モノローグ群像劇『いたずらのパレード』より:純子の視点”フリ”
『フリ』本文
作:渋谷悠
(この作品はモノローグ『いたずら』の続きです)
いいじゃない、ここ。
あなたが作ってくれた候補地のリスト、あれを見たときはアクセス微妙なところが多いなって正直思ったけど、わざわざ樹木葬にしたい人って、こういうことよね。ちょっと離れたところで、お疲れ様でしたーって眠りにつきたいのよね、緑と一緒に。
少子高齢化で先祖代々の墓を受け継ぐ人がどーちゃらとか、なんか悪いことみたいに言われてるけど、私は、忘れられていくって、そんなに悪いことじゃないと思うのよね。
このプロジェクトを進めるうちに、私も死んだら樹木葬にしようって思うようになったもん。だってさあ、なに、あんな重たい石の下にしまわれるより良くない?いつの間にか木の栄養になって、幹になって、枝になって、花になって。
あ、でもね、このプランは私ひとりで考えたんじゃないの。
大学の同級生と一緒に考えたの。なんか、自分の思い付いたことと、現実との境界線がすぐに分かんなくなっちゃうような子で…でも分かんなくなってる時が、多分一番輝いてて。
だから、あの世とこの世のどっちでもないようなこれ、思い付いたりするのよ。
その子は結局、建築の道には進まなくて、で、ずいぶん前に、「あの時の霊園の企画、私が実現させてもいい?」って連絡して、そしたらすっごい嬉しそうな返事が来てね。だから、実際に建てることが決まったらサプライズしてやろうと思ってたの。思ってたんだけどね…。
ほら、私先月結婚したじゃない?
間が少し空いちゃってたけど、呼んだのよ、ちょっとしたお手伝いも兼ねて。そしたらさ、なんだかいきなり告白されちゃって。ううん、女子女子。
だから、カミングアウトと告白が同時にって言うね。
樹木葬どーちゃら出せる流れじゃないでしょ。
まあ百歩譲ってあの子に必要なことだったとするよ。
気持ちの整理みたいなね。応えられなくても、受け止めるくらいはできたかも知れない。
でもさぁ、こっちは結婚式の直後ですよ?
一生を誓い合ったタイミングでぶち込んでくる?
やたら昔のこと引っ張り出してきて「あれ覚えてる?これ覚えてる?」って、そりゃ聞いてるうちに思い出したんだけど、また境界線が分かんなくなってて、だから輝いててね…そのまま、忘れたフリをしたの。
…大人になるって、友達が減ってくことだよね。
え?(笑って)まあ、ラブラブかな。
流石に式挙げたばっかでもう傾いてたらしょーもなさ過ぎ。
結婚はねぇ、結婚はいいよー。
好かれようとしないでいいから楽。
そりゃお互い努力はやめないようにしようって約束してるんだけど、そうそう、でも夫婦っていう土台があるからね。
ごめん、嘘。
夜がね、こんなこと話していいか分からないけど、あっちが…元気が出ないみたいで。あの人なりに考えたのか、そのぅ、エッチな下着を付けて欲しいって頼まれて…。
なんか惨めな気持ちになったけど、頼まれた時の顔が、勇気を振り絞ってたのね。プロポーズされた時の顔がふわっと。
よし、ここを頑張るのが結婚じゃんって、「官能的」とか検索して、ほとんど紐みたいな下着を買ったわけ。バルセロナから取り寄せて。24000円も払って。
建築士としてはサッパリ分からない。なぜ面積の無さにそれだけ払うのか。
そしたら、そしたらね、そんなこと頼んだっけ?って、忘れたフリされちゃった。
気に入らなかったのかなぁ…。
(純子、辺りを見渡して)
ここにいると、やらしい下着一枚でどーちゃら言ってる自分が馬鹿らしくなってきちゃう。でもね、そういうのがね、今、生きてる証拠だよね。
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