~yuka~勇司と自転車と森さんと大判焼きと。
yukaから電話があった次の日。
放課後になり、yukaのいる製図室へ向かうとyukaは昨日からの決意みたく、
「今日は早く帰ろうな!」と言った。
んー。当時の自分としては、
「そうだな!帰ってからも電話で話が出来るし、ちゃちゃっと済まそう!」
という言葉が出ない。
昨日の電話で早く帰らないといけない。というyukaの理由は本当にそうだと
思うけれど、なぜかすんなり対応できない自分でした。
その中で咄嗟に出たオレの言葉が「んー・・・。」でした。
yukaはすぐさま反応して、
「え?なんなん?そんなに考える事なん?昨日説明したやん!」と詰め寄る。
オレは「昨日はそうやと思ったけれど、家に帰るのがなかなか難しくてなぁ」と。
yukaは、一呼吸置いて。
「お父さんとお母さんが2人いるって、幸せな事なんよ!」と。
父親がいないyukaにすれば、そうだよなと思いつつ。
自分は心にある「本当の理由=自分でも表現し得ない心の内」を表す事が
出来ずに、
「うん。これからそうするわ。」と言いました。
6時過ぎに我が家のある駅に到着。
家に帰ると、
「うわぁ!!!ゆうき今日も家に帰ってきたの!?」と驚いた様子で喜ぶ
母親。
父親は酒が入らないと寡黙な人だったので、オレの連日の帰宅に関しては、
何も言わず・・・。といった感じだった。
早々に母親の夕食を済ませ「今日は自分から連絡する番だ」と思い、
yukaの兄貴が電話に出ないか心配しつつ、約束の20時に連絡した。
「はい。もしもし。」と、よそ行き声のyukaが出る。
「あーおれー」と。自分。
「はーい。」とyuka。
もうyukaの中では、この「学校⇒家から電話」のルーティンは決まっている
みたいで、今日自分が一旦躊躇した事など、全く「意に介さない」状態。
けど自分は、何かしら「もやもやしたもの」が頭の中にあって、yukaの
ように、割り切れない気持ちがあった。
しかし、そんな感情は見せまいと思いつつ、いつものように今日あった
学校の話や、犬、建築科の女子グループの話などをしていました。
※yukaは家に犬を飼っていました。その話です。
そして、yukaは決めたように。
「今日はワタシが内緒にしている話をするなー」と。
※するな。とは方言で「するね。」の意味です。
その話が「実は高校1年の時に付き合ってた人がいる。」
その人は「建築科の中にいる。」との話。
「え!?そうなん!?」と、オレはただただびっくりして、
すぐさまyukaに切り返していた。
それが勇司だった。
勇司は身長が190cm近くあって、入学時はバレー部の特待生として
在籍していたけれど、練習の厳しさについて行けず、半年ほどして
バレー部を退部。
スポーツ特待生として入ったヤツは、在籍している部活動を辞めて
しまうと、学校推薦の就職を受けづらくなる。
勇司は、それ以降オレと同じく学校生活では結構荒んだ生活を
していて、高校3年からは、夜の遊び相手の1人でした。
その勇司とyukaが付き合っていたとは・・・。
「知ってるのはほんの少しの人しか知らんけん」とyuka。
オレが知らなかった事を「なぜに言う?」と思いつつ、
「ふーん。そうなんやぁ」とオレ。
「〇〇が高校から駅まで帰る道あるやん?そこを2人で帰ってたんよー」
と、あっけらかんとyukaはオレに言った。
勇司はオレと同じく電車通学だったので、高校から駅までの道のりは
ほぼ一緒だった。
けれど、オレは早々に津川の家に転がり込んでバイトを始めていたので、
その2人を見掛けたことはなかった。
実際思い返すと、この話はかなり効きました。
同じ建築科に付き合ってたヤツがいたとは・・・。
それも今、遊び仲間の1人である勇司だったとは・・・。
そうするとyukaは、
「もう別れてから、スッキリしてるの!なーんとも思ってへんし」と
あっけらかんと言う。
オレはそうはいかない。
今日のもやもやにもう1つもやもやがプラスされて、何だかどうでもいい
感じになってしまった。
それでもyukaは話を止めず、
「初めて男の人の自転車の後ろに乗ったのは。彼が最初だね!」と、
あっさりと言う。
当時17歳の経験値低い、包容力なんか全く無い、そして人の気持ちなど
認識できない男には、刺さって刺さって。
そう。コレはyukaの性格なのですが、
「思っている事ははっきりと言う」
「信頼している人には、驚くような事を打ち明ける」
という女性でした。
生あくびのような相槌をオレが打っていると、
「どしたん?眠たいん?もう寝よっか?」と。
その・・・(笑)yukaの瞬間、瞬間の対応に全くついて行けずのオレ。
コレはオレも、今日のもやもやが山積したらしんどいなと思い、
「今日は家にも帰ってきてるからかな。なんかしんどいわ」と嘘。
「あーそうやなー。じゃー今日は寝よっか」とyuka。
自分の中では「淡々としつつも、強烈なインパクトでオレを刺しつつ」
その日のyukaとの話は終わりました。
次の日。
学校に着くと「森さん」が、近寄ってきて聞き取りにくいハスキーボイスで
「学校終わったら、ちょっと話があるから」と、照れながら言われた。
「ん?なんだ?」とは思いつつも、学校終わったら森さんに話し掛ければ
いいのかと、その日をいつも通りにやり過ごした。
放課後、森さんに近付き、オレは。
「なんか用事あるん?」と言うと、
「しっ!!」と言われて、オレの袖を持って、外へ連れて行かれた。
森さんは少し声高のハスキーボイスで、小さく話をすると、聞き取れない
くらいの声で、その時もヒソヒソ話であって、しかも森さんの声質では
聞き取れないくらいの声で、
「話したい事あるから、今から一緒に帰れる?」と。
すぐさま思い浮かんだのが「yuka」との放課後の事。
しかし、昨日のもやもや感が全く抜けないままで、yukaと会うのも辛い。
それと、なぜ森さんがオレと一緒に帰ろうと言うのだろう・・・。
何か言いたい事でもあるんじゃないか?と思い。
「うん。いいよ。」と言った。
森さんも電車通学。
高校から駅までの帰り道はオレとほぼ一緒。
しかし森さんは「次田」という同級生の女のコと一緒に帰っているか、
1人で帰っているところは見掛けた事があった。
森さんは「運動場を越えた場所から追い付くから、先に帰っておいて」と。
そのままオレは先に1人で帰って行って、いつ来るか分からない森さんとの
「歩幅」を注意しながら、ゆっくりと帰っていった。
すると「〇〇くん!」と小走りに、森さんが駆け寄ってきた。
「あー。うん。」とオレ。
「一緒に帰ろ?」と森さん。
なんなんだこれは。森さんが一緒に帰ろうなんて言うのはもちろん初めてで
ましてや、この高校3年間、女子生徒と話すなんてyukaしかいない。
それでいて、今日の森さんのこの行動はなんなんだ?と不思議がった。
森さんは。
「今日どうだった?」
と聞いてきたので、当たり障りのない学校であった話をすると、
「うん。うん。そっかー。」と静かに相槌を打つ。
なんなんだこれは。
森さん。オレと一緒に帰ってなんかいてもいいのか?
ましてや、高校の通学路だぞ?何が相談したいことがあるなら、
早く言わないと迷惑掛けてしまうだろ?と、オレはあたふた。
すると、森さんが。
「大判焼きいる?」と。
ちょうど通学路に大判焼きを売っている場所があって、小さい戸口に
おばあさんが大判焼きを作っている。
「え?」と。オレは「なぜに?」の意味も含めつつ、森さんに声を掛けた。
「行ってくるね!」とまた森さんは大判焼き屋さんへ小走りに向かって、
おばさんとやり取りをしている。
すぐさま小さな袋を2つ抱えたまま、オレに近寄り、
「はい。」と、大判焼き一個を手渡してくれた。
そのまま、2人は大判焼きを食べつつ・・・。
その時は無口で、帰り道を歩き駅に着いてしまった。
オレは、
「あの。森さん?話したいことがあったんじゃないん?」と。
森さんは、
「ううん。今日は無い」と言って微笑んで、自分の電車が着く
ホームへと。
オレの頭の中にはずっと・・・。
「なんなんだこれは」という言葉が巡っていました。
ゆうさん
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