食レポ|中華そば 竹むら
小雨混じりの冷たい風が肌を流れる。その風に背を押されるようにして、権之助坂を下った。目当ての店は坂の中腹にある「中華そば 竹むら」だ。
時計の針はまだ十二時を指していない。しかし、奥に細く広がるL字型の店内には等間隔で客たちがカウンターに座っている。食券を購入し、店員に導かれて奥の席へと腰を落ち着けた。
白木のカウンター。明るい照明が頭上から降り注ぐ。両手を揉むようにして、眼前の空気に肌をなじませる。注文した「特製中華そば」は予期していたよりも早く供された。
褐色のスープが光り輝く。醤油の香ばしい匂いが鼻腔を刺激した。白のレンゲが茶色に染まる。醤油と鶏の出汁が口の中で響く。舌は純度の高さを察知した。チャーシューに添えられたコショウがスープの奥にある扉を開き、味わいに奥行きをもたらす。
細麺を口へと運んだ。表面にスープをまとい、食感に品の良さを覚えた。薄くスライスされたチャーシューと味玉はスープを包み込み、異なる音階を鳴らす。一杯の丼がまとった品格に厚みのあるタケノコは相性が良い。
手入れの行き届いた日本庭園を彷彿とさせる、そんな一杯だった。
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