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モノローグ台本『うん』

『うん』本文

作:渋谷悠

(女、携帯で話している。)
へえ、さーやも来るんだ…。
いや別に、うーんあのほら、凄いあたしたち仲良かったじゃん?
でも卒業してから、なんだかあんまり、ね会おう会おうって言ってて、
それで…でも忙しいね、とか言ってるうちに、結局、
1回も会ってないんじゃないかなぁ。
だからちょっと気まずい、うん…まあどの道行けないからアレだけど。
(女、聞くべきか迷う。)
あの、健二君とかも来る…の?
(短い間)そうなんだ…。
あれだよね、ちょっとおじさんになってたりとかしたら嫌だよね。
そうそう、ハゲてたりとか!絶対嫌だ、そんな健二君絶対見たくない。
(笑って)まだハゲてないか、そんなにね、時間…。
うん、カッコ良かったよねー。
あたし一回、あのぅ、健二君が学校出るの待ち伏せしてね、
あのう(照れ笑い)おうちに帰るのついてって、
どこに住んでるのかちょっと見てみたくってね、
ついてったことあるんだ(更に照れ笑い)。
超ストーカーだった、あたし。
あの頃そんな言葉なかったね。

へえ、じゃ結構集まるんだ。いいなあ。
(改めて誘われて)うん、うん、ありがとう。
でもちょっとあたしやっぱりほら、うん、子供いるしさ。
ちょっとね、実はあんまり手が離せないんだ。
うん…。うん、みんなには元気だよって、伝えといてくれる?

うん、そだね、へへへ、うん。
あ、ごめん、ちょっと今、あのねその、まだ赤ちゃんなんだけど、
ちょっと泣き出しちゃった…聞こえる?
(短い間)うんそうそう、女の子。うん。
(子供の名前を聞かれて)え?うん。
蓮の花の蓮と、菜の花の菜合わせて「はな」って読むんだけど、うん。
(名前を褒められるが)あ、ごめんもうちょっと、
うん、泣いてるから、行くね。
ありがとうね。楽しんでね。
うん、じゃあね。
(電話を切りながら、赤ちゃんのところへ。)
ごめんごめん、起こしちゃったねー。よーしよし。
お母さんあんまり上手くないけど、歌ったげるね。

「光の中で みえないものが
やみの中に うかんでみえる
まっくら森の やみの中では
きのうは あした
まっくら クライ クライ」

お母さんが子供の頃TVでやってた歌なんだ。
みんなのうた、っていう番組があってね、怖い歌だって最初は思ったんだけど、
なんだか好きでね、全部覚えたら、1人でトイレに行けるようになったんだよ。
だからみんなのうたじゃなくて、あたしの歌なの。
(また少し泣き出したのか)あーよしよし…。

「耳をすませば 何もきこえず
時計を見れば さかさま回り
まっくら森は 心の迷路
早いは 遅い
まっくら クライ クライ」

あたし1人でも、あなたを育てられるかなぁ…?
(赤ちゃんの何かを見て、笑顔になる。続きを歌いながら、退場。)
「どこにあるか みんな知ってる
どこにあるか 誰も知らない
まっくら森は 動きつづける
近くて 遠い
まっくら クライ クライ」 

使用許可について

・公演、ワークショップのテキスト、YouTube動画など、ご自由にお使いください。許可申請・上演料・使用料は不要です。
・その際、作:渋谷悠のクレジットを明記してください。
・あわせてモノローグ集『穴』のURLをご紹介頂ければ幸いです。
https://www.amazon.co.jp/dp/4846017575

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日本の演劇界・映画界にモノローグを広めるというビジョンのもと、渋谷悠のモノローグを40本以上無料で公開しています。

劇作家・映画監督:渋谷悠とは?

1979年生/東京都出身。バイリンガル。
劇作家・舞台演出家・映画監督。ナレーション、スクリプトドクター、脚本執筆指導や演技指導の講師としても活動する。
第66回ベネチア国際映画祭入選。第46回国際エミー賞ノミネート。2020年度NHKサンダンス・インスティテュートフェロー。
39本の一人芝居が収録された著書モノローグ集『穴』を軸にセミナーや生配信番組を主宰するなど、日本の演劇界・映画界にモノローグを広める活動にも従事している。

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