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yuka「大事件のクリスマスイブ」

高校3年の最後の冬休み。
終業式がクリスマスイブ。
その日は同じ建築科の仲間達と、電車で30分ほど離れた市内近郊の
「ナカハラ」の家近くにあった、有名な焼肉屋で、打ち上げをしようと
していました。

yukaとは半月以上連絡を取り合う事も無く、オレの就職も有耶無耶な
状態で郵便局になる事も決定し、全く面白みの無い日々を送っていました。

そんな中での「森さん」が、クリスマスイブに会おうと。
オレはもう自棄気味に会う事を約束。
時間が遅くなっても、森さんは待つという。
待ち合わせ場所は、駅前の花時計前でした。

クラス男子生徒の半数以上、15名程度が集まった打ち上げ会。
ポンポンと威勢良くビールが開けられ、どんどんと空ビンが並んでいく。

1人「悦司」という仲間がいて、当時のクラスではオレと悦司が酒が強いと
自他ともに認める2人でした。
昼の3時から始まった打ち上げ会で数時間後。
2人だけで大瓶のビールを1ダース抜いた。それでも2人はまだまだ行ける
と、焼肉屋を出て、ナカハラの家でみんなが集まり、オレ達は麻雀をしつつ
焼酎を飲んでいました。

もう夜の8時が過ぎた頃。
この十数人のメンツで、街へ繰り出そうとなった。
オレは森さんが待っているので、行く必要はあった。しかしこれだけ飲んで
ダチ仲間と騒いでいれば、森さんの事なんかどうでも良くなっていた。

しかし。
森さんに会う時に、オレは手袋をプレゼントしようと思っていて、
それをコートの中に入れておいたのを思い出す。
これだけの時間。そして今から街へ繰り出そうとなれば、どんどんと時間が
遅くなる。森さんも待っていないだろうなぁと。

無人駅のホームで仲間達が暴れ出す。
オレも酒の勢いを駆って、ホームから飛び降り、レールの上で踊りだす。
そんな中で、二両編成の小さな電車がホームに入ってきた。

オレはその勢いに任せて・・・。
電車のドアのガラスに向かって、
「開けろ!!おら!!開けろ!!」と、肩を何回もぶつけていた。
すると・・・。

メリメリガッシャーン!!という大きな音とともに、ドアのガラスが粉々に
砕け散り、乗客から悲鳴が上がった。

その時。誰か友人の1人が、
「ゆうき!逃げろ!」という声がした。
しかし、オレは驚きのために立ちすくんだ状態になっていました。

すぐさま電車の車掌がホームに降りてきて、オレを捕まえて、
「なんてことしてくれたんだ!!こっちへ来い!!」と引きずられる。

二両編成の小さな先頭車両の半分は、ガラスが割れて電車の運行時に
危険だと言うので、乗客は避けられ、友人達は二両目に。
オレは一両目の運転席の側で1人、監視の車掌が付いたままで
電車は走っていました。

車掌は、根掘り葉掘りとオレの事を聞いてくる。
その中に、
「オマエ、高校生か大学生だろ!?なにやってたんだ!!」と。

オレは・・・。
「あぁ・・・。もう終わったな。どうでもいい。どうでもいいや。」と
放心状態のままで、黙ったまま電車に揺られていました。

終点駅の街中に着き、オレは事務所に連れて行かれる。
すると、多くの職員さんがいる机に座らされて、
「ここに連絡先の電話番号を書きなさい。」とメモを渡された。
素直に電話番号を書くと、職員さんはそのまま自分のデスクに向い、
オレの家に電話しているようだ。

2~3分電話して、職員さんがこちらに来て、
「親と話をしたから、今日は帰りなさい。後は追って連絡するから。」と
オレは、
「帰ってもいいんですか?」と聞くと、
「君の乗っていた電車は、そのまま回送だったから、運が良かったよ。」と
そうすると、近くに居た職員さんが、
「けど、ガラス代は弁償してもらうからね。」と。
そして、
「君。学生さんだろ?もうこれ以上の事は聞かない。運行にも支障ないし
お客さんにも怪我はなかった。が・・・絶対に今後こういう事はアカンぞ!」
と、きつく締められて・・・。そのまま帰っても良いことになったのです。

呆気にとられた。
しかし、これで終わったのかどうかは分からない。
しかし、職員さんはこれでいいと言った。
不思議で、その中で悩みつつも、オレは駅から出た。

すると、みんなが待っていてくれた。
「おい!ゆうき。大丈夫やったんか!」と、声を掛けてくれた。
オレは、
「なんか今の時点ではよーわからんけど、帰ってもいいって。」と。

すると、酔っている仲間達から歓声が上がり、
「じゃー!良かった!このまま飲みに行こう!」と騒ぎ出した。

しかし、もうこれ以上騒ぎ立てる気持ちなんか全く無い。
オレは、
「待ってもらったのにすまん。今日は帰るわ。」と言って、
そこからJRの駅へと歩いて向かいました。

この歩きすがら、オレは何を考えていたのかはもう忘れていますが、
そのまま駅に着いた。そして、
森さんが花時計の前で立っていました。

森さんが驚いたように、
「どうしたの!?その肩」と、いつもならばハスキーな小さい声なのに
絞り出すような声で、オレに聞いてきた。

見ると肩にガラスの破片がキラキラと突き刺さっているのが分かる。

オレは、そのまま隠すこともなく。
「電車のガラスを割ってしまってな。」と。

森さんは驚いて、
「怪我はなかったの?」と。
「うん、誰も怪我はしなかった。」とオレ。

そして、このタイミングでオレは、
「これ。手袋・・・。森さんにあげる。」と手渡した。

「えぇ!?こんなの今貰えるわけないやん!!」と。
オレは、
「そうやんな。うん。分かった。」と、素直にコートのポケットに
しまい込んで・・・。

「こんな気分やけん。帰るわ。ごめんな。」と、そのまま駅に向かって
歩いて行きました。

すると森さんが、
「ちょっと待って!!」という。
オレはそのまま振り返る。
森さんは、
「yukaも来てるんよ!!」という。
オレは・・・。

オレは、
「そうか。」だけ森さんに伝えて、また駅前に向かい、
そのまま雑踏の中に消えました。
高校3年のクリスマスイブ。

ゆうさん


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