食レポ|みやもと 河岸の市店
上空から小雨が降り、頬に触れた。広い間が取られた清水駅の周辺。晴れていれば、何物にも遮られることなく、青空を背景にした富士山を拝むことができたのだろうか。
日本平へと向かうシャトルバスに乗り込む前に、僕は腹を満たすことにした。清水魚市場へと向かう。清水港地元の台所。青墨の空と海を眺めながら、期待に胸を膨らませた。
魚市場の匂いが好きだ。それは固有のものであり、過ごす時間に異なる色を差してくれる。そこに漂う人々の声には力感があり、生命の脈動を感じずにはいられない。決して広くはない空間の中に、多くの店舗が軒を連ねる。看板。写真つきのメニュー。色とりどりの魚介類。心の瞳孔が開くような、そんな感覚を味わった。
「みやもと 河岸の市店」は河岸の市の奥にある。暖簾を抜け、手前のテーブル席へと腰を落ち着けた。壁に掲げられた「みやもと丼」を注文し、ウニをトッピングした。花びらのように重なったマグロの表面には艶が浮かぶ。中央に盛られたねぎとろ、釜揚げしらす、ウニ。昼にマグロ丼を食べたばかりだが、その色彩と質感はそんな事実を忘れさせてしまう。
「焼津港 みなみ」に比べると豪快であり、荒削りだ。しかし、その味は負けずとも劣らない。バターのようなウニのうまみも堪能した。海の近くで、その雄大さを感じさせる丼に触れた。ワサビの刺激を鼻腔に残しながら、僕は清水駅へと戻る。
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