見出し画像

奇妙な隣人

奇妙な隣人

佐藤奈美は、夫とともに郊外の新しいマンションに引っ越してきたばかりだった。新生活に期待を膨らませていたが、どうにも気にかかることが一つあった。隣の部屋に住むという女性が妙に気味が悪かったのだ。

その女性は細身で、小さな体に合わないほど大きな目が特徴的だった。引っ越し初日に挨拶に行くと、彼女はじっと奈美を見つめ、無表情のまま「ようこそ」と一言つぶやいただけだった。その後も廊下ですれ違うたびに、口を動かさず目だけで奈美を追う。笑うでもなく怒るでもない、ただ無機質な視線だった。

ある夜、奈美は廊下から小さな物音を聞いた。時計を見ると夜中の1時を過ぎている。気になり玄関のドアスコープを覗くと、隣人の女性が廊下に立ち、天井をじっと見上げていた。手には何か黒っぽい布のようなものを握りしめている。奇妙に思ったが、話しかける勇気はなく、そのまま見なかったことにした。

それからというもの、奈美は夜中に目が覚めることが増えた。不思議なことに、そのたびに隣から壁を叩くような音が聞こえてくるのだ。最初はネズミか何かかと思ったが、耳を澄ますと規則的なリズムで「カン、カン、カン」と叩く音。それがピタリと止まると、今度は誰かのすすり泣くような声が聞こえ始める。

奈美が夫に話しても、「気のせいだろう」と軽く流されるばかり。だが、その夜、夫もついに異変を目撃することになった。

リビングでテレビを見ていた夫が急に立ち上がり、何かを凝視している。奈美が夫の視線を追うと、窓の外に隣人の女性が立っていたのだ。3階のベランダの柵に手をかけ、じっとこちらを見つめている。何故か足は宙に浮いていた。

その後、隣人の姿を見かけることはなくなった。しかし、時折夜中になると、奈美の部屋の中で小さな笑い声が響くのだ。

いいなと思ったら応援しよう!