スケッチ+からだ鑑賞
「スケッチ鑑賞」の応用編です。
作品をスケッチした後、体を使って作品に「なってみる」鑑賞です。
今回は十和田市現代美術館の、幼稚園保育園職員研修にて実施した
内容のログに、改良案を足したものになります。
教職員の他、低年齢層のお子さんをお持ちの親子などでも
実施すると楽しいと思います。
<必要物>
・A4紙(画用紙など)+バインダー もしくはスケッチブック
・鉛筆(4Bなど、できるだけ濃いものが良い)
・動きやすい服装
<参加者>
親子(幼稚園児以上想定)、教職員などのグループでも。
偶数人が望ましい(ペアのワークがあるため)
<実施時間>
2時間
⓪導入
:15分
まずは集まったみなさんに軽い挨拶と、
リンク先の導入のレクチャーを行い、
鑑賞への気分を多少入りやすくしておきます。
①一筆スケッチ鑑賞
:15分
ここで今回の鑑賞作品発表。
というか、展示場に入った瞬間からもうバレバレですが、
この「スタンディング・ウーマン」が対象になります。
超絶リアル?な、おばさんの立体像。
インパクトもあり、この美術館でも特に有名な作品の一つだと思います。
参加者全員で「ウーマン」を取り囲み、
以下の様なルールでスケッチを行います。
*スケッチは描いている画面を見ず、作品から目を離さずに行います。
*スケッチは一筆書きで行います。
*「2分で観察、1分でスケッチ」を3回行い、スケッチを3枚描きます。
・自分の気になる部分を絵でメモする様に描きます。
・文字や記号は書けません。
・スケッチを完成させることや、上手く描くことが目的ではありません。
(むしろ上手くかかせないために、一筆書きなどの縛りがあります。)
・描きながらよく作品を見ます。
・消しゴムは使えません。
・3枚のスケッチはどれも異なった視点で描くこと。
「手元を見ない・一筆書き・より短時間」という様に、
「スケッチ鑑賞」の時よりも、縛りが厳しいのは、
ここで、スケッチの上手下手にとらわれて欲しくないから。
このルールだと、誰が描いてもどこか妙な線ができあがってくるし、
上手く描いたものよりも、よりヘンな線の方が、
この後のワークでは「読み取り」の面白さが増す仕組みになっています
②ペア対話
:20分
3枚のスケッチができたらペアになり、
「話し手」「聞き手」の役に分かれ、
互いのスケッチについて話してもらいます。(7分程度で交代)
「話し手」のスケッチを見ながら、
「聞き手」は対話型鑑賞のメソッドをベースにした
以下の質問で言葉を引き出してもらいます。
「これは何ですか?・何を描いたんですか?」
(表現されているものを明らかにする)
「なぜそうしようと思ったんですか?・なぜそう感じたんですか?」
(理由を聞く)
「他に何か気づいたことはありますか?」
(展開)
他人の鑑賞視点を鑑賞するのは、
実際やってみるととても面白いことなので、
会場では、あちこちで笑い声がおきます。
自分の視点を説明することや、それを聞いた相手の反応を得ることで、
自分自身の鑑賞視点も鑑賞することになります。
こうやって、スケッチによってあらわになった
互いの「鑑賞視点」を使って、
「鑑賞の鑑賞」という、メタな鑑賞を体験してもらいます。
また、その中で対話型鑑賞の基礎にも触れてもらい、
話を聞き出しながら、視点を共有するという
ファシリテーター側の知見も得ることになります。
あえて大勢で対話しないのは、
個別対話で、互いに相手を受け入れざるを得ない状況にするため。
どんな突拍子もないものが出てきても、
受け手が自分しかいないと、
相手を否定や拒絶する方が大変なので、
何でも肯定的に受け入れる様になります。
この無条件の受容体制があることで、
「なんでも受け入れてくれる人がいる」
「今日は何でもありなんだ」という、場の安心感が生まれ、
その後のワークで活発にチャレンジしやすくなると考えています。
ここで休憩を入れつつ、
3枚書いたスケッチの中から、自分のお気に入りを1枚選んでもらいます。
③体ほぐし
:15分
今回の最終課題は、体を使って鑑賞作品に「なってみる」こと。
ですが、いきなりやるのはハードルが高いので、
リンク先のような体を使ったワークで、「何にでもなれる体」を作ります。
まずは、「ウサギになって〜」というと、
会場でウサギが徐々に飛び始めます。
「じゃあ、小さいウサギ」「大きなウサギ!」とイメージを変え、
「次はゴリラ!」「赤ちゃんゴリラ!」「おじいちゃんゴリラ!!」と、
「ごっこあそび」みたいなイメージで遊びながら、
「思うものに体を使ってなってみる」という感覚を掴んでいきます。
動物の次は、2チームに分け
「火」「雨」という、「明確な形がないもの」に集団で「なってみます」。
火力や雨量の強弱も体験しながら、
激しい:静か、一斉に:バラバラに、と、
周りとの関係を含んだ遊び方をしてみます。
さらに、「火チーム」と「雨チーム」を
合流させ、全体で場面を変えてゆくお話を作って行きます。
「火が雨に濡れたらどうなる??」
「あ、煙が出てきた!」
「煙が雲になって・・」
「雨がまた降ってきた!」
「大雨だ!嵐だ!」
「地面に降った雨が川になって・・・」
「海になりましたー!」
「海には何がいる?自由に海にあるもの・いるものやってみて!」
と、おのおのが魚や、サンゴや船など、好きなものに変身しながら、
全体でいろんなもので構成されている「海」をつくります。
で最後は、「じゃあ、海は海でも『この海』やってみて!」
とこの画像を投げかけます。
全体でいろいろ試行錯誤しながら、北斎の海になってもらいます。
この頃になると、「実際の形との整合性」「現実との比較」よりも、
「自分がそのものになっている!」という気持ちがあれば、
何にでもなれる頭と体になっているので、
傍目からは、見てもよくわからないかもしれませんが、
本人たちは、「なりたいもの」にガッツリ入り込んでいたりします。
これで、作品に「なってみる」準備OK
「スタンディング・ウーマン」にもなれるかも。。
④作品になってみる
:15分
いよいよここから、作品に「なってみる」こと挑戦します。
まずは、休憩の時に選んだ自分のスケッチをよく見て、
そのスケッチに描かれた「ある部分」に「なってみる」。
ということをやってみます。
まずは全員で一斉に「なってみる」。
これでいいのかな?と
何回か繰り返し試して、それぞれ自分なりの表現が固まってきたら、
ペアだったパートナーにスケッチを渡し、
自分の表現を見てもらいながら、
半数ずつ交代で「なってみる」をやってもらいます。
手がかりがないとよくわかりませんが、
対話して元絵も分かっているパートナーなら、
何か通づるものがあるようで、
会場からは「ほぉ。。」「なるほど・・」というため息が。。
そしてここから、最終課題。
2チームに分かれ、それぞれの表現を合わせ、
チーム全体で作品に「なってみる」。
あまり考えていても始まらないので、制限時間は5分。
体を動かしながら、その場で組み立てていきます。
まずは、互いのスケッチを並べ、部分的な表現をまとめてみて、
それをそれぞれが体で表しながらまとまってゆく。。。
という様な流れが両チームともできてきました。
作品の全体を表すことや、完成させること、
形を似せることが目的ではありません。
(むしろぜんぜん似てない方が面白くなります。)
全体で「スタンディング・ウーマンなんだ!」という
気持ちになることが大事。
そして完成したのがこの2作品。
互いのチームで見せ合って鑑賞します。
↑このチームは側面も重要です。
正面からは見えない人たちにも、いろいろこだわりがあります↓
答え合わせになるとつまらないので、
それぞれが何を表しているかは、
その場では事細かに聞き出しませんでしたが、
今日ここまで育ててきた体験と感覚を使えば、
見ている側には
「なるほど、あれが、あれということなのかな・・?」
「あそこは、ああやっているのかも・・」
という妄想が捗ります。
「作品を正確に受信する」という鑑賞ではなく、
作品をきっかけに始まってしまう、想像やコミュニケーションを
あやふやなまま、かつ自信を持ってやり取りしてもらうことの
面白さを体験してもらいました。
なかなか体制を維持するのが辛いので、
鑑賞は30秒くらいかな??
⑤作品に戻ってみる 5分
これは現地では行いませんでしたが、
「なってみる」の後に、
もう一度作品に向き合う鑑賞時間が少しある方が良いと思います。
最初に向き合った時と、作品は同じですが、
活動を通して自分自身に変化があるので、
何か違うものが見えるかもしれません。。。
⑥総括
今回の体験で伝えたいことは。
「鑑賞視点の鑑賞」=「鑑賞の鑑賞」の楽しさ。
今回の活動は、ある作品から始まりましたが、
活動が進むにつれ、どんどんその作品から遠ざかり、
作品自体の直接の鑑賞というよりは、
自分や他人が、どんな目線でこの作品を捉えているかをみる、
「鑑賞の鑑賞」という、多層的な目線を楽しんでもらいました。
「鑑賞」というと、作品と自分の関係に捕われてしまいがちですが、
「鑑賞」を楽しむためには、まずこの「鑑賞の鑑賞」視点から入って、
「作品に誰かと触れ合うことが楽しい」という
イメージを掴んでもらうことが大切かと思います。
親子であれば、作品ではなく
「作品を見ている子供の反応」を見て楽しんだり、
そこからいろんな発見、学びを得る。というモチベーションをもつと、
美術に出会うのがもっと気楽に、気軽になるのかなと考えています。
興味を持たれた方は
親子向けの記事を参考にいくつか貼っておきますので、
こちらもどうぞ。