モノローグ台本『好き』
『好き』本文
作:渋谷悠
(デート中の女、彼氏に休もうと提案される。)
うん!
(何かに腰掛けて、男を見る)懐かしい、ああいうの見ると?
亮くん、高校の頃ピッチャーだったんでしょ?
亮くんが投げてるとこ、見たかったな…。
同じ学校だったらさ、見に行けたじゃん。
もうやんないの?
そっか。そだよね。
ファンが沢山いたんだろうなぁ、みんなキャーキャー言ってさ。
え、いたよ絶対、亮くんが気付かなかっただけ。いたって絶対。
じゃあ分かった、あたしがキャーキャー言う。
あたしはね、塾ばっか行かされてるうちに高校終わったって感じであんなふうに走り回って沢山汗かいたりするの、なんか羨ましくて。本当は吹奏楽部に興味が、ん、映画の時間?
(携帯か何かで確認し)まだちょっとあるよ。楽しみだね。
ね、亮くんあれやって。だからあれだよ。
(エスキモーキスをする)ふふ、亮くんの鼻の油がついちゃった。
(指で拭いてぺろっと舐める)ごめん引いた?気持ち悪い?
気持ち悪いならやめるよ。
本当?分かった、じゃあやめない。
味は別にしないよ。強いて言えば亮くんの汗の味。
(男を見る間)やっぱりちょっと懐かしいんでしょ。
ね、野球選手になりたいとかって思ったりした?
ふーん。え、じゃあ、なりたいものってなんだった?
あるじゃん、よく子供の頃親戚とかに聞かれてさーあ、あたしのお兄ちゃんはロボット博士とか言ってたよ。そうそう、そういうの。
(女、携帯で動画を撮り始める。)
あ、気にしないで喋って。
ほらほら、なりたかったもの、語って。
ポーズしないでいいから、これ動画だから。
写真じゃないってば、だからはい、続き。
(間)なんに使うのって、別に…。
(撮影をやめて)あとで、何度も見るだけだよ……。
嫌?嫌なら消すよ。
うん、じゃあ大切に見るね。
亮くん。好き。
え、ちょっと、今鼻で笑った?
ひどーい。
本当はアレでしょ、好きって言えるあたしが羨ましいんでしょ?
亮くんも言ってみ、気持ちいいよ。
好きって言葉はね、自分の中から自分を取り出して、その子は多分裸で、こうやって両手で持って、はいってその子を差し出すの。
そんな感じだと思わない?
え?タバコ?もう切れちゃったの?
確かそこの角曲がったところに…ってかあたしも一緒に行くよ。
すぐそこだけど一緒に行きたい。
そう?分かった。行ってらっしゃい。
(女、待つ。ふと動画を思い出し、携帯で再生する。)
んーふふ、かっこいい…。
「何?写真じゃないの?」
写真じゃないよーだ。
「なんに使うの?」
こうやって使うのです。
(動画が終わる。女、待つ。)
(男が行った方向を不安そうに見る。)
(そわそわ待つ。男が行った方向をまたしても見る。)
亮くん…。
(立ち上がり、男が行った方へ歩き出す。)
亮くん…?
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