見出し画像

「純愛」を見せるという課題(チラシ制作:ルイザ・ミラー)

2023年公演《ルイザ・ミラー》チラシ制作の裏側

アーリドラーテ歌劇団 2023年公演の《ルイザ・ミラー》のチラシ制作では純愛をどう表現するかが課題でした。それに、先のオテロのデザインを超えたいという思いも、作る側としてはありましたね。

マエストロの山島さんは、音楽的な調性の色彩についてこだわっていて、
その色彩感覚をどう書き出すのかっていうのがまずあって。
なかなかその色彩を「絵」として出すのに悩み、タイトル字で表そうかと試思ったらタイトル文字のカラーはピンクになってしまったという。

ピンクになってしまったか…という感じでしたね。という私自身も、他の色はピンと来ていなかったんですよね。

《オテロ》チラシのふりかえり

新国立劇場で《オテロ》公演ポスターを見た時、「ビジュアル改変してよかったな…」くらいのことは思いましたけど、ポスターサイズで見ると全体的に線が細いかなぁ、というのはありました。
現地では新国立劇場オペラパレス公演のポスターが隣なので、比べてみたらわかりやすかった。

線の細さは、タイトル字のサイズそのものの細さが原因でもあったし、そのほかの字も紙面に対して細かったんですね。
チラシはA4だったのでそれほど気にならなくても、ポスターにすると面積が広くなる分、強調されて本来より小さく見えたり大きく見えたり、というのがあります。
言い訳すると、ポスターを出すというのを知ったのが公演の2週間くらい前だったので、そういうのは計算外だった。
ルイザ・ミラーではその点を改良して、タイトル字のサイズやフォントのアレンジをしてみました。

2022年 《オテロ》チラシデザイン

「純愛」を視覚的にどう表現するか

音楽の調性については、ちょっと妥協せざるを得ないかなという感触だったので、表に入れるのは諦めました。

「調性」というのは、「楽しそうに聞こえる音楽」と「悲しそうに聞こえる音楽」で比較されるあれのことですね。

調性の色彩に関しては、多分クラシックの専門家にしかわからないし、オペラを見たいと思う人、または「何か見たい」と思う人にとってはチラシは「広告」みたいなものですから。

演出プランとビジュアル

実際の公演ではそんなにわかりやすく出てこなかったんですけど、演出プランの段階では、ヒロインたち2人が毒入りのレモネードを飲むという想定になっていたんですね。
そのレモネードと、物語の鍵となる「たくらみ」「手紙」、そして農村の「緑」をモチーフとして使いたいというリクエストが、演出サイドからはありました。

ただ、表に「たくらみ」要素を入れるとやっぱり黒っぽい色を使うイメージで、色数が増えてしまい、ごちゃごちゃした感じになってしまう。そこで、「たくらみ」っぽいものは裏面にすべて回し、表のカラーは白にしました。

信じられないくらいにあっさり消えてしまう2人の純愛

物語中で、2人の純愛は信じられないくらいに一瞬で消えてしまう。そのイメージをレモネードに溶けていくような泡で描いてみることにしました。そして燃え上がる恋の鋭い光、純愛らしい柔らかな光を重ねていきました。

「たくらみ」は「闇」という要素からイメージしやすい「黒」で、人間の心に生まれる闇そのものが毒であるというイメージで、毒々しい色彩をほんのりと加えてみました。
見ていて飽きないチラシというのもめざしていたので、表と裏が真逆のイメージというのは、まぁいいのかなというのもありました。

オペラチラシのイメージを超えたい

《オテロ》チラシ制作の時にも思ったんですが、よくあるオペラチラシのイメージを超えたいという思いが、個人的にありました。

オペラのチラシといえば、黒や暗い青のダークカラーやヨーロッパの劇場によくあるディープレッドなど、重厚感をイメージする感じが多いですよね。
ワインレッドのような暗めの赤とか。
あと、激しい劇が多いからか、黒い背景に炎というのもよくあります。

アーリドラーテ歌劇団での木澤氏の演出や照井氏の舞台照明は、どちらかというと明暗のコントラストはあっても、色彩は明るく柔らかい、パステルカラートーンが多いんですね。
そこも他にない舞台を作り出せている要素かなと思います。
「いかにもオペラ」なチラシデザインにすると、実際見る舞台とギャップが出てきてしまう、というのもありますから、どこか「これ何のチラシだろう」と一瞬感じるようなのも、ここの団体ではありなのかな、と思っています。

見る方も「純愛」について思いを巡らせてくれたら…

チラシを見たときから、その人にとっての「純愛」について思いを巡らせてくれたら、という思いも湧いてきました。

いつか感じてたピュアさを思い出すのもいいし、これから体験することを想像するでもいいし、ご自身の内から純愛を呼び起こせるようなビジュアルにしたいと思いました。

《ルイザ・ミラー》チラシ表裏
公演プログラム表紙

後日談:《ルイザ・ミラー》に描かれたもうひとつの純愛

ルイザ・ミラーのゲネプロ(公演直前リハーサル)を見学して、「父性愛」というもうひとつの純愛を見出しました。
どんな親でも子を想う心には毒はない、と…。

オペラの物語の多くは、人間関係のもつれによる事件や悲劇だらけで毒々しく、《ルイザ・ミラー》も例外ではないんですが、そんな泥沼劇の中で、父と子などの家族愛がひときわ柔らかな光を放つ。とくにヴェルディのオペラにはそんな魅力もあるなと、改めて思いました。

《ルイザ・ミラー》(9/9・10@大田区民ホールアプリコ)―楽日公演も、大きな歓声と声援に包まれ、無事に幕を閉じました。 多くのお客様にご来場いただき、誠にありがとうございました。 ...

Posted by アーリドラーテ歌劇団 on Monday, September 11, 2023


いいなと思ったら応援しよう!