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『エフェメラ』の歌詞解説
新曲『エフェメラ』
お聞きいただけましたでしょうか。
エフェメラというのは葉書や手紙、ポスターなどの長期保存を目的とされていない印刷物のことです。
短い夏の夜がテーマの曲なので、我ながらピッタリの題を付けられたと思っています。
自分は詩の読解が好きで、大学時代には現代詩のゼミに入っていました。
詩って深く読み込んでいくと、何となく感じた雰囲気や気持ちが言語化できる気持ちよさだったり、一瞥した時とはガラッと変わった表情をみせる驚きだったりが味わえるんです。
そういう余白が詩の良さなのは重々承知しているのですが、「歌詞でもそういうことができるんだよ」ということをお伝えしたくて、今回は自分の詩を自ら解説していくというある種のタブーを犯してみたいと思います。
もちろんここに書いてあることが正解だとは限りません。
この詩はすでに僕の手から離れて、僕のあずかり知らない余白を自分で作り出しているんです。
僕の解釈を踏まえたうえで、みなさんがこの詩とどう触れ合っていくのか、とても楽しみにしています。
まずは楽曲と歌詞を聞いていただけますと幸いです。
曲
歌詞
小暗い仮屋 刻むの体温
若干(そこば)の符号 都合のほうはどうだろう
曰く大問題 さすがの不佞裏面(ふねいりめん)
そこらの有象無象とどう紛うだろう
傘の中 歌いだしたトロイカ
常々胸の中に育ってんだ 気付くと歌っていた
らしくもない 暗くなって
恨まれる筋などない ってか僅かもない
この街でどっち行こう 真っ白なフリして
Ready?
思いあがってNo Time 飛んで夢にならないように
ぞんざいなフリして 今言葉の通り
燃えあがって 脳内圧が上がり続ける条理
壮大なイメージで 今誰かを愛している
想い刻む日は あの光の中で
愛想出していたい 潤んだ両の目
横合いのダンス 誘うロマンス 零れ落ちて
もう駄堕妥だぁ 刻むの体温
諸刃の理論武装 無論、不穏な相
Ready?
思いあがってNo Time 飛んで夢にならないように
ぞんざいなフリして 今言葉の通り
燃えあがって 脳内圧が上がり続ける条理
壮大なイメージで 今誰かの愛を
燃えあがった後悔 明日も胸につける不定詞
大層なイメージでできた夢を見てた
想い刻むにはあの光の中へ
この想いふかすのには あの光の中へ
前提
ご覧いただけましたでしょうか?
この曲のテーマは、失恋した女の子が短くも美しい「夢」の中で、理想の恋愛を妄想するというものです。
夏の夜はとても短く、この「夢」の儚さを表現するのにぴったりの舞台でした。
彼女はこの短い「夢」がいつか終わることを理解しつつ、美しい世界に没頭したい気持ちと、現実に目を向けなくてはいけないという自制心の葛藤を繰り返すのです。
彼女がどんな答えを出すのか、どう歩んでいくのかはこの詩の中で語ってはいないので、皆様の思うように物語を作ってみてください。
では、一番の歌詞から見ていきましょう。
読解
小暗い仮屋 刻むの体温
若干(そこば)の符号 都合のほうはどうだろう
狭い部屋で密着している様子を描きました。
小暗い部屋で体温を感じる…
エッチな出だしですね。
「仮屋」という表現もありますし、彼女は付き合っている当時から、この関係が永遠に続くものではないということを察していたのでしょう。
すごく細かいことではありつつ、いくつかの思い当たる節(若干の符号)があったのです。
彼の顔色(都合)を伺いつつ、なんとか延命を試みていた様子が見られます。
曰く大問題 さすがの不佞裏面(ふねいりめん)
そこらの有象無象とどう紛うだろう
早くも別れの時が来てしまいました。
不佞(ふねい)というのは、才能がないことを表す言葉です。
この関係を続けられなかったことによって、なんとか見せないようにしていた自分の情けない面、弱い面を思い知っています。
自分は彼の特別じゃなかったのか、という気持ちが「まあ私なんてどこにでもいる人間だしな」という卑屈な思いを呼び起こしています。
傘の中 歌いだしたトロイカ
常々胸の中に育ってんだ 気付くと歌っていた
付き合っていた当時の記憶です。
出だしは「部屋の中」であったのに対して、ここでは「傘の中」と少しだけ二人の距離が離れていることがわかります。
『トロイカ』というのはロシアの民謡のことで、これも失恋の曲です。
とても傘の中で歌うような曲ではないのですが、そこはご愛敬。
歌詞という性質上、メロディーと自分の表現したいことが合致するものがこれしかなかったのです。
彼が歌っていた『トロイカ』が、彼女へと渡っています。
彼も失恋を引きずっているようですね。
もしかすると元カノが忘れられず、彼女とは別れてしまったのかもしれません。
付き合ってはいるけれど、別れを両者がどこかで感じているという、とても悲しい場面です。
らしくもない 暗くなって
恨まれる筋などない ってか僅かもない
この街でどっち行こう 真っ白なフリして
ここから彼女の現実逃避、「夢」の世界への没頭が始まっていきます。
自分はなにも悪いことしていないのにどうして別れなきゃいけないのだろう。
私たちはずっと二人仲睦まじく生活していくはずだったのに…
例えばこんな風に…
といった感じですね。
別れたことをなかったことにして、自分にはフラれる理由がないと思い込んで(真っ白なフリして)、彼女は理想の世界に歩みを進めます。
Ready?
思いあがってNo Time 飛んで夢にならないように
ぞんざいなフリして 今言葉の通り
さあ準備はできましたか?
最高の物語の幕開けです!と言わんばかり、ノリノリでサビが始まります。
彼女は「夢」のなかで理想の生活をしていきます。
ただ彼女、この生活が「夢」であることは自覚しているのです。
この儚い「夢」を終わらせないように、現実で気付いてしまった符号に気付かないくらいぞんざいなフリをして、はしゃぎすぎてこの生活を壊さないように、彼女は眠り続けます。
燃えあがって 脳内圧が上がり続ける条理
壮大なイメージで 今誰かを愛している
想いはどんどん募ります。
人間は睡眠時に脳圧が上がります。
彼女はどんどん深い眠りにつく、つまり「夢」に没頭していくわけです。
想い刻む日は あの光の中で
この「刻む」というのは実はこの曲のキーワードになっています。
一度Aメロのなかにも出てきましたね。
「たしかに感じる」ことを彼女は「刻む」と表現しています。
僕は
「私の恋が成就する日をあの光の中(夜が明け、夢から覚めた現実の世界)でも迎えよう」
という強い決意のようなものを表現したのですが、
「彼の恋心がたしかに感じられる日を、あの光の中でも迎えられればいいな」
という希望的観測にも取れますね。
もしかしたらまた別の解釈があるかも、、、
とにかく、「あの光の中」というのが、「夢から覚めた現実の世界」を表現しているということだけ理解していただければ大丈夫です。
愛想出していたい 潤んだ両の目
横合いのダンス 誘うロマンス 零れ落ちて
目が覚めてしまいました。
この曲ではサビが「夢」それ以外が「現実」のことをうたっています。
ふてくされた顔で、あくびをして涙がたまった両目。
復縁の試みもしょせん横合い(彼にとっては邪魔な)滑稽なダンスに過ぎない。
けれどもあのうっとりする「夢」の世界(ロマンス)は彼女の心を掻き立てます。
零れ落ちたのは涙なのか、それとも現実の世界では抑制していた恋心なのか、、、
もう駄堕妥だぁ 刻むの体温
諸刃の理論武装 無論、不穏な相
どうしようもないとき、「だあああ!!」って叫びたくなる時ありません??
僕はよく自分の黒歴史とかを思い出して布団の中で「だああああ!!」ってなります。
まあ彼女もそういう状態です。
マイナスな感情に押しつぶされそうになっています。
また、もう一度あの体温を思い出しています。
再び「夢」の世界に入り込む予兆が感じられるわけです。
別れてしまったことはもう仕方がないことなのだ、と思い込むための言い訳。
一方でもう一度「夢」を見ることくらい許されるでしょという言い訳。
この諸刃の理論武装で彼女は自身の身を守るのです。
Ready?
思いあがってNo Time 飛んで夢にならないように
ぞんざいなフリして 今言葉の通り
燃えあがって 脳内圧が上がり続ける条理
壮大なイメージで 今誰かの愛を
さあ、もう一度夢の世界に足を踏み入れました。
ここは一番と同じです。
燃えあがった後悔 明日も胸につける不定詞
大層なイメージでできた夢を見てた
さあ一番との変化が見られてきました。
この後悔は「ああしていれば別れていなかったかも」というものなのか
それとも「また夢にすがってしまった」という後悔なのか
答えは人それぞれです。
今出した答えも数年後には変わっているかもしれません。
不定詞。
英語にトラウマがある人にとっては目をふさぎたくなるような単語でしょう。
不定詞というのは、「動詞」を「名詞」や「形容詞」にする働きをもつものです。
「動詞」を別のものにする。
つまり彼女は、胸の中に渦巻く動的な何かを必死に押し殺そうとしているのです。
「明日」と言っているので、目が覚めた時、現実世界では彼女は必死に自分を抑制しているのです。
「壮大なイメージ」が「大層なイメージ」という若干卑屈な表現に変わってしまいました。
彼女は「夢」から卒業しようとしているのです。
想い刻むにはあの光の中へ
この想いふかすのには あの光の中へ
さあ、彼女の決断の時です。
自分の恋心を本当に成就させたいのであれば現実に目を向けなければなりません。
同時に想いをふかす(自分の恋心を抑制もせず、発散もさせず、きれいに忘れる)ためにも、現実の世界で生きなければならないのです。
彼女は「夢」から覚め、「現実の世界」で生きる決意をしたのです。
彼女が現実世界で、恋の成就に尽力するのか、この気持ちを忘れ、次の恋路へ歩みだすのか。
ここからは皆さんの感じ方次第です。
まとめ
いかがだったでしょうか?
国語の授業っぽくて嫌気がさしてしまった方もいるかもしれません笑
そんな方には語感で楽しんでいただけるようにも作っているつもりです。
詩と歌詞。似て非なるものだと思っています。
そもそも漢字が違いますしね。
音に乗れば楽しく、活字に起こせばどこまでも深く
そんな歌詞を書いていきたいな、なんて思っています。