食レポ|鶴一家
三ツ沢から新横浜通りを下った。脚に勢いが乗り移る。坂道を下る自転車のように、浅間下交差点を越え、横浜駅前を通過した。
横浜駅北口から歩いて五分。人気の薄れた路地にある「鶴一家」が眼に入る。何年ぶりだろう。歩みを近づけるごとに、記憶が蘇っていく。食券機で「豚骨ラーメン」を注文し、奥のカウンター席に腰かける。
木々の温もり。適度な奥行き。音を立てるように現実が想像を塗り替えていく。周囲に視線を漂わせていると、眼の前から丼が差し出される。想定よりも早い。
水色の丼に黄金色のスープが映える。汁気が薄く、重厚なスープだ。レンゲですくい、口へと運んだ。クリーミー。マイルド。それ以外に表現できない。甘みさえ感じる味わい。五年は前だろうか。最後に食べた際の静かな衝撃が色彩を帯びる。
ニンニク、唐辛子、酢、コショウ。いつものルーティンを実践した。おいしい。しかし、ピュアなスープが名残惜しい。家系ラーメンを食べて、そう感じたことはほとんどない。それらはいつも一杯を別次元へと運ぶ。スープを絡めた丸めのストレート麺は滑らかな口当たり。ほうれん草も海苔もすべてがスープを中心に連動していく。チャーシューも油気と肉気が絶妙に共存している。
数多く存在する家系ラーメン。その中でも個性を放ち、口にする者を魅了することはどれほど難しいのだろう。基本形を踏襲しながらも、アプローチを変えた一杯がここにある。家系ラーメンの奥深さと言ったら平坦に聞こえる。しかし、土壌の豊かさとも言える感覚を味わった。