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ショートショート「裏アカ」

物心つく前に両親が離婚し母子家庭で育った。

一人っ子で母の帰りも遅く片田舎のアパートで寂しい学生時代を過ごした。

一応高校には入学したが女子高特有のノリに馴染めず中退。

16から地元の食品工場でバイトを始め、何気ない日々を過ごしていた。

(一生このままなのかな?)

工場の大して好きでもない一回りほど歳の離れた社員さんと妥協の結婚をすることが容易に想像出来た。

気付けば私ももう二十歳。

工場は残業が多く休みも少ない。

休日は疲労で家から一歩も出ないのがほとんどだった。

たまに幼馴染みのまゆちゃんと都会に出向きお酒を飲む程度だ。

まゆちゃんは見た目は清楚だが会う度に彼氏が変わっていた。

私と飲むと毎回クラブに誘ってきた。

私は正直まゆちゃんより顔は可愛いし、世間一般的に見ても可愛い部類だ。

しかも、男性を好きにさせる能力に長けている。

好きではなくても私のことを好きにだけさせる。

幼少期から寂しい思いをしてきたので、言い寄られることで安心していた。

お酒が好きなので好きにだけさせて何杯もお酒を奢らせた。

下心丸出しのボディータッチを交わすのも得意だった。

イケメンだけ触ることを許していた。

次の日も工場勤務なので終電の少し前に帰ろうとすると、まゆちゃんはいつも声をかけてきた男性に

「この子帰っちゃうからまゆ寂しい。」

と酔ったふりをしながら、夜の街に姿を消していた。

次に会った際、先日のクラブを出た後の話を聞くのが恒例だった。

いつものように

「ねぇ、まゆ!この前のクラブの後あの人とどうだった?」

するとまゆは珍しく、



「その前にちょっといいかな?」

「何?」

「私立ち飲み屋でバイトしてるって言ってるじゃん?」

「うん。」

「バイトの先輩達が大学卒業で結構辞めちゃうからよかったらりな一緒に働かない?」

「いや、私工場でもう4年も働いてるんだよ?辞められないよ。しかも飲食の経験もないし。」

「いや、それが私のバイト先パッと見立ち飲み屋のガールズバーなの。」

「そうなの?」

「そう。ガールズバーでバイトしてるって言ったら、りなどう思うかなって思って隠してたの。」

「そうなんだ。私はなんとも思わないよ。」

「ありがと。で、どう?一緒に働かない?」

「え〜。私に出来るかな?」

「出来るよ!りな私より可愛いし、男騙すの得意じゃん!(笑)」

「ちょっとやめてよ!(笑)確かにそうだけど。(笑)」

「ね!(笑)そうでしょ!お客さんに、
一杯いただいて良いですか?
って聞いてオッケーだったらお酒もらえるの!りなお酒好きじゃん!飲み放題だよ!」

「ほんと?!最高じゃん!」

「でしょ?しかも個人の売上に応じて給料も上がるの!人気の先輩は1ヶ月で50万円も稼いだらしい!」

「え?!ほんと?!私の給料の3ヶ月分じゃ
ん!」
「ほんと!やる?」

「うん!」

「じゃあ決まりってことで!」



後日、まゆちゃんに案内してもらい店に行った。

飲み屋が軒を連ねるビルの一角に店を構えていた。

本当にガールズバーなのか?と疑うほど普通の立ち飲み屋に見えた。

まゆちゃんが言っていた「パッと見立ち飲み屋のガールズバー」が適切な表現だった。

ママさんに挨拶と自己紹介をすると

「いつから入れる?」

と言われ

「今の職場を辞めたらすぐに働けます!」

と言い帰路についた。



後日、工場を辞めガールズバー初出勤。

まゆちゃんは大学生なので週3回しかシフトに入っていなかった。

初出勤の日は私のためにまゆちゃんも入ってくれた。

「いらっしゃいませ〜!どうぞ〜!」

さっそく普通の立ち飲み屋だと思い入店してきたサラリーマン2人組。

他愛もない話もそこそこにまゆちゃんが

「私達も一杯いただいていいですか?」

「あっ、うん。」

30代男性としての見栄もあるので断れない。

(なるほど、こんなやり口か。)

普通の飲み屋だらけのビル内なので何の疑いもなく入店する。

一杯いただいていいですか?と聞かれ若い女の子のお願いを断れない空気感が漂っているので許容する。

どんどん酔いがまわり気前が良くなる。

(これは騙せる!)



それから私は持ち前の騙す力を発揮しどんどんお客さんにお酒を奢らせた。

初月から個人の売り上げはトップだった。

母子家庭で育ち工場で勤務していたので初めての大金に喜びを覚えた。

それからお客さんを騙すことに拍車がかかっていった。

騙しやすい常連さんはある程度ついた。

初来店の方とは一通り仲良くなると退店前に必ずインスタを教えてもらった。

貢がせまくった客が帰るとインスタのDMで



「〇〇くんおはよ!
りなです!覚えてる?
お店のルールで連絡先交換するのほんとはダメなんだけど、昨日お店で喋っててすっごい楽しかったから裏アカから送っちゃった!
だいぶ酔ってたみたいだけどちゃんと帰れた?」



と送っていた。

私の常套手段だ。

これをすると大抵の男子は食い付いてきた。

私の嘘で取り繕った愛嬌に騙されるような客なので特別感を与えると太客に出来る。

アカウントに裏も表もない。

ただの営業用アカウントだ。

改めて男子はちょろいと思った。

騙される気がしれない。

売り上げがどんどん上がりお金遣いが荒くなった私はママに紹介してもらい他店でも働かせてもらえることになった。


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