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yuka~kimiko。Somebody Loves You Baby~
卒業式が終わって、オレ達のバンドは、ライブに駆け回っていました。
1年前に新しい2学年下のボーカル「kimiko」を迎えて、この1年の練習で
バンドの実力もかなり上がってきた。
ライブでも、45分~1時間程度の時間を与えてくれるようになり、順番も
トリに近い出演順となっていました。
また、大学生や社会人の人達と混じって、ホール以外のライブ会場にも
足を運んでいくようになり、21時以降の出演もありました。
一通りのライブが終わったのは、3月中旬。
リーダーのタクヤが、
「他の高校の軽音楽部から、ぜひ聴かせて欲しいとオファーがあった。」
との事で、学校に赴いてのライブをおこなっていました。
そして3月の下旬。
最初で最後となる「単独ライブ」を、小さなホールでおこなう事となり、
これで、バンド活動は解散。それぞれの道へ進む事になります。
ライブ当日。その日は日曜日。
午後13時からのライブに、50人程度の仲間が集ってくれた。
しかし・・・。
その日会場予定だった場所が、他のバンドとダブルブッキングしていた事が
分かり、予約優先順が向こうのバンドだと言う事で、その場所が使用
出来ない事態に。
すると、ライブを見に来てくれていた他校の先生が、
「自分の学校の軽音楽部が使用している場所なら大丈夫だけれど。」と話を
付けてくれて、急遽そちらへ向かう事に。
バンドのセットと、50人のキャパで、教室は過密状態。
最後のライブは、学校の教室。
全ての演奏曲をやりきって、無事終了。
時間はもう、夕方の17時を回っていました。
みんなで学校を抜け、それぞれの道に分かれてさよならをする。
そして、バンドのメンバー5人が、繁華街の中へ。
するとkimikoが「大事な荷物を忘れてきた!」と言う。
どうするか慌てていると、もう1人の女性メンバーのhirokaが、
「ゆうきと一緒に取ってきたらいいんじゃない?私達待ってるから。」と。
kimikoとは、メンバーと言いながら、殆ど話をした事が無い。
オレとkimikoは、忘れ物をした学校へ引き帰す・・・はずだった・・・。
道途中の「楽器店兼スタジオ」にkimikoは黙って入って行く。
オレは、
「忘れ物はここなん(ここなの)?」とkimikoに聞くが、黙っている。
そう、この道すがらもkimikoは黙ったままでした。
ここのスタジオも、練習ではよく使っていた場所で、kimikoの忘れ物とは、
今日忘れた荷物じゃないのか・・・。と思って、スタジオの中に入った。
すると、スタジオには「電子ピアノに座ってる、1人の女のコ」がいた。
「???」と思っていると、kimikoがマイクの前に立った。
電子ピアノの女のコは、kimikoと同級生。高校1年の、別のバンドで
キーボードを担当しているコ。というのだけは知っていました。
kimikoは、
「少しの時間だけ下さい」と、小さな声でオレに言った。
kimikoともう1人の女のコが相槌を打つと、静かに電子ピアノが奏でた。
~あの頃 この街で きみと 出会うまでの ぼくは~
オレは立ったまま、その場所でkimikoのハスキーな歌声を聴いていた。
~会えない夜も ひとみ閉じれば そこにきみの 顔が浮かぶよ~
kimikoにはポップな曲か、ロックめいた曲しかやってこなかった。
その中で、静かに流れるバラードは、kimikoの違う一面を魅せて・・・。
っていうか、この場面は一体なんなんだろうか・・・。
Somebady Loves You Baby 誰かがきみを
Somebady Loves You Baby 愛しているよ
Somebady Loves You Baby さみしくないよ
Somebady Loves You Baby ひとりきりじゃないよ
オレには長い時間に感じた。そしてその歌が終わった。
kimikoは、オレに小さな手提げの袋を渡して、
「今までありがとう。おにいちゃん。」と、顔を真っ赤にして言った。
「え・・・オレだけ?どういうことなん?」と・・・。
すると、キーボードの女のコがkimikoに、
「もうkimiko。言ってもいいよね!?言うよ?」とkimikoを促す。
kimikoは、顔を手で覆って、頷く。
その女のコは。
「最後のライブでしたよね。最後だからkimikoは伝えたかったの。」
「好きだって」
オレの顔も紅潮するのが分かる。
そういう事なのか。kimikoは全くそんな気配を見せなかった。
けど・・・。
オレはとまどっていると、
「ここままで終わったら、kimikoが可愛そうだから。だから。」
と続けて、その彼女は言った。
オレは、
「まだ就職先も決まっていないから、うまくは言えないけど。」
「このままさようならする事は無いから。」と言った。
kimikoは、涙を流して「ありがとう。」と。
その顔を見て、愛らしさとこの大きな贈り物に感動しました。
※ちなみに。
手提げの中に入っていたのは「茶碗とおはし」でした。
ゆうさん