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モノローグ台本『アロマセラピー』

『アロマセラピー』本文

作:渋谷悠  原案:中垣内彩加

(女、彼氏を起こさないように枕カバーを外そうとしている。)
なんでもないなんでもない、寝てていいよ。
あ、ちょっとだけ頭上げてもらえる?そそそ。あはは、トモくん目やに凄いことになってる。
(女、枕カバーを外す。)
おし、お宝ゲット。これで今日のプレゼンもバッチリだぜ。
ん?なんでもないから気にしないで。トモくんは休みなんだから寝てなよ。
(女、枕カバーをサッと嗅いでから畳む。)
だからなんでもないって。ちょっとしたお守り。
(喋りながらジップロックを持ってくる。)
あ、トモくんの分もフレンチトースト作っといたからチンして食べてね。ヨーグルトをちょっとかけると美味しくなるよ。無糖の方ね、小さいパックのじゃなく。あとさ、ゴミ出しお願いしてもいい?
さんきゅ。10時には来ちゃうからその前にお願いね。
(枕カバーをジップロックに入れる。)
いやだからお守りだって。これ?だからこれに入れれば、逃げないでしょ、匂いが。
……うん、トモくんの匂い。
ちょっと待ってちょっと待って、引くのは早い。引くのは俄然早い。

アロマセラピーってあるじゃないですか。有名なのはまあ、ラベンダーの香りにはリラックス効果があるとか、柑橘系は何だったかな、鬱にいいとか不眠にいいとか、あるじゃないですか。つまりですよ、人間は匂いに癒やされる。これもう一大産業。
違う違う、加齢臭なんかじゃなくて、いや噓、100パー加齢臭なんだけど、聞いて聞いて、あたしにとってはアロマなの。フレグランスなの。お店で売ってたら買うレベルなの。

今日大事なプレゼンがあるの知ってるでしょ?
あたしの企画が通ったらプロジェクトリーダーやらせてくれるかも知れないの。常務取締役も来るの。だからプレゼンの直前にこれを嗅いで、気持ちを落ち着かせたいの。
だってトモくん会社に連れてって、首すじとか耳の裏とかクンクン嗅ぐわけにはいかないでしょ。なにそれカオスでしょ?それ以前にどちら様ですか?って話でしょ。

え、そこ?トモくん臭くないよ、いや噓、臭いぐらいがちょうどいいって話。はい、引くのは俄然早い。
落ち着いて考えてみて。シンキングタイム。
トモくんはこれからもっと年を取るんだよ。衰えてくんだよ。匂いも強くなる一方だよ。ある日突然桃の香りとか出てこないよ。
デオドラントやら香水やらで誤魔化すことはできても、匂いを出さないってことは出来ない、そうでしょ?
そこでだ。そこでですよ。ね。その匂いを臭いと感じる女がいいか、もっとちょうだいって言う女がいいか、はいこれ、どっちがいいですか?
(笑顔になり)でしょ?
ご理解して頂いたところで…。
(ジップロックから枕カバーを取り出し、たっぷり匂いを嗅ぐ。)
(我に返り、不安そうに彼氏を見る。)
……嫌いになった? 

使用許可について

・公演、ワークショップのテキスト、YouTube動画など、ご自由にお使いください。許可申請・上演料・使用料は不要です。
・その際、作:渋谷悠のクレジットを明記してください。
・あわせてモノローグ集『穴』のURLをご紹介頂ければ幸いです。
https://www.amazon.co.jp/dp/4846017575

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日本の演劇界・映画界にモノローグを広めるというビジョンのもと、渋谷悠のモノローグを40本以上無料で公開しています。

劇作家・映画監督:渋谷悠とは?

1979年生/東京都出身。バイリンガル。
劇作家・舞台演出家・映画監督。ナレーション、スクリプトドクター、脚本執筆指導や演技指導の講師としても活動する。
第66回ベネチア国際映画祭入選。第46回国際エミー賞ノミネート。2020年度NHKサンダンス・インスティテュートフェロー。
39本の一人芝居が収録された著書モノローグ集『穴』を軸にセミナーや生配信番組を主宰するなど、日本の演劇界・映画界にモノローグを広める活動にも従事している。

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