研究書評-ふるさと納税を用いた地方活性化-2023年度



2023年4月20日

〈内容総括・選択理由〉
私は「ふるさと納税による子育て支援策拡充について : 北海道上士幌町の事例からの示唆」という論文を選択した。前回返礼品以外にもふるさと納税をする理由というので「寄付したお金の用途の明確化」「その地域への愛着」というのが挙げられた。もしそれが子育て支援策の拡充という用途に明確化されたなら若い世代において、人口の動きはみられるのではないかと考え、本論文を選択した。

〈内容〉
本論文はふるさと納税による子育て支援策の拡充を行った北海道上士幌町について取り上げている。ふるさと納税を原資とした子育て支援策は移住定住の解決策の1つになりえるのかが研究課題である。通常であれば自治体が子育て支援策に力を入れるとその恩恵を受ける住民や企業は自らが負担する税金が増える可能性や他の行政サービスに影響を及ぼすかもしれない。しかしふるさと納税は自治体が域外から獲得する資金であり、翌年の地方交付税の金額に影響しない。また先行研究によるとふるさと納税の寄付者へのアンケート調査によれば、寄付した地域に行ってみたいと答えており、人口増加に繋がることが示唆されている。上士幌町はふるさと納税に2008年から取り組み、和牛を返礼品とし、2014年には全国3位の寄付金を集めた。それを機に「上士幌町ふるさと納税・子育て少子化対策夢基金条例」を制定し、ふるさと納税で集まった全額をこの基金に充当している。その内容はスクールバスを購入し、2016年は幼保一体型こども園「上士幌町認定こども園・ホロン」において10年間の完全無料化が実施された。この取り組みが全国メディアにも取り上げられ、ふるさと納税をきっかけとして子育て支援策の拡充とそれによる人口増での成功自治体として取り上げられることが増えた。この基金では高校生までの医療費の無料化の対象も拡大している。人口移住について、2015年、2016年に周辺地域からの子育て世代の転入を促し、タイムラグはあるものの、2017年にはそれ以外の遠方地域からの流入もあった。一方定住効果について、周辺地域への転出抑制効果はあったものの、遠方への転出を抑制する効果は見られなかった。ふるさと納税を原資とする地方での子育て支援策の拡充は近隣地域との人口の奪い合いを引き起こす可能性はあり、一方で一定期間を空けると周辺地域以外からの移住を呼び込む可能性がある。

〈総評〉
今回ふるさと納税における子育て支援策の拡充は移住定住に影響を与えるのかというのに焦点を当てた。本論文でも述べられていたが1つの自治体の分析のためにこれを一般化するのは不十分であるが、子育て支援策で周辺地域での人口の奪い合いを引き起こす可能性があるという視点を得た。この視点においては近隣自治体間で人口の奪い合いが起き、少子高齢化の進む日本では勝者なき戦いになってしまう。子育て、教育といったジャンルは若い世代のみに向けたものであり、人口増も一時的なものになる可能性があり、まだまだ検討の余地があるように感じた。

【参考文献】保田隆明、久保雄一郎(2019)「ふるさと納税による子育て支援策拡充について : 北海道上士幌町の事例からの示唆」國民經濟雜誌、219巻6号p81-96

20203年4月27日

〈内容総括・選択理由〉
私は今回「ふるさと納税における返礼品提供事業者の属性分析」という論文を選択した。本論文を選択した理由はふるさと納税における企業の分析を行うためである。ふるさと納税の返礼品事業を行っている企業を分析することで本当に地域活性化につながっているかを確認するためである。内容はふるさと納税返礼品事業を行っている地域に企業の売上高、従業数アンケートを送付しその中でどのような企業が占めているのかを考察している。

〈内容〉
この論文では各地域のどのような事業者に影響を及ぼすのかを返礼品提供事業者の属性と返礼品を通じた売上のそれら事業者への影響を明らかにするものである。中小規模の企業の事業者がふるさと納税をきっかけに新たなビジネスを始める場合がある。その成功例は高知県奈半利町であり、2017年において全国9位約39億円をふるさと納税の調達金額で集めている。人口3500人にも満たず地場産業や地域特産品と呼べるものはほとんどない。町内の様々な業者に呼びかけ、通販の経験もない事業なども始めた。当初は寄付者から多数のクレームが寄せられたがそれをきっかけに改善を重ねた。また町が農作物食材と海産物の加工場をそれぞれ建設し、返礼品の出荷体制を生み出した。農作物食材の加工場では併設している物販・飲食スペースに広域から返礼品以外のニーズも生み出した。またパティシエがUターンで戻ってきて起業し、その店舗を訪問する客は半径数十キロにも及ぶ。
次に返礼品提供事業者分析である。平成28年度ふるさと納税調達金額の上位20団体のうち、15地域、上位地域以外の任意抽出の10地域からの協力を得た。(前者を上位地域、後者の任意地域と呼ぶ)そして上位地域163社、任意地域147社の合計310社より回答を得た。ふるさと納税の返礼品提供事業者は中央値ベースで年間売上が上位地域で1億円、任意地域で5800万円、従業員数は6-8名程度、インターネット販売比率は1割にも満たない地方の小規模事業者がメインであった。従業員数の分布は5人以下の小規模事業者が老地域で約4割を占めている。従業員数50名を超える企業は10%程度である。売上高のうち県外での売上を占める割合は上位地域で50.0%、任意地域で30.0%であった。インターネット販売比率は上位地域で9.0%、任意地域で5%である。これらをまとめると返礼品提供事業者は4割以上が従業員5名以下であり。インターネット販売比率が20%未満の企業が約8割を占めている。

〈総評〉
ふるさと納税は目的として地域の特産品が望ましいとしていることから大きな企業が参加するのではなく、小規模の地域の中小企業が多くを占めていることが証明された。また高知県奈半利町のように地盤産業、地域特産品に乏しくても、地方の中小企業などが協力することでふるさと納税によって資金を調達することが可能だと感じた。


【参考文献】保田隆明、久保雄一郎
「ふるさと納税における返礼品提供事業者の属性分析」
『日本ベンチャー学会誌』33,57-62

2023年5月18日

〈選択理由〉
私は今回「地域活性化に不可欠な地域資源 : 大谷地区の取組を主体に」という論文を選択した。ふるさと納税と地方活性化を結び付けためにはストーリー性が必要と考える。しかしまだストーリー性の単語を定義できていない。また中間発表を通し、このままの研究では自分自身の研究があまり地方活性化に繋がらないことを気づかされた。そのためにふるさと納税から一旦離れ、地方活性化の在り方やその条件を調べるために本論文を選択した。

〈内容〉
本論文では地域活性化の在り方の有効性について、栃木県宇都宮市大谷地区を対象としている。当該地区が不良資産としての認識からの脱却を図り、地域資源であると位置づけを見直すことで,関係人口拡大や地域の新たな産業拠点の契機とした各種取組により再注目されるまでをVRIOフレームワークを使って分析している。まず地方からの東京圏への流出について、平成27年版情報通信白書から雇用環境にあるとし、若年者にとって魅力的な就業機会が地方に不足していることが,地方から東京圏への若者の流出を招いていると考えられる。総務省の地方公共団体を対象に実施したアンケート調査結果からも約9割がが 「良質な雇用機会の不足」を人口流出の原因と考えている。地域振興策の展開を観光地の状況で考察する。有名観光地等では知名度も低く観光地として来街者も少ない地域を考えると「強み」 ではなく、不利な条件や 「弱み」 が目立つ或いは 「弱み」しかないなどと、当該地域の方々は認識している。しかしその一方で「弱み」 ばかりが認識される地域であっても,ある特定の 「ニッチ市場」 「ニッチ・カテゴリー」 で評価される強みや経営資源があるかもしれないし、それらを発見することが地域の活性化取組の前提になると考えている。あるニーズだけや、ある顧客層だけ、ある地域だけ、あるテーマだけ等に 「強み」 を発揮可能な 「地域資源(経営資源)」 が 「強み」 となりうるという視点であるということである。あくまで、現在の地域資源の付加価値を顕在化させる方策を検討することであり、内部資源論が有効な方策であると認識を転換することである。その後の論文でVRIOフレームワークに当てはめ、栃木県宇都宮市大谷地区を検証しているがここでは自分の研究と関連性があまりないために割愛させてもらう。

〈総評〉
 私自身今までふるさと納税に関する論文を読んでいたが、あまり地方活性化とは何かと考える機会が少なかった。地方活性の中で観光資源的に不利な条件の市であっても発想の転換から弱みではなく、過疎自体を強みに変えることができる。これを自分の研究に当てはめて、「今までふるさと納税をしていなかったが力を入れて頑張る自治体の過程」というのは1つストーリー性の一考になるように感じた。

【参考文献】菊池宏之(2021)「地域活性化に不可欠な地域資源 : 大谷地区の取組を主体に」静岡県立農林環境専門職大学静岡県立農林環境専門職大学短期大学部紀要、1巻p11-19

2023年5月25日

〈選択理由、内容総括〉
私は今回「韓国におけるふるさと愛寄附制の導入と課題―ふるさと納税との比較を通じて―」を選択した。私自身現在ふるさと納税について研究をしているが、その中で日本にのみフォーカスした内容ばかりになっている。それはふるさと納税という制度が日本固有の税の仕組みであるからだ。しかし研究を進めていく中で韓国で同じような制度が始まったことを知った。この論文では韓国におけるふるさと愛寄附制度の概要とその問題点を述べている。

〈要約〉
韓国では2023年1月1日より、ふるさと愛寄附制度が開始されることになった。韓国の市町村は,日本と同様,地域の衰退や地方税収の不均衡,地域間格差などの問題が存在している。このような状況の中で,ふるさと愛寄附制度の導入は脆弱な地方財政に苦しむ地域ほど寄附額を増やす絶好のチャンスである。特に、多くの農村をかかえる自治体は、地域特産品を提供することが可能となり、地域産業の活性化に貢献できると期待されている。その一方でふるさと愛寄附制度は多くの寄付を集められるか疑問視されている。韓国の地方財政の現状である。2022年度における税の割合は国税が75.2%で地方税が24.8%であった。日本はその割合が概ね6対4であることを考えると、韓国における地方の税収配分は少ないことがわかる。また韓国は日本と比べても大きく地方が中央政府に依存しているという現状もある。次に日本のふるさと納税と韓国のふるさと愛寄附制度の比較である。ふるさと納税であれば対象地域として都道府県または市町村の重複寄附が 可能であり、寄附者の居住地の都道府県または市町村にも寄附が認められている。その一方で寄附者が居住している地域ではなく他地域のみ寄附ができる特徴がある。ふるさと納税では自己負担額2000円を除く寄附金額が全額控除される一方でふるさと愛寄附制度では10 万ウォン(約 1 万円)までは寄附金の全額が控除される。10 万ウォンを超えた場合、500 万ウォン(寄附額の年間上限)以下は,16.5%(国税 15% +地方税 1.5%)が税額控除される。韓国のふるさと愛寄附制度は所得税と地方消費税の一部のみが控除対象になっており,寄附額の相当分を寄附者自身が負担することになっている。よりその地域に深い愛が必要と指摘されている。日本のふるさと納税寄附者は、税額控除や返礼品によって損することはほとんどないが、韓国のふるさと愛寄附者は税額控除や返礼品を合わせても寄附額には至らず損することになる。したがって韓国の寄附者は相当のふるさと愛がないと寄附しにくい構造になっている。ふるさと納税の特徴は税の徴収と配分に市場の競争原理が働く点であり、都市から地方への税の移転を加速させている。また地方経済を活性化させる機能も持っている。現在の韓国におけるふるさと愛寄附制度は寄付者の負担が大きすぎることから有効に活用するのが難しいと言えるだろう。

〈総評〉
韓国のふるさと愛寄附制度は本当にその地域を応援したい気持ちが必要であり、日本のふるさと納税では寄付者がやはり「その地域を応援したい気持ち」よりも「何が返礼品か」を重視していることを再認識した。自分自身の研究に少し行き詰ってきたので次回以降はもう少し視野を広げて地域活性化や地方創生についての文献を読んでいこうと考える。

李 熙錫(2023)「韓国におけるふるさと愛寄附制の導入と課題―ふるさと納税との比較を通じて―」城西大学大学院研究年報 36巻p1-20

2023年6月1日

〈選択理由、内容総括〉
私は今回、「地域産業の再活性化の成功要因にかかわる理論的および実証的研究−但馬地域及び北播磨地域の地場産業からの考察」という論文を選択した。選択理由はふるさと納税において返礼品が重要性としてあるのは当然であるが、その魅力的な返礼品を作る地場産業というのも同時に重要である。その地場産業というのに着目し、どのように地場産業は作られているのか、またその地場産業の将来性に着目し、そこからふるさと納税に関わる点を見つけようと考えた。本論文では地場産業の歴史や成り立ちに触れ、今後どのように地場産業を作るべきか述べられている。

〈内容〉
この論文では産地の経済基本構造を確認しつつ、経済情勢の変化が地域や地場産業及び企業にどのような影響を与えているのかを確認している。どの産地にも必要条件と十分条件は存在した。必要条件とは産業化の基盤となる条件であり、自然環境や産業に関係の深い要因(素材)へのアクセスである。一方で十分条件とは必要条件を産業化へと導く力である。産業化の中心になった企業群であったり、そのきっかけを作った企業であったり、その企業を起こしたアントレプレナーであり、アントレプレナーによる発見や発明である。合わせてそれらの活動を支援した地域や行政である。これらの要素が相まって、地域を支える地場産業ができる。地場産業を有する産地には2つの機能がある。1つは製造機能であり、もう1つは販売機能である。製造機能では産地製品を製造する機能であり、販売機能では産地で製造した製品を市場へと届ける機能である。地場産業の多くは中小企業性製品であり、加工度は低い。生産に必要な技術的ノウハウの蓄積や必要とされる設備の規模や複雑さは新規参入者にとって模倣しやすい水準にある。その結果発展途上国で生産されるものが見られるようになった。途上国の製品は初めは日本人にとって受け入れられるクオリティではなかったが、様々な試行錯誤を経て、満足させることのできる品質を産出するものとなった。一方販売機能ではコスト高に国内産地調達から海外調達に切り替えることで利益を拡大させた。あるいは国内の製造機能は維持、縮小しつつ、海外へと進出する企業が出現した。この基本構造の変化により、雇用の減少を生んだ。地場産業に関わる地域住民の数は減少していくのである。また若者の流出も避けられないだろう。このように厳しい環境に対応して生き残り、更に発展する為に条件に対し、著者は3つの発展モデルを提示している。1つは特定のターゲットを意識して、機能、品質で優位に立つことを目指すビジネスモデルである。マスマーケットではなく、規模は小さいが支払い能力の高い、そのニーズに答え甲斐のあるものである。2つ目は製品に関連するサービスで優位に立つビジネスモデルである。地場産業の産地企業でこのようなネットワークを形成し、企業全体として産地製品に関わる情報を顧客に提供することで、顧客における産地および産地企業のロイヤリティを高めることができるかもしれない。3つ目は再びコスト面で優位に立つビジネスモデルである。日本における相対的高コスト構造がいつまで続くか不明であり、地場産業に従事する企業の連携により、解決できる可能性がある。以上が将来に向けた地場産業の発展モデルの概要である。

〈総評〉
地場産業というふるさと納税に間接的に関わる産業を深く知ることができた。最後に著者の述べられていた発展のための3つのビジネスモデルについて、どう当てはめられるのか、しっかりと考えていきたい。

【参考文献】
井上芳弘(2014)「地域産業の再活性化の成功要因にかかわる理論的および実証的研究−但馬地域及び北播磨地域の地場産業からの考察-」流通科学論集26巻2号、p1-18

2023年6月8日

〈内容総括、選択理由〉
私は今回「日本の地域発展モデルの構築―イタリアのテリトーリオ戦略の適用―」という論文を選択した。現在ふるさと納税を用いた地域活性化に向けて、様々な視点から論文を読むことを主としている。その中で「地域発展」を行う際に海外ではどのような発展モデルがあり、それはどのようにして日本に模倣性はあるのかについて考えたために本論文を選択した。本論文では持続可能な地域発展モデルとしてイタリアの「テリトーリオ戦略」の実践により地域発展のモデルを抽出した上でそれとの対比から日本における地域発展のモデル構築に向けた試論を行っている。

〈要約〉
イタリアのテリトーリオ戦略の単位は一つの社会システムと捉えることができる。①基層としてのコミュニティと、②上層としての市場経済との交易層から構成されている。前者は農村、後者は都市の特徴をもつ社会と見ることができる。農産物や文化的価値を生み出す農村のコニュニティが一方にあり、他方でツーリズム等をつうじて都市との交流があることで、経済的な発展の機会を得ている。テリトーリオ戦略の実践には複数のアクターが関わる。農産品やその加工品の生産者や販売者のほか、ツーリズムの担い手となる観光業者、地域コミュニティのリーダーや政策担当者などが、相互に関係しあいネットワークを形成している。これら多様なアクターの相互行為をつうじて、テリトーリオ戦略が実践される。相互行為が調整され、一貫した方向性をもつことが重要である。テリトーリオの実践は、地域のアクターが自律的に意思決定と活動を行い、 これを地方政府などが支援するボトムアップのアプローチを特徴とする。地域の分散型ネットワークのなかで実践される特徴をもつ。日本におけるテリトーリオ戦略の適用には様々な重要な点がある。まずコミュニティにまとまりが必ずしも強くないことである。イタリアは伝統的にコミュニティが形成されてきたが、日本におけるコミュニティの形成は、高度成長期以降に発展したものも多く、小規模なコミュニティが存続したり生成したりするかたちで散在するイメージが典型的と見られる。これらの分散型コミュニティは地域経済の衰退とともに希薄化してきた経緯を持つ場合が多い。そのために互いに市場において競争しつつも経済的な利害を共有する事業主および事業主からなる同業者団体の経済活動が重要となる。地域アイデンティを構築し、心理的な面での生活の豊かさが必要である。またそれだけでなく、地域における雇用機会や、託児所の整備など、被用者のワークライフバランスの実現を可能にするような地域の環境整備も欠かせないだろう。

〈総評〉
イタリアのテリトーリオ戦略は伝統的な村の形成と複数のアクターが関わり、地域それぞれが意思を持って活動していることが分かった。日本におけるコミュニティの形成は高度経済成長期にできた商業的な意味を含めたコミュニティが多い。そういったコミュニティが盛り上がるためにその基盤を作っていくことの重要性を学んだ。

【参考文献】
木村 純子、二階堂 行宣、佐野 嘉秀(2023)「日本の地域発展モデルの構築―イタリアのテリトーリオ戦略の適用―」イノベーション・マネジメント、20巻p167-182

2023年6月15日

〈選択理由、内容総括〉
私は今回「「ふるさと納税」制度の地理的特性に関する一考察」という論文を選択した。前回同様にふるさと納税を用いた地域活性化に向けて、様々な視点から論文を読むことを主としている。その中で今回はふるさと納税の制度的な成功例や問題点といったところではなく、地理的な側面から考えられる成功例や問題点を知ろうと考え、選択した。本論文ではふるさと納税における地理からふるさと納税をどう議論することができるのか、述べられている。

〈要約〉
先行研究によると、各自治体において1人あたりの流出金額が多いのは太平洋ベルト地帯、とりわけ、東京や大阪などの大都市圏であると指摘した。その一方で、流入金額は、人口規模の小さな自治体が多いことを論じている。大都市圏から地方圏へと税収が移転しているのだ。またこの寄付金の使い道について使途の制約が少ないため、財源が限られる自治体にとって、政策を充実させる契機となる。説明責任はないものの、総務省によれば、79.9%(1,391 団体)が受入額と活用状況(事業内容など)を公表している。他方で実質的に税収が減少する大都市圏の自治体は反発も見られる。寄付金を受ける地域はほとんどが地方交付税を受けられる一方で、流出地域では不交付であるのも1つである。
次に地域経済への効果である。「ふるさと納税」によって、寄附金が集まれば、それが公共政策の原資として活用される。同時に返礼品というのも発生し、返礼品に採用され、寄附者から選ばれれば、特需ともいえる状況で販売金額が増加する。このように、寄附金の流動が地域外からの資金の流入という効果をもたらすとともに、「ふるさと納税」が活用されれば、域内での経済循環を促進させる効果を持つ。統計データなどを用いて、資金の還流などを検討するだけでなく、実際に返礼品を提供する事業者へのアンケート調査やヒアリング調査を行い、どのような効果や課題があるのかを確認することも、「ふるさと納税」の地理的研究として想定される。3点目はふるさと納税での地域間競争である。自治体による寄付金の獲得競争により、自治体が公共政策の内容を見直すとともに、地域の魅力を対外的に発信していくシティーセールスないしはシティプロモーションを推進することにつながった。その一方で、返礼品が目的となっており、「ふるさと」を応援するという趣旨や、納税意識・寄附意識がおろそかになっているという批判がある。岩永(2020)の分析によれば、お世話になった地域への貢献という意識、特定の政策への共感などによる寄附も行われる。近年、地域活性化をめぐる議論では、交流人口の拡大が注目されている。地域振興の文脈においても、自治体だけでなく、住民や地域のファンなど、地域に関心を持ち、本気で関わる人が増加することで、地域が活性化するとの考え方も提示されている(河井 2020)。大都市圏の住民が持つ「ふるさと」意識の研究、ないしは、居住しない地域への一種の政治参加として捉えることで、新たな地域間関係の発生という観点から、地理学的研究をできる可能性があると言える。

〈総評〉
中間発表で私なりに考えたふるさと納税の「ストーリー性」について、どう考えたらいいか決めあぐねていた。今回の論文で述べられていた「地域振興の文脈においても、自治体だけでなく、住民や地域のファンなど、地域に関心を持ち、本気で関わる人が増加することで、地域が活性化するとの考え方も提示されている」といった方向性は自分の考えることに繫がると感じる。次回以降は岩永、河井論文を読んで研究の糸口を見つけたい。

【参考文献】
上村 博昭(2023)「「ふるさと納税」制度の地理的特性に関する一考察」尚美学園大学総合政策研究紀要、39巻p25-35

2023年6月22日

〈選択理由、内容総括〉
私は今回「ふるさと納税にみる所得再配分機能と地域振興」という論文を選択した。選択理由が自分の研究テーマであるふるさと納税を用いた地域活性化について、地域振興と関わりがあるかについて考えるためである。この論文ではふるさと納税に関する様々な視点からどういった政策を目指すべきか述べられている。

〈要約〉
ふるさと納税による寄付金は、3大都市圏・太平洋ベルト・政令指定都市・県庁所 在都市・中核市・施行時特例市において流出超過し、非都市的地域、とくに東北・四国・九州で流入超過することが明らかになった。すなわち,ふるさと納税は都市地域から非都市的地域への資金の移動手段として機能している。
ふるさと納税の使われ方は「子ども・子育て」「教育・人づくり」の比率が10%台後半で高く、「その他」「健康・医療・福祉」「地域・産業振興」が10%前後で続く。る使途の特徴であるが、これらも観光の振興に連動すると考えられる。いずれの地域においても、インフラ整備よりは教育・福祉・健康といったソフト事業を寄付金の主な使途としている。これらの費目は,従来の予算構造では十分に措置されてこなかった分野である。行政施策の空隙を埋める予算として、ふるさと納税による寄付金が充当される傾向にある。しかし15%の市町村ではふるさと納税の使用用途が不明確であるか、行政の判断に委ねられている。クラウドファンディング型ふるさと納税では使用用途が明確化されており、メディアで取り上げられるような今日的なテーマを含むことが多い。区市町村が十分に対応できない課題をふるさと納税が補填しているともいえるが、区市町村住民が、他地域住民の篤志にいわば「ただ乗り」しているとも見える。
返礼品では商品の広告を区市町村が担い、流通は商用ポータルサイトと宅配業者によって確保され、生産者がこれらの経路に経費や労働力をかける必要がない。すなわち生産者にとっては、省力的に大きな販売市場に接続できるメリットがある。いわば役場が地元産品の宣伝と営業を肩代わりする。またインターネット販売に比べて、プラットフォームがあるために生産者にとってはるかに参入障壁が低い。市町村が経費として買い入れるために経費もまた区市町村内を循環する。地元産品を意図的に高く購入することで,ふるさと納税を零細事業者支援のツールとして使うこともできる。すなわち返礼品の存在自体が,地域産業の振興に直結する。しかしこういった循環は市町村内の産品に限られてしまう。

〈総評〉
ふるさと納税は政府の運営するふるなびというサイトに返礼品を載せるためにそういった広告料がかからずに出品することができるというのは新しい視点であった。経費が再循環するということを考えてもやはり返礼品はその地域産品であれば、地域活性化につなげていけるように感じた。

【参考文献】
須山聡(2020)「ふるさと納税にみる所得再配分機能と地域振興」、駒澤地理、56巻p1-21

2022年6月29日

〈選択理由、内容総括〉
私は今回「中心核なき合併市町村の地域振興政策における地域イメージ戦略─山梨県北杜市を事例としたスケール論からの考察─」という論文を選択した。選択理由は、ふるさと納税の返礼品であまり魅力のない地域において、どのようなイメージをもたせるかはふるさと納税の課題である。そこでこれまでの地域振興において、地域に魅力のなかった地域はどのようにイメージを持たせたか参考にしようと思い、本論文を選択した。内容は山梨県北杜市が周辺の8町村と合併し、新たな地域イメージをどう持たせたかについて、述べられている。

〈要約〉
本論文では山梨県北杜市が取り上げられ、北杜市とは付近8町村の合併によって生まれた市である。その範域がひとまとまりの地域と認識されたことはそれまでなかったため北杜市は市全体の地域振興に既存の地域イメージを使うことができない。したがって北杜市には,新たな市の範域に見合った新たな地域イメージが必要となる。一方で住民には旧町村の意識が強く残っているため,新たな地域イメージの構築には、既存の旧町村のイメージやアイデンティ ティのあり方が強く影響する。そうした自治体がとり得る地域振興の戦略について考察されている。北杜市は現在、さまざまな「日本一」を掲げることで地域をアピールしている。「山岳景観日本一」「国蝶オオムラサキ生息日本一」「日本一の名水の里」「日照時間日本一」が列挙されている。地域イメージ戦略において、北杜市は市域には優れた山岳景観を有するという共通点があるものの、地域を代表する具体的な山岳が旧町村ごとに異なるため,一部の旧町村の反発を考慮すると特定の山岳名を掲げることができないという問題があった。こうした制約下で地域振興を進めるために北杜市は、新たな地域イメージの構築に取り組み、環境というイメージを植え付けさせる。第 1 に、北杜市という地域における生活環境・住環境のよさを表すものであり、第 2に、地球環境問題に積極的に取り組むという北杜市行政の姿勢を示すものである。これらを前述したさまざまな日本一を列挙することでイメージを具体化させ、補強しているのである。地域イメージが「日照時間日本一」と「環境」をめぐって生じており,当初は自治体が謳っているにすぎなかった両イメージが,国の太陽光発電研究施設の誘致という巨額の事業をつくりだし,その結果両イメージは北杜サイトという目に見える根拠をもつようになっている。

〈総評〉
仮に日本一ではないとしても、日本一と言い張ることそこから新たな事業を提供してもらい、市の地域振興に繫がるというものであった。ふるさと納税の返礼品においても、同じことが使えそうだと感じたので、もう少し地域振興の成功例について考えたい。

【参考文献】
久井 情在(2020)「中心核なき合併市町村の地域振興政策における地域イメージ戦略─山梨県北杜市を事例としたスケール論からの考察─」地学雑誌、129巻p71-87

2023年10月11日

〈選択理由、内容総括〉
私は今回「ふるさと納税制度の見直しの影響について」という論文を選択した。内容としては2019年に見直されたふるさと納税の制度について、どのような影響が各自治体にあったのか、また返礼品競争から抜け出す道はあるのかについて述べられている。選択理由として、返礼品が肉、魚などに偏ってしまう現状を解決させる制度などが研究として詰まっており、その解決策を考えるために選択した。

〈要約〉
2019年、返礼品の割合を3割以下にする、返礼品を地場産品にするという基準を守らない自治体には税制上の優遇措置を適用しないという新制度へ移行した。総務省は、これまで何回も各自治体に対して過度な返礼品競争を控えるように強制力のないお願いベースの通知をおこなってきた。しかし、強制力のない通知では返礼品競争の過熱を抑制することができなかったために、2019年6月より地方税法改正により税制上の優遇措置を認める要件を明確化したのである。内容としては寄附金の募集を適正に実施する地方団体、(地方団体で)返礼品を送付する場合には、返礼品の返礼割合を3割以下とすることと返礼品を地場産品とすることのいずれも満たす地方団体とした。2019年度の新制度への移行に伴い、自治体アンケートにもとづくと寄附受入額は、251.7億円減少している。税務統計にもとづくと寄附受入額は117.5億円だけ増加している。一方、返礼品等の費用総額は545.4億円も減少している。この費用総額の減少により、自治体アンケートにもとづき求めた自治体受入手取額でみても、293.7億円増加した。このことから、新制度移行にもとづき返礼割合を3割に規制したことで、自治体の受入手取額は確実に増加しており、新制度への移行は返礼品競争の過熱を抑制しつつ、ふるさと納税による実質的な受入額を増やすことにつながったという意味でポジティブに評価できるだろう。 2019年度の傾向としては、北海道の市町村のランクインが2018年度の1団体から3団体に増えた。これは、返礼割合を3割に規制しても、農産品、海産物など魅力的な返礼品を提供できる自治体に多くの寄附があつまることを示唆する。特徴的な寄付メニューを提示することで返礼割合を高くすることによる競争から自治体の行動を変えることが期待できる。大阪府枚方市と岐阜県高山市の事例がある。(ここでは内容を省略する)ただし、このような特徴的なメニューを提示している自治体は、それほど多くなく、依然として牛肉、かに、うなぎなどの返礼品メニューを充実されること
で、自治体間の競争がおこなわれていることは否めない。(2019年度の寄附受入額の上位10団体がそうであるため)
    
〈総評〉
春学期から行っている仮説である返礼品のストーリー性というのはやはりモノには勝てない現状があることを改めて確認した。もう少し研究の方向性を考えたい。

【参考文献】橋本 恭之、鈴木 善充(2021)「ふるさと納税制度の見直しの影響について」關西大學經済論集70 (4),p557-571


2023年11月9日

〈選択理由、内容総括〉私は今回「地方教育費における「ふるさと納税」の意義」という論文を選択した。内容はふるさと納税の寄付金が教育に使われる有用性について述べたものである。選択理由として、ふるさと納税の寄付金の使い道として、教育はどのようになるのかを考えるためである。

【要約】先行研究において、教育において、人件費を除く地方教育費は地方間格差があり、自治体の財政力が大きく影響していることが明らかになっている。自治体にとっての“新たな”財源になりうるものとして「ふるさと納税」に着目する。寄附金の受入時に使途を予め示し、寄附者が選択可能としている自治体がほとんどである。平成 28 年度現況調査によれば、平成 27 年度実績において寄附金の使途を寄附者が選択可能な自治体は全体の 90.8%(1623 団体)である。選択可能な分野としては上位 5 分野が順に「健康・医療・福祉」(1256 団体)「教育・人づくり」(1237 団体)「環境」(1192 団体)「子ども・子育て」(1097 団体)「地域・産業振興」(1095 団体)となっており、自治体が寄附金の受入先として教育分野を多く設定していることがわかる。一方で、平成 28 年度現況調査によると、ふるさと納税を活用して実施した事業は平成 27 年度実績で 1 位「教育・人づくり」(568 団体)、2位「健康・医療・福祉」(486 団体)、3 位「子ども・子育て」(438 団体)であり、また平成 28年度実施予定の事業についても 1 位「教育・人づくり」、2 位「子ども・子育て」となっている。すなわち、寄附をする側も教育分野を使途として多く指定している実態がある。自治体レベルから全国レベルに視野を転じると、ふるさと納税が財政力の強い自治体と弱い自治体との間の教育費格差を緩和する可能性をも示す。(ふるさと納税の寄附金額がもっとも大きい都道府県は財政力の高い自治体であり、ふるさと納税受入金額の大きい都道府県は財政力の低い自治体である。)ここから、地方教育費についても財政力の強い自治体から財政力の弱い自治体へふるさと納税を通じて教育財源を移譲しているとみることができる。財政力の強い自治体が減収となったからといって、直ちに教育費を削減することにはならないだろうが、ふるさと納税が財政力の強弱による地方教育費への格差を緩和する効果をもつ可能性があるといえるだろう。

〈総評〉
現在国が進めていく投資教育や自己資金を増やすための節税対策として、ふるさと納税は注目され、寄付額は増え続けている。本研究では寄付金を明確化し、教育に使うことは今後教育格差の埋める1つの手段になり得ると考えられる。寄付金をどう集めるかではなく、どう使うかの方向で研究を進めていきたい。

【参考文献】松岡朋佳(2017)「地方教育費における「ふるさと納税」の意義」京都大学大学院教育学研究科紀要、63、 489-500

2023年11月16日

〈選択理由・内容総括〉
 私は「ふるさと納税制度における返礼割合が寄附行動に与える影響について : 兵庫県三田市の個票データでの条件付きロジット分析」を選択した。選択理由は寄付行動についてより明確化するためである。本研究では同一自治体の個票データを用いて、寄附者の返礼品割合に対する反応を分析した。これにより、返礼割合の高低が返礼品の選択に影響するかをより厳密な手法で再確認したことになる。また、月ごとによってその影響の度合いが異なるのかどうかも併せて確認した論文である。

【要約】
本論文では兵庫県三田市の 2016年から 2017年の間の寄附データ 11796件を用いて条件付きロジット分析を行い、返礼割合の高低が返礼品の選択に影響するかを分析している。もし返礼割合の高低が返礼品の選択に影響していれば、返礼品から得られる効用の大小を意識しながら寄附行動を行っているといえ、現状の寄附行動が制度の意義(ふるさとへの恩返し)に沿っていないとする。先行研究において、武者(2019)は、北海道化市町村のパネルデータを用いて、過度な返礼品を用いず寄附を多く集めている自治体の要因を分析した。返礼割合を 1%増加させると寄附金額が2620万円増加させることを明らかにした。分析の目的は、①返礼割合の高低が寄附に影響するかどうか、②月によってその影響の度合いが異なるかを調べることにある。分析結果人々は返礼品から得られる効用の大きさを感じて寄附していることが分かった。最低寄附金額は負に有意である。したがって、より安い返礼品が好まれる傾向があるといえる。数量限定については、全データを含むほとんどの係数が負であるのに対し、2016年 7月か ら同年 9月においては正に有意となっている。したがって、限定品でない返礼品ほど基本的に は好まれるが、2016年 9月の返礼品のリニューアル直前に限定品への注文が寄せられたと考えられる。詰め合わせについては、全ての結果において正に有意である。したがって、一つの返礼品に対してアソートセットのような複数の品物が含まれるほど、寄附者にとってよりお得感があり好まれやすいと考えられる。物品型については、2016年 11月までは係数と有意性が安定しないものの、それ以降では2017年8月を除きほとんどが負に有意であるよう変化している。これは、2016年9月の返礼品のリニューアルによる影響が考えられる。全返礼品に対する物品型返礼品の割合が 85%から 91%増加したことで物品型返礼品が多様化しただけでなく、食料品の定期便を開始したことが影響したと考えられる。限界効果より、物品型の返礼品であれば選択される確率が1%下がることがわかった。

〈総評〉
兵庫県三田市1つ分析のために一概に言えないが、ふるさと納税の返礼品はお得感の生まれるものが必要とされていることが分かった。やはり本来の意味からかけ離れた制度になっていることは否めない。

【参考文献】
石丸拓実(2022)「ふるさと納税制度における返礼割合が寄附行動に与える影響について : 兵庫県三田市の個票データでの条件付きロジット分析」、KGPS、29巻p17-38

2023年11月23日

〈選択理由、内容総括〉
私は「「ふるさと納税」制度とその問題点―寄付金税制のあるべき姿―」という論文を選択した。選択理由は寄付金に対して、どのような問題があるかを考えるためである。内容はふるさと納税その問題から寄付金の問題を提議し、その後寄付金をどのようにしていくかである。

【要約】ふるさと納税の問題点は5つある。1.この制度が地方税の満たすべき性質としての応益原則や負担分任原則に抵触すること。2.この制度が地方交付税特別会計の財源不足を増大させること。3.寄付を求めての返礼品競争を激化させること。4.負担を伴わない「寄付」は寄附の理念に反すること。5.地方団体への寄付と,地方団体以外の団体への寄付との間で不平等性が著しいこと。1はそれが望ましい地方税のための原則(政府(地方団体)の提供する公共サービスの受益に応じて租税を負担することが公平であるとする租税原則)としての応益原則や負担分任原則に反すること(地域社会のすべての住民が、地方税の負担を分かち合うべきという原則)である。「ふるさと納税」制度では、寄付者が居住地以外の地方団体に寄付をして、居住地の地方団体から個人住民税の控除を受けることによって、寄付者の実質的な地方税負担が、地方団体から享受する地方公共サービスの便益と対応しなくなる。このため寄付を行った者と他の納税者の地方税負担額が乖離するために、応益性の原則と負担分任原則が満たされなくなる。
寄付金税制のあるべき姿、改善点として、①税の控除と返礼品の提供によって,寄付者に収益をもたらす仕組みを改め、一定額以上の価値の返礼品の提供を規制する。②社会福祉法人や公益社団法人、学校法人など、地方団体以外の団体に対する寄付に対して、地方団体に対する寄付が税の控除の面で極端に優遇されている現行制度を改め,両者に対する税の控除の面で平等な扱いに改める。③寄付による所得税の控除に比較して過大な居住地の住民税
からの控除を縮小する。特に寄付者の負担額を実質的に2000円にとどめている特例分の税額控除は、その規模を大幅に削減すべきである。

〈総評〉
寄付金の問題について現在の税制の側面から知ることができた。

【参考文献】水田健一(2017)「「ふるさと納税」制度とその問題点―寄付金税制のあるべき姿―」名古屋学院大学論集 53号p 57-80

2023年11月30日

〈選択理由、内容総括〉私は「ふるさと納税における返礼品競争の要因と問題点」を選択した。選択理由は返礼品競争において、その理由を深く考えるためである。内容はふるさと納税における返礼品競争の要因となった点を深堀し、そこからふるさと納税の問題点を考察している。

〈要約〉ふるさと納税返礼品競争が過熱化した理由として、3つ述べられており。①税の奪い合い,②「ふるさと」の定義による理念と現実の齟齬が指摘されているほか,外部的な要因として,③インターネットサイおよびマスコミの影響が考えられる。税の奪い合いにおいて、返礼品による経済的利益の大きさがある。自治体の多くが,利用者の自己負担額を上回る返礼品を寄附の見返りとして提供しており,利用者の経済的利益となっている。返礼品の送付は,多くの利用者にとって,事実上不可分なものと認識されており,自己負担額を上回る返礼品が期待できる自治体への寄附は,経済的には合理的な行動となる。よって,利用者にとって,より魅力的な返礼品を提供できる地方自治体が,より多くの寄附を集めることなる。「ふるさと」の定義において安田信之助・小山修平のように,限定した場合の煩雑な調査による実務的な困難性を挙げて,「『ふるさと』への思いというのは人それぞれであり,官がそれを限定する必要もない」として,「あまり限定する必要はない」との見解がある。他方で,橋本恭之・鈴木善充のように,「ふるさとの定義を『心のふるさと』でもよいとしたことで,当初の理念と現実の制度の間で齟齬が生じた」との批判もある。同様に嶋田暁文も,事務的な煩雑さに理解を示しながらも,ふるさと納税の「堕落」の始まりは,「寄附先を出身地以外にも自由に選択できるようにしたこと」であると振り返っている。返礼品の通販カタログ化が進んだこと」であると指摘し,「安易なネットショッピングになっていることが,この制度に多くの批判が集まる要因となっている」として問題視している。インターネットサイトに仲介事業者が登場したことで,地方自治体は,仲介事業者による事務手続きの代行を用いることで手間が減ることになるとともに,利用者は,クレジットカード支払いが可能になり,自治体からの返礼品の検索が容易になった。「どこに寄付するのかではなく,何をもらえるのかという『お得感』が,寄付先を選ぶ最大の判断材料」として利用されるようになった。

【参考文献】土屋 仁美(2020)「ふるさと納税における返礼品競争の要因と問題点」金沢星稜大学論集、53号2巻、p29-39

2024年1月11日

〈選択理由、内容総括〉
私は今回「「ふるさと納税」は東京一極集中を是正し、 地方を活性化しているのか : 都道府県・市町村収支データと財政力との関係から考える」という論文を選択した。選択理由としてはふるさと納税の様々なデメリットを研究の土台として集めるためである。内容として、ふるさと納税の財政額の整理を都道府県レベルと自治体レベル(県庁所在地)で行って、問題点を探っている。

【要約】研究背景として、著者が徳島県鳴門市のふるさと納税の改善プロジェク トに関わったことから始まる。改善前の 2014 年の鳴門市のふるさと納税の実績は寄附件数 89 件、寄付額 380 万 8,000 円であったのに対し、パンフレットの見直しや掲載返礼品の見直しなどを行い、市長プレゼンを経て実施された 2015 年度の実績は、なんと寄附件数 3,300 件、寄付額 5,065 万 9,000 円と寄付金額で約 13.3 倍も増加し、大きな「成功」を収めた。鳴門市のふるさと納税の寄付額を大きく押し上げたのは、ふるさと納税の返礼品に追加された「うずしおベリー」という一つの返礼品であった。同年に開催された「なるとビジネスプランコンテスト」での優勝者が栽培するいちごがふるさと納税の返礼品として追加されたことによる効果であった。鳴門市のふるさと納税施策を事例としつつ、先の中央公論で発表されていたふるさと納税収支計算だけでなく、全国都道府県や市町村の財政力指数との関係なども整理する。各都道府県における「ふるさと納税収支」を比較し、地域間格差是正の効果(財政力指数(過去 3 年間の基準財政収入額÷基準財政需要額の平均値)から比較)を測っている。財政力指数が高い都道府県で「ふるさと納税収支」がマイナス(税収減)になり、財政力指数の低い都道府県で「ふるさと納税収支」がプラス(税収増)となっている場合は、ふるさと納税制度によって地域間格差是正効果が期待できることになる。各都道府県の「ふるさと納税収支」は、総務省の「平成 28 年度ふるさと納税に関する現況調査」から算出し、その計算式は、『ふるさと納税収支=(都道府県の「寄附受入額」+都道府県の全市町村の「寄附受入額」の合計)-「寄附流出額」(各都道県の全市町村から流出した(控除された)市町村民税額と道府県民税額の合計)』となっている。結果として、財政力指数トップ6である東京都、愛知、神奈川等は全て赤字であった。しかし7位静岡県黒字、8位の茨城県も黒字、9位の兵庫県は赤字であるが、上位が必ずしも赤字ではない。一方、全国の平均財政力指数よりも低い、24 位富山県、27 位奈良県、42 位徳島県では赤字となっている。本来ふるさと納税制度によって自主財源を増やすべき県であるにもかかわらず、自己財源が減少している。しかし同じ財政力が小さい県でも、財源を大幅に増やすことができている県と財源が減少してしまう県がある。次に県ではなく、市町村単位(県庁所在地)から比較している。東京都をのぞいた 46 の県庁所在地のうち、青森市、秋田市、山形市、水戸市、鳥取市、松江市、山口市、高知市の 8 市以外の 38 の県庁所在地すべてで赤字(東京 23 区もすべて赤字)となっていた。税収が減少している自治体が 82.6%と高い割合を占めている。各県庁所在地では、ほとんどの道府県で「ふるさと納税収支」が赤字となっている。そして、県庁所在地の中でも特に「寄附流出額」の規模が大きいのは、財政力の高い政令指定都市などの大都市であり、ふるさと納税制度では、主に都市部から税金が流出している。しかし、大都市ではない地方都市からも少なからずの税金が流出している。

【参考文献】
矢部拓也、笠井明日香、木下斉(2017)「「ふるさと納税」は東京一極集中を是正し、 地方を活性化しているのか : 都道府県・市町村収支データと財政力との関係から考える」徳島大学社会科学研究、31巻p17-70

2024年1月18日

〈選択理由〉
私は今回「「ふるさと納税」は東京一極集中を是正し、 地方を活性化しているのか : 都道府県・市町村収支データと財政力との関係から考える」という論文を選択した。前回の続きからである。

全国1741の自治体からふるさと納税収支(⦅都道府県の「寄附受入額」+都道府県の全市町村の「寄附受入額」の合計⦆-「寄附流出額)を計算し、1を超えている64自治体を抽出している。財政力指数は、自治体の財政力を示す指標であり、1.0 を上回ると基本的に地方交付税交付金が支給されない税収豊かな自治体であることを意味する。64 自治体中、「ふるさと納税収支」が赤字となっているのは 45 自治体(70.3%)であった。赤字となっている自治体が多いが、県庁所在の 82.6%と比べると低い結果となった。単に財政力指数が高い自治体ではなく、県庁所在地のような各道府県の中でも比較的規模が大きい自治体で、「ふるさと納税収支」の赤字額が大きいのではないかと推測される。また人口規模も関係しているように思われる。(県庁所在地も財政力指数の高い地域は人口が多いため)各都道府県内の人口上位3位までの自治体では、「ふるさと納税収支」が赤字となっている(財源減少)傾向があり、人口が少ない自治体では、「ふるさと納税収支」が黒字となっている(自主財源を増やしている)傾向があることがみえてきた。人口上位都市は寄付金額も大きいが、多くはそれを上回る寄附流出額があり、ふるさと収支が赤字になりやすい傾向がある。ただ、この傾向は全ての都道府県に言えるのではなく、秋田県、山形県、鳥取県、島根県、高知県の 5 県では全自治体が黒字である。逆に、人口下位自治体では、全体的に「寄附受入額」の規模は小さいものの、「寄附流出額」も少ないため、ふるさと納税によって自主財源を増やすのは難しくないように思える。財政力指数、人口量からふるさと納税収支をみてきたが、大きく見れば、ふるさと納税は税の地域間格差是正の機能を有しており、首都圏から地方に税金は移動している。但し、ふるさと納税は税控除による再分配の仕組みなので、全ての自治体が黒字になることはなく、どこかのふるさと納税の黒字が出れば、どこかが赤字になる仕組みである。そのため、昨今、都市部の特定の自治体での大幅な赤字が問題視されているが、「赤字」が生まれること自体は、ふるさと納税の税格差の仕組みが機能している証拠と言える。

【参考文献】土屋 仁美(2020)「ふるさと納税における返礼品競争の要因と問題点」金沢星稜大学論集、53号2巻、p29-39


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