モノローグ台本『Close!』
『Close!』
作:渋谷悠 原案:小駒ゆか
制限時間は1分、砂時計で測ります。
子供たちはカードを持っているチームと、それを当てるチームに分かれます。カードには何かに分類できるような絵が描いてあって、動物とか食べ物とか、乗り物、建物、文房具。授業中に単語として教えているものが殆どですね。片方のチームが It is food. It is round. みたいなヒントを出して、もう片方が Is it a tomato? Is it a watermelon? と当てようとします。
子供たちは日本で育った日本人ですし、小学2年生なので英語で言えることは多くありません。よくある手法ですが、こうやってゲーム形式にして、少しでも楽しみながら英語を学んでもらえればと講師たちが編み出しました。
私が勤める塾の方針なんですよね、勉強の楽しさを教えるっていう。
だから講師たちは「間違ってる」とか「違う」とか、否定する言葉は使わないようにしています。大好きな方針なんですけど、油断すると言いそうになっちゃう。小学生ってこっちの言うこと全部否定で返してきたりするんですよ。親に言われてるんですかね。
そんな時、私たちは否定の代わりに「惜しい」と言うようにしています。
私の場合、英語の授業なので “close” と言います。あとちょっとだよ、という気持ちを込めて、Close!
そのゲームでなかなか当たらなかった単語がありました。
なんだと思います?小学生に人気の動物なのに、これが意外と出てこない。首が長い…そう、キリンです。
子供たちは、It is なになに、みたいな単純な文章しか作れないから「首が長い」It has a long neck. が言えないんです。それが言えないだけで、全然当たらない。
子供たちは It is big. とか It is yellow. とか精一杯ヒントを出すんですけど、ライオンやタイガーになっちゃう。Is it a lion? No! Is it a tiger? No!
砂時計の砂はどんどん落ちていきます。
ヒントが底を尽きてくると、同じヒントを繰り返すしかなくなってきます。当てるチームも焦りで当てずっぽうです。
その時、答えのカードを持っていた子が言ったんです。Close!って。
キリンを当てようとしている時にライオンやタイガーは惜しいとは言えないかも知れません。でもその子は、私たち講師の真似をして、もうちょっとだよ、頑張って、と顔を真っ赤にして応援したのです。Close!
チームの他の子たちも続きます。Close!
Is it a bear? Close! Is it a duck? Close! Is it a kangaroo? Close!
私は、この瞬間を忘れてはならないと思いました。
ただのゲームだったはずが、彼らは英語以上の何かを学び始めていたのです。
砂時計の残り時間がわずかでも、難しい言葉を知らなくても、外しても外しても外しても、近づいているのかさえ分からなくても、小さな単語ずつ、答えに向かってゆけ。ほら、もうちょっと。Close!
使用許可について
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