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モノローグ群像劇『いたずらのパレード』より:一之の視点”けど”
『けど』本文
作:渋谷悠
(このモノローグは『いたずら』と『フリ』の続きです)
(一之、EDの相談に病院に来ている)
何がきっかけか…ネットのEDのセルフチェックをやって、何回かやって、結果が変わらなくて、先生のクリニックを見つけてから、何がきっかけか、そんなものがあるのか、色々と考えたんですけど…。
色んなことが、こう総合的にアレしてるとは思うんですけど、どうもこうなったのは、結婚式で元カノと再会してから、あ、はい、最近結婚したんですけど。
元カノは妻の親友なんです、大学の頃の。
妻は知らないんですけど、妻と付き合う前に付き合っていて、その子と、あ、名前も園子って言うんです。ダジャレじゃないですけど。
その子が、その、あんまりしたがらなかったんです。
悩みが普通じゃないんですよ。小学校から男の子の格好をしてたとか、女性の服を見るのが辛いとか。女であることに安心できないとか言うんですよ。なんですか安心って。
久しぶりに会って、無意識に蓋してたんでしょうね、あの頃のことを一気に思い出したんです。男としての自分が、ものすごく、否定された時期でした。
我慢してる感じなんですよ、まるで僕が、わかんないですけど、まるで僕が、なんかこうわかんないですけど、彼女の顔がこう…。
それで、かどうかわかんないですけど…立たなくなりました。
立たなくて、立場がないです。先生そこ笑います?ダジャレじゃないですよ。
その子に、僕が笑わせようとしたわけじゃないのに、笑われたことがあります。
僕、男なめんな!って言って立ち上がったの覚えてます。
(ここは風俗店の一室)
いや、セイラちゃんのせいじゃないから気にしないで。本当、この間が奇跡だったんだ。嘘じゃないの分かったでしょ?僕が感動してるの不思議そうにしてたけど。
ごめんとかいいから。ってかセイラちゃんも慣れた方がいいんじゃない?
男性の自信回復ってホームページに書いてあったけど。僕みたいな客が沢山くるわけだろ。なんか、うまくいかなかった時のかわしかた、身に付けといた方がいいと思うけど。
この間さ、セイラちゃんがくれたアイディアを試してみたんだけど。
うん、いや流石は奥さんっていうかさ、好みの下着を用意してくれたんだけど。
なんて言うの、もうほとんど紐みたいなさぁ。
どうなったって、そりゃあ…。いや、頼んだこと自体、忘れたフリをしたんだけど。
ひどいとかうるさいよ!ひどいとか言われる筋合いないよ。
だって、そこまでやらせて、こっちがダメだったら、いよいよ、いよいよ、どうしようもないだろ?
…お前なんかのアイディアを信じたのがバカだった。
(ここは海岸沿いの被災地)
あの人だったら、仁さんだったら、きっと僕が必要としている言葉をかけてくれるはず。
被災地のボランティアで知り合った、元ヤクザの仁さん。
被災地なのに、上下白のスーツを持ってきていた仁さん。
いつもタバコを吸っていて、3週間一緒に体育館で雑魚寝した仁さん。
津波で流された老人ホームの瓦礫撤去を、園子と3人でやった。
木とか、壁だったものとか、土砂とか、家具らしきものの残骸とか、何日もかけて更地にしていく。
仁さんは、口癖のように「ヤクザはやめた、これからは人様の役に立つんだ」と言っていたけど、話し方はヤクザっぽかった。あの口調で怒られたい。
「おめえ、そんなことでグズグズ悩んでっから立つもんも立たなくなんだよ」
仁さんに会いたいなぁ。
僕もあんなふうに話せるようになったら、頭の中も、更地にできるんじゃないかと思う。
「まずはよぉ、おめえの話し方が気に入らねえ。
おめえやたらと「けど」って言うの自覚あるか?
けどけどけどけどうるせえんだよ」
けどのない、まっさらな、世界。
繋がっている他のモノローグ
この作品はモノローグ群像劇『いたずらのパレード』に登場する4本のうちの1本です。残りの3本はこちらです:
連作ではありますが、単独での使用OKです。
使用許可について
・公演、ワークショップのテキスト、YouTube動画など、ご自由にお使いください。許可申請・上演料・使用料は不要です。
・その際、作:渋谷悠のクレジットを明記してください。
・あわせてモノローグ集『穴』のURLをご紹介頂ければ幸いです。
https://www.amazon.co.jp/dp/4846017575
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日本の演劇界・映画界にモノローグを広めるというビジョンのもと、渋谷悠のモノローグを40本以上無料で公開しています。
劇作家・映画監督:渋谷悠とは?
1979年生/東京都出身。バイリンガル。
劇作家・舞台演出家・映画監督。ナレーション、スクリプトドクター、脚本執筆指導や演技指導の講師としても活動する。
第66回ベネチア国際映画祭入選。第46回国際エミー賞ノミネート。2020年度NHKサンダンス・インスティテュートフェロー。
39本の一人芝居が収録された著書モノローグ集『穴』を軸にセミナーや生配信番組を主宰するなど、日本の演劇界・映画界にモノローグを広める活動にも従事している。
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\初めまして渋谷悠です!/
— 渋谷悠(Yu Shibuya)ベネチア入選・エミー賞ノミネート、サンダンスフェロー (@yshibu97) June 28, 2020
脚本家・映画監督・舞台演出家・俳優
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