な資金確保に協力してもらうプロセス」と独自に定義している。寄付を集めるのは基本的に地方自治体であり、寄付を行うのは資金提供者である。ふるさと納税と同様に、資金提供者は所得税・住民税の控除を受けられるメリットがあり、寄付プロジェクトごとに、寄付の目的、募集日標金額、募集期間、使途計画が設定され、資金の使い道がふるさと納税に比べて明確かつ具体的に示されている。
 
ふるさと納税(ガバメントCF)の成功例
・ 「西粟倉村共有の森ファンド」プロジェクト
岡山県西粟倉村は、人口1500人規模の山村であるが、市町村合併を選択せずに小規模自治体として生き残る独自路線を選択している。豊かな森林資源を生かして将来世代に価値のある森林を引き継ぐべく、「百年の森林構想」を提唱し、その実現のために「百年の森林事業」に取り組んでいる。「西粟倉村共有の森ファンド」プロジェクトは、事業主体である(株)トビムシが林業経営の基盤整備として高性能な林業機械を購入する費用を「ふるさと投資」で調達し、事業に参画する森林組合に林業機械を貸し出し、そのレンタル収入や村からの販売支援報酬の一部を出資者に分配するものである。小口出資に限定することで10年間、村と付き合ってくれる「西粟倉ファン」を増やしていくことを目的とし、全国各地の地域に広げようとしている。プロジェクトの効果として、西粟倉村のファンである地域外の投資家との交流が促進されたことで、Iターン者による就労者増や起業も実現するなど、地域の活性化につながっている。
 
・おわりに
このプロジェクトにはゴールデンサークル理論が必要である。「Why:なぜ」→「How:どうやって」→What:何を」の順に想いを伝えると、共感を生むことができると提唱している。生むことができると提唱している。この理論をCFに応用することでプロジェクトの成功率が上がるだろう。前述の川崎氏も「ふるさと納税型CF」の3つの成功要因として、①「地域の課題抽出:地域の抱える課題を洗い出し、世に訴えるべき課題を選定」(Why)、②「課題解決のオプションの提示:抽出した課題に対して、寄付者から共感されるレベルの解決の仮説を提示」(How)、③「課題解決への巻き込み:資金だけでなく、応援者、技術、メディアなど、目的実現のための様々な資源を獲得し、プロジェクトの推進に役立てること」(What)と述べている。CFはプロジェクト起案者・支援者の双方の立場から、プロジェクトに主体的に参画し、楽しみながら関われる魅力がある。ある。たとえ、プロジェクトが不成立に終わったとしても、行動を起こしてプロセスを辿るだけでも充実感が味わえ、経験として得られるものが多い。今後の「ふるさと納税型CF」や「ふるさと投資」のさらなる発展にも期待が高まり、地方創生の新たな可能性を推し進める持続可能な手段となるだろう。

【参考文献】大橋 知佳(2019)「地域を診る目 地方創生と「クラウドファンディング」の新たな可能性」日経研月報、489巻、p54-63

2024年6月6日

クラウドファンディング型ふるさと納税の課題
 
クラウドファンディング型ふるさと納税の目的は資金を集めることではなく、「地域の課題を世の中に訴え、寄附者にその課題解決の仮設に共感してもらい、解決のための様々な資源確保に協力してもらうプロセスが重要である。地域の持続可能性を求めることを目標とすべきである。その自治体がどのような将来を描いているのか、しっかりと目標設定を行わないと、さらに地域色を失い、郷土への愛着も薄れ、地域の魅力の発見などは難しくなり、定着は難しい。ホームページを閲覧すると、資金を募っているプロジェクトが本当にその地域の課題なのか、そのプロジェクトの効用は一体何なのか等の疑問が湧いてくる。また、様々な事業者が数々のプロジェクトを打ち上げており、本当に地域貢献になるような事案が埋もれてしまっている可能性も否めない。
 
解決案
ソーシャルデザインの考えのもとで地域課題を抽出し、地域課題の解決策は産官学等の連携により公募の審査を行い、Uターン見込み者を資金提供者のターゲットとして絞ったモデルとである。これらの限界として、①地域の課題を抽出する「デザイナー」をどのように選定するか、人材が不足しているのであれば、どのように育成していくのか、②地域課題の解決策を公募するにあたり、地域にどのように周知するか、③資金提供者へのアプローチはどうやって行うかが挙げられる。デザイン教育は初等教育からデザイン教育を取り入れること、社会人のリカレント教育を有効活用すべきである。して、地域や地元出身者への地域課題の周知と資金提供アプローチについては、どこまで共感が得られるか、さらに検討を深めなければならない。
 
【参考文献】鈴木 晴基(2018)「地方創生とクラウドファンディングについての考察」商大ビジネスレビュー、8巻1号p115-145

2024年6月20日

 現在ふるさと納税市場は盛り上げりを見せており、全国的な案件間での競争も激化しつつある。地元のリソースだけで案件を完結させようとすれば訴求力で見劣りする可能性があること、また、直近ではそれら市場の拡大に惹きつけられて EC サイトのプレーヤーたちも参入してきていることで、より高いクオリティが求められつつあることから、地方企業、中小企業のみでは太刀打ちしにくい状況になってきている可能性もある。
 地域活性化,地方創生が叫ばれて久しいが,いまだに効果的な処方箋や特効薬は存在しない。ただし、地域活性化、地方創生に携わりたいと思い、実際に行動を起こす人たちは、特に若年層を中心に増えており、それに呼応する形で、地方の事業者が自らの商品を販売しやすいプラットフォームや、資金調達手段も充実および多様化している。代表的なものは購入型 CF、ふるさと納税、ソーシャルボンドであり、それに加えて一部地域では地域通貨の導入の動きも見られる。これらのうち、市場規模が最も大きいものは、ふるさと納税による返礼品市場である。
 ふるさと納税で提供される返礼品,購入型 CF で購入される産品は,地域にとって外貨を稼ぐ貴重な手段と言える。そして,先に述べたが返礼品を受け取った人々の一定割合は,その地域を訪問したいという思いが生まれるとのことで,それらモノを通じた関係人口の発生は,将来の潜在的な訪問客となるため,純輸出をさらにプラス方向に押し上げうる。東川町がふるさと納税をしてくれた人たちに来訪してもらい,町の人たちと一緒に植林植樹活動をするなどは,まさにその最たる事例である。
 このように,各地域での購入型 CF を通じたプロジェクトやふるさと納税の返礼品は,将来の訪問人口,交流人口への起点となるため,地域経済にとって重要になりつつある。それら事業者は規模的には零細企業,中小企業であることが多く,新商品を開発しようにも資金力が足りない。通常のビジネスプロセスでは,なんらかの商品を新たに開発しようと思えば,先に金が出ていくこととなる。余裕資金を潤沢に抱えている地域企業はさほど多くなく,金融機関が融資をしてくれればまだ可能性があるかもしれないが,地域金融機関も新商品開発に対しては及び腰であることが多い。その点,ふるさと納税の返礼品,購入型 CF ともに,商品の製造はオーダーが積み上がってから着手することが許容され,またオーダー数以上を作る必要がないため売れ残りによる不良在庫を抱える心配もなく,地域企業にとって非常に取り組みやすい。金融機関もオーダーの積み上がり具合を先に CF サイト等で見ることができるので,つなぎ融資をしやすい状況になる。そのためにも外から人に来てもらうという意味では,Destination(到達地)としての魅力を高める必要がある。
 
【参考文献】保田隆明(2022)「購入型クラウドファンディングとふるさと納税の地域活性化効果」企業家研究、19巻、p43-50

2024年6月27日

目的
ふるさと納税制度は租税競争を現実に引き起こしているのか」「どのような自治体が返礼率を高めているのか」という間に、実証的に答えることである

結果
変数(説明は除く)で式を作り、実証的に研究。その結果、返礼率競争は、住民税収の奪い合いという負の財政的外部効果を有しており、競争が激化すると、税源侵食や返礼品送付のための歳出増加を通じて公共財の過少供給につながりかねない。このため、国が返礼率競争を緩和させることは妥当な政策だと言える。また財政的・経済的に施弱な自治体ほど、返礼率を高めて寄附を集める傾向が強い。返礼率は「農家一人当たり農業産出額」と正に相関していることが示された。返礼率競争は、高額な地場産品を生産する自治体とそうではない自治体の間で、自治体間格差を増幅させる恐れがあると言える。これらの結果は、いずれも返礼率競争が抱える負の側面である。その一方で返礼率は災害復旧費割合と負の相関があることが示された。災害の被害を受けた自治体に対しては、返礼品目当てではない、利他的な寄附が一定程度存在すると言える。これは、ふるさと納税の正の側面が示された結果である。

【参考文献】末松 智之(2019)「ふるさと納税の返礼率競争の分析」財政経済理論論文集p197-221

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