オペラのイメージを超える:《オテロ》チラシデザインと新国立中劇場デビュー秘話
新国立劇場中劇場デビュー
2019年、アーリドラーテ歌劇団は新国立劇場中劇場での公演予定が決まり、合唱団は稽古が何度か進んでいたが、2020年からのコロナ流行で延期となっていた。
そして、秋半ば、延期した先の公演日が決まった。
状況として、コロナでの外出控えが起こってしまっていた。
劇場再開となったとしても、出演者の距離指定みたいなのもあったし、それ以前のようにとはいかないかもしれない。
運営の方では、広報を効果的にすべくwebとチラシのリニューアルが始まった。
1000席を埋めるには?
新国立劇場中劇場の座席数は1000席前後。前回公演の「シアター1010」は701席だった。300席増えるというのはなかなかインパクトがある。
「チラシもインパクトある感じにしてみたんだけど、どう?」
広報担当から届いた改訂版にはギラギラした難しい言葉で埋め尽くされていて、「これをインパクトと言っていいものか…」と、ぐるぐるし始めた。
自分の頭を、弱いなぁと苦笑してしまう。
その時受け取った”インパクトある感じ”の改訂版は、
・オペラ好き
・ヴェルディ好き
・他のオペラ公演にも進んで出向く
・オペラの講習会にも参加する
・アーリドラーテ歌劇団公演を見たことがある
という5拍子揃った私が、仮に合唱出演歴がない客観目線があったと想定しても、どう反応したらよいのか…という具合だった。
※この時の案は非公開のままとなったので、配布はされていない。
メールで返信しようにも、電話で話そうにも「見た目」のことなので、伝わるか不安だった。
外出控え習慣が多少残っていた中だったが、彼を呼び出し緊急ミーティングとなった。
公演品質との見た目ギャップ
「売りたい」はこっちの勝手で、「買いたい」と思っていただける要素を、視覚的に出す必要がある。
気になったのは、公演の品質とチラシの見た目のギャップだった。
それ以前は、半ばアマチュア楽団のような位置付けだったアーリドラーテ歌劇団だったが、《マクベス》公演後、たくさんのご好評を得ていて「すでにアマチュアを脱している領域」というお声もいただいていたようだ。
トップクラスの歌手を集め、バレエシーンにコンテンポラリーダンスを取り入れ、完全版に近い構成にし、照明や衣装にもこだわっていた。
私もひとりの合唱団員でありながら、これはもうただのアマチュアではない…と感じていた。
「チラシだけアマチュアのまま置いていかれているなぁ…」という印象があった。
この差をどう埋めよう…。
舞台をイメージできるようなチラシ
見てほしい人物像は誰なのだろう。聞けば「オペラを見たことがない若い女性に訴求したい」と言う。
では、演目がどういうものか、どれほどいいものか、イタリアの伝統が、ヴェルディが、とぎらぎらした言葉で書き込むより大切なことがあった。
見た瞬間、0.2秒くらいで即ぽちることを決められる見た目。
そして、12000円でもいい、むしろお得と思っていただける内容。
前回の《マクベス》でも最高11500円だったのだが、なぜかプラス500円なだけの12000円は、私にはなかなか「うーん」と思う部分でもあった。
そして何よりも、1000席という席数。
であれば、何か「これは自分にとって必須で行かないといけない」くらいに思ってもらう必要があるだろう。
そして、《オテロ》を見たら、次回も絶対!と思ってもらいたい。
他では見られない価値をお見せする約束をしよう。
こなれたプロではないがアマチュアでもない、何か違う心意気…多くは山島氏の情熱が伝播していて、こだわった美的な舞台づくりを目指している雰囲気…が見えるようにしよう。
「チラシを見た時点で小さな感動を得られる」「これまでのオペラのイメージを超えたい」みたいなことも目指したい。
木澤氏と照井氏の光と色彩を駆使した演出をそのままチラシに描き出したい。
そんな想いも湧いてきた。
話をまとめて、演出の木澤氏が設定していたモチーフを使ったラフ案を出した。
この段階では私が作ると決まっていなかったが、彼が気に入ってくれて制作が進んでいった。
オペラのイメージを超える
変更後のチラシは、主にこの団体やオペラをあまり知らない女性層に向けたいということで、やわらかい色彩を使い、バレエのイメージも加えた感じになった。
原作がシェイクスピアの『オセロー』のため、山島氏からは「白と黒」というリクエストがあったが、木澤氏からはピンクの百合というリクエストがあった。
黒という色は、広告に関してはかなり効果を狙わないと使うのが難しい。
そこで、黒をイメージできそうな夜空色(濃い青)と、対比的に白に近い色としてピンクとグレージュ系の渦にした。
タイトルも、イタリア語の「オテッロ」にこだわっていたが、通りと、見た目バランスのいい「オテロ」にした。
チケットは1000弱か強か、詳しいことは知らないのだが上出来だったとのこと。
前回公演の《マクベス》を大きく越えることができた。
中劇場の舞台を奥までつかいきるという、木澤譲氏の思い切った演出プラン「ワイドオープンオテロ」も話題になり、想像以上に盛り上がってくれた。
初日公演の後、一日中働いた疲れも見えずさっぱりした山島氏の表情に、私は安堵した。
次回公演:新国立劇場中劇場 2025年7月5日(土)・6日(日)決定!
演目等の詳細が決まり次第、公式WebやSNS等でアナウンスさせていただきます。ぜひご予定ください。