リーボックの話
ぼくは音楽が好きだ。
って言っても主に邦ロックだけど。
お気に入りのバンドの好きなファッションや本とかによく影響を受ける。
リーボックのポンプフューリーもその1つだ。
なんかゴツゴツしてるスニーカーで、男の子はみんなこういう靴好きなんじゃないかな。
名称がわからないけどスニーカーの地面に触れる白い部分が前後の2つに分かれていて、間が空いてる。
そういう形状に憧れて、普段は厳しい財布くんも15000円を差し出してくれた。
セールだったからかな。
実際に履いてみてわかったんだけど、結構歩きにくい。
通勤で人がごった返している新宿駅のどっかで毎日つまづいてしまう。
わかんない、ぼくの歩き方が下手くそなだけかもしれない。
どちらにせよ、ちょっとしたとこでつまづいてしまう。
形状に惚れて買ったけど、こんな歩きにくい靴が15000円か。
でもせっかく買ったんだからいろんなとこへ連れて行こうと普段履き慣れているニューバランスのスニーカーを家で留守番させて、お昼に久しぶりに河川敷を歩いた。
というのも2019年の秋ぐらいかな、大きな台風が東京の多摩地区を襲って近所の川がもうちょっとで氾濫ってとこまで追い込まれてた。
その直後に歩いた時は濁流と戦った後が生々しく残ってて、ぼくのニューバランスもぐちゃぐちゃに汚れた。そのとき以来だ。
今日も15000円は平常運転だった。
道中の閑静な住宅街のど真ん中、車の通りもない。
なんでかなと思ってそいつを見たけど、いつも通りのごつくてふてぶしい態度をとっている。
まあいいや、って思いながら河川敷に向かった。
河川敷は時間とともに徐々に綺麗になってたみたい。
老若男女様々な人がランニングしてたり、各々の好きなスポーツを楽しんでる。
そんなのを横目にコンビニで買ったあったかい紅茶とお昼ご飯を両手に歩いてみた。
お昼の河川敷ってのは気持ちいい。
陽が出ててポカポカしてるっていうのもあるし、ちょっとした風がさわやかでリラックスできる。
河川敷に降りたとこでボール遊びをしてた家族がいたけど、ぼくが通る時にはちゃんと待ってくれる。
こういう優しさもある。
頭の中が河川敷に包まれてしまい、気づいたときには土手へと上がる行き止まりまで来てしまった。
あんなに周りにいろんな人が散歩だったりランニングしてたのにもう見かけなくなってしまった。
なぜなら土手へと上がる唯一の坂でショベルカーを使って工事をしてるからだ。
そこは以前ニューバランスがぐちゃぐちゃになった場所でもあった。
どうしよう。
引き返しても河川敷の虜になっている家族がボール遊びをしている。
またそこを通る行為は、然るべきところで裁かれてもしょうがないことだと思う。
まだ20代の男の子には、社会的に抹殺されてもいいという覚悟はない。
どうしようと周りを見渡したら橋の下のコンクリートのトゲトゲしてる部分があった。
そういえば小さいとき、こういうところを使って川に降りたりしてたことを思い出して、このトゲに全てをかけることにした。
無機質で不気味な雰囲気のトゲを歩くのは神経がいる。
両手が塞がっているから一歩間違えれば転倒事故。
誰かが救急車を呼んでくれる確証はない。
覚悟を決めて一歩ずつ踏み外さないように確かに登り始めた。
でもそのスピードは思ってた何倍もはやかった。
絶対踏み外さない安定感と今まで感じたことのない信頼感があった。
それは足元のリーボックからだった。
白い部分の間を使ってトゲをガッチリ掴んで、ぼくを土手へとスムーズに確実に連れてってくれた。
たまにはいいとこあんじゃん。
きみがロッククライミングしたらエベレストの切り立った崖もちょちょいのちょいじゃないの?
土手に上がって足元を見たけど、なんかいつも見るより力強くて男らしいなあって感じた。
家へ帰ろう。こういう困難を乗り越えた時は祝杯だ。
何を食べよう、ハンバーグとか?
ビールも一緒に飲んじゃう?
夕飯のことを考えながら歩き出した一歩目で15000円は平常運転にもどった。
20200307 リーボックの話 Yusei Komori
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