中国のIT革命を支えてきたVC達の正体ーCVC上編(Alibaba、Tencentを中心に)
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サイバーエージェント・キャピタルでインターン生として働く日本大好きな東大大学院留学生です。
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※このNoteは、中国ビジネス情報メディア「資本探偵」が発表した中国語記事「传闻中的CVC:巨头在天上,看人间打仗」を元に翻訳・作成しています。筆者から翻訳と転載の許可を得ています。
http://tech.sina.com.cn/csj/2020-06-16/doc-iirczymk7232398.shtml
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中国のビジネス界で繰り返し引用されるこのようなシーンがあります。
ライドシェアリング分野で長く熾烈な競争を演じてきたDidiとKuaiDiの合併交渉が最終段階まで進んでいる時、同じ会議室にいた2社の幹部はそれぞれTencentのCEO劉炽平、AlibabaのCFO蔡崇信に電話し、意見を求めました。
華興資本の創業者包凡氏はこの様子を「BATは雲の上の神のように、人間の戦争を見ているようだ」ようだと言い表しました。
インターネット業界で新たに頭角を現す有名企業の背景には、ほとんどと言言ってよいほどBATの存在があります。その中のDidi(滴滴)、Meituan(美団), Pinduoduo(拼多多), Bytedance(字節跳動)などBATの助けを借りて成長を果たした企業は、今では強力なプレヤーとして反対にBATに脅威を与える存在となっています。
BAT御三家の中で、特にTencentとAlibabaはCVCや戦略投資領域において目を見張る活躍をしています。中国のインターネット業界の半分を築き上げたという声もありますが、正確に言うと、この2社は投資を通じてインターネット業界の構造面とトレンドに影響を与えているというのが実態です。
BATの資本市場での競争を背後から手助けしたのはCVCです。一般的なVCと違って、ご存知の通りCVCは事業会社が設立した独立子会社かまたは投資部門です。CVCの投資先の多くがどこであるかにより、親会社の戦略的な意図を垣間見ることができます。
中国のCVCは創業以来20年以上経ちましたが、過去20年間にインターネットブームが起こり、中国企業と資本力が急速に増加していきました。その一方で、資本市場の浮き沈みがありました。このような環境のもとで、中国のCVCは常に変化をしながら、静かに成長を続けています。
実行者からウォッチタワーへ
Legend CapitalのCEO贺氏はこう言っています。
「伝統的なCVCはその時点での企業の事業戦略基づき投資を行うが、急速に発展するスマートIT時代では、CVCはさらに視野を広く持ち、イノベーションとベンチャーの力を生かして、親会社、もしくはその産業の成長を促すウォッチタワーとしての役割を果たすだろう」
CVCの目標と効果について、ハーバード大学教授Chesbroughは戦略と財務という二つの次元のもとに、さらに親会社と投資先の業務親和度に基づいて、CVC投資を四つのタイプに分類しました。
Driving Investment(推進型投資)
投資先企業はCVC親会社の現在業務もしくは戦略と強いつながりを持っています。
Enabling Investment(補充型投資)
投資先企業とCVC親会社との間に強い業務上のつながりはありませんが、投資先企業のビジネスはCVC親会社のためにビジネス生態系を作ったり、市場ニーズを促したり、マーケットポジションを強化したりすることができます。
Emergent Investment(創発型投資)
Equity投資として短時間でリターンを得ることは難しいですが、CVC親会社に戦略的なEquityをもたらします。
親会社は、投資先を生かして新たなビジネス領域へ進出する他、新たなスペア技術の開発に取り組む機会を得ます。
Passive Investment(パッシブ投資)
投資先企業とCVCとの間に戦略・業務上の関係はほぼ存在しません。
投資はもっぱら財務的なリターンを得るためだけに行います。
上記のモデルを踏まえて、贺氏の「CVCはさらに視野が広くなった」というのはCVCの投資方針が変化し、補充型投資と創発型投資、また、 パッシブ投資は伝統的な推進型投資にとって変わり、長期的な価値のある投資方式になりつつあることを指しています。
このように、中国のCVCは以前の実行者からIT産業そのものを見守るウォッチタワーへ変わり続けています。
中国CVCの歴史
中国でCVCはトップスピードで発展を遂げてきたが、実はCVCの歴史自体は長くありません。
中国初の大型CVC投資団体である実達集団は1998年にCVCを立ち上げ、現在のCVC界隈の力関係図と見合わせると、業界で今最も影響力を持っているTencentとAlibabaは2008年前後に投資M&A部と戦略投資部を創設したという意味で、中国のCVC歴史は正式には2008年前後に幕が上がったと言えるでしょう。
(投資金額と投資案件数から見た時の中国CVCの発展推移)
2014年、政府のベンチャー促進政策が追い風となり、ベンチャーブームは勢いを増してVC市場の成長にもつながりました。同時に、各大手企業も投資しCVCは爆発的な成長期を迎えました。
2016年の投資案件数は最高値の4032件を記録し、また投資金額も上昇を続け2018年にピークの5393億元に達しました。
BAT御三家のCVC
その中で、TencentとAlibabaが最も投資を活発的に行っています。
2010年から2019年までに、Tencentは延べ2072億人民元、Alibabaは延べ1744億人民元を投資しました。この2社は中国のEquity投資市場のCVC投資金額ランキングで長年1位と2位を占め続けています。
この2社の共通点は投資先の範囲が広く、上記の補充型投資、創発型投資、推進型投資をすべてカバーしているところです。
Tencentは、2011年にサイズが50億元のWin-Winファンドを設立し、投資の体系化を図り始めました。エンターテイメントやメディア、コンシューマー、フィンテック、BtoB、AI、医療領域などを対象とし、投資先にはMeituan(美団)、Pinduoduo(拼多多)、Kwai(快手)、Douyu(斗魚)、YuanFudao(猿補導)、Xinyang(新氧)などが含まれます。その中でも、Tencentの主要事業のエンターテインメントゲームビジネスは、依然として投資の最優先事項となっています。 36 Krによれば、Tencentは世界最大のゲーム投資家であり、ゲーム会社を対象とする年間平均投資数は10社を超え、ゲーム領域に投資した金額は83億ドルを超えています。
2016年にTencentが86億ドルかけて買収したフィンランドのゲームSupercell社は、Tencentのエンターテインメント分野における最高投資額の記録を更新しました。
また、近年のテンセントの展望として、ショートビデオに注目し、TikTokの競合であるKwaiへの投資額は既に12億米ドルを上回ったと言われています。
一方、Alibabaはエンターテインメント分野にも何件か投資していますが、Eコマース、ToB領域に偏る傾向があります。テンセントと比べてAlibabaの投資スタイルのほうがよりアグレシッブで、単独投資やリード投資を通して主導型投資をメインに、その後追加出資する形で投資先をそのまま買収する手法が多く取られています(高徳地図、UC、Youku、饿了么など)。
(Alibabaの投資現状;黄色:ジョイント投資;黒:単独投資もしくはリード投資)
Alibaba傘下のアントファイナンシャルも独立CVC投資を行っていますが、Alibaba本体よりも、FintechやToBビジネスなど本業と直接関わる分野での推進型投資に加え、決済の使用場面を拡充する意味で補足型の投資を行っています。2019年10月までに、アントファイナンシャルのCVCは延べ案件数153、金額643億元を投資してきました。
BATの中で少し毛色が違った投資戦略を取るBaiduは投資金額と投資案件数の面でBATの他の二つの企業に及びませんが、2016年にBaidu VCが成立した後は人工知能分野で実績を残し、2017年にBaiduは該当領域に14のプロジェクトに18.5億元を投資しました。Baidu VCの投資案件は、Baidu本業との関係性は比較的薄く、上記の創発型投資に当てはまります。
Top10にランクインしている他のCVC
BATのCVCは市場で積極的かつ鋭く機会を捉えた結果、一連の後発企業の成長に寄与しました。その恩恵を受けた後発企業もある程度の成長を遂げた後に、CVCを通して自らのビジネス領域を拡充し始めました。
創業邦が発表した「2019中国で最も活躍するCVCランキング」にて、BAT以外にJD、Xiaomi、ByteDanceもトップ10にランクインしています。
2016年から正式にスタートしたJDの戦略投資部門は、今日までに100以上の投資案件を実行しました。その大半は本業であるEコマース分野に集中しています。JDは永輝超市と唯品会という2件の投資で大きく利益を上げましたが、一方、易車や途牛への投資で判断ミスをしました。近年ナスダック市場で順調にIPOを果たした即時リテール企業達達集団への投資は、JDの新たな功績となっています。
(JD戦略投資部門ヘッド胡宁峰)
去年7月から、JD戦略投資部門の新たなトップ胡氏の就任により、JDの投資戦略はアリババ式の推進型投資に転換し始めています。胡氏は、今後JDグループの投資は事業部門と戦略投資部門で半々の割合で推進していくという。
Xiaomiは同じ規模の企業の中でCVCが最も積極的に行っているプレヤーの一つです。今までXiaomiが投資した案件の数は270を超えています。2014年をピークに47億元をYouku、Iqiyi、迅雷などのエンターテインメント・カルチャー分野に投入しました。その後の5年間で大きく沈静化しましたが、2019年に小鹏自動車に25億元を投入しました。また、さらに言及すべきこととして、Xiaomiが湖北省地方政府と組んで湖北小米長江産業投資基金を設立し、スマート製造業に寄与する動きが目立っています。
(金額と案件数ベースでXiaomiのCVC投資のトレンド推移)
最近、Twitterを含め、いろいろな意味で話題性が非常に高いByteDanceも投資を通してその地位を固めています。
投資スタイルとしては、マーケットシェアと現在のステージをあまり重視せず、ByteDanceの業務と関連分野で高い技術力や優秀なチームを持っている企業をハンズオンで投資し、場合によってはアリババと同じように、追加投資を通して該当投資先を丸ごと買収し自社の既存部門に融合するか、新規部門として稼働させるケースが多いです。
さらにニュースでもよく見聞きする、皆さんもご存知のHuaweiですが、以前「アプリをやらない、データに触らない、株投資をやらない」と公言したそのHuaweiでさえ最近方針を転換し、ベンチャー投資に取り掛かり始めました。Huaweiは2019年4月に株100%保有子会社「哈勃科技投資有限公司(Harbo Technology Investment)」を設立し、スマートハードウェアを中心に10数件の投資案件を実施しました。
新旧IT大手企業CVCの積極的な活動に追随して、まだ上場していないユニコン企業も同じ分野のスタートアップへの投資を通して布石を打ち始めました。例えば、中国のAIユニコン商湯科技は、今年の5月にAIテックロボットスタートアップ轰轰机器人にシリーズAでの3000万元を投資しました。
また、最近新型コロナウイルス感染拡大の影響で大きくダメージを受けているはずの旅行プラットフォームCtripですが、同社は損失と向き合う時間もない中で、ファンドを立ち上げてCVC投資に踏み切りました。
実は以前から、Ctripは戦略投資に頻繁に手を出していました。2010年からCtripは56件の投資を行いましたが、その投資先はホテル、民泊、飲食、航空、その他の観光関連分野に集中しています。
CVCの設立後、Ctripの方向性と投資スタイルはどのように変化していくでしょうか。
「観光関連産業にのみ投資する」というかつての縛りはなくなるのでしょうか? 新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いた後に、Ctripの新規投資戦略の方向性は、将来の投資先の選択から垣間見えるかもしれません。
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拙い文章を最後まで読んで頂き誠に有り難うございます。
中国の有力CVCプレヤーの全体像やその主な投資戦略をざっくりと説明させていただきました。
さて、新型コロナウイルスという大きな不確実性を前にして、CVCの投資戦略が状況に応じてどのように変わるのでしょうか。
実は日本で多くの企業の中で見られる対極的な対応と同じように、コロナショックに大きく影響を受けていなく財務状況がまだまだ安定の中国のBAT3社の中でも、2020年にアグレシッブとパッシブという大きくかけ離れている投資方針が見受けられますし、CVCと独立系VC、どちらはコロナに影響されるこのご時世で勝ち続けやすいのかという議論も盛んに行われています。
まだまだ触れておきたい内容が多々あるが、あっという間に五分間の文量をオーバーしてしまったので、ここでは上記の内容を割愛し、背景と合わせて今月中に投稿予定の下編でお届けしたいと思います!
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