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食レポ|焼津港 みなみ

 新鮮な海の幸。それは僕を興奮させる。肉が持つ猛々しさとは異なる、健やかな、軽快な満足感がそこにはある。

 僕は静岡駅に初めて降り立った。規模の大小に基準はあるのかもしれない。しかし、適度に洗練され、人の息遣いが感じられる街が僕は好きだ。駅のコンコースを抜け、背後の駅ビルへと視線を向ける。この街は肌に合う。

 シティホテル。タクシーの群れ。見慣れない、どこにでもありそうな風景を抜ける。「焼津港 みなみ」はその先にある。開店時間を少し過ぎた十一時過ぎ。猫の尾のように、短い列が入り口から顔を覗かせる。灰色の空は内なる雨の放出を我慢しているかのようだ。時は経ち、僕は店内へと招かれる。

 清潔に保たれた店内。輝きを放つテーブルは空気をも清らかにしているような錯覚を覚える。マグロ丼専門店。どこまで良質なマグロに出会えるのだろうか。期待を胸に「みなみA L L★S T A R S」を注文した。ルビーのように輝くマグロが黒の丼に映える。赤身、中トロ、大トロ、すき身。贅沢な時間がここにある。涼やかなうまみ。それはとても濃厚だ。間違いのない美味。

 しかし、同時に気づく。今までに口にしたマグロ丼が一つでも期待にそぐわなかったことがないことを。その中から違いを一つ見つけた。マグロを食べていながらも、鼻を抜ける「マグロの香り」が軽やかであることを。判を押すように、流れる旅の時間を満喫した。


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