桐島、部活やめるってよ 解説
スクールカースト。小学校の高学年にもなると、学校という狭い世界のなかで、目立つ人と目立たない人との間で次第に階層ができる。この小説は、地方の県立高校を舞台とし、クラス内での「カースト」が異なる5人の学生の心情を丹念に描写した小説である。タイトルに登場し、部活をやめるという桐島は、主人公ではない。むしろ、桐島の心情はほとんど表現されていないといってよい。各々の章で主役となる5人の学生のストーリーに存在する1つの共通項が、男子バレー部のキャプテンである桐島が部活をやめるかもしれないという、噂が流れていることだ。バレー部に所属し、リベロの控えである小泉風助は、桐島の控えだった。ソフトボール部の宮部実果は、桐島の彼女である梨沙を含めたクラスのトップグループに所属している。ブラスバンド部の沢島亜矢は、恋心を抱いていた竜汰が、桐島の部活が終わるのを待つためにバスケをしている姿を見たくて、よく外でサックスを吹いていた(ややこしい)。この3人は、1つの章のなかではもちろん主役なのだが、全体を通すと脇役となる。「桐島、部活やめるってよ」は、菊池宏樹と、前田涼也の話である。教室内で行われるシビアなランク付けによると、2人は対極にあり、彼らはクラスで交わることはなかった。映画が大好きで、映画部に入り、映画甲子園で特別賞を受賞して校内で表彰された前田は、クラスでは一番「下」。クラスで一番「上」のグループにいて、運動もでき、可愛い彼女もいる菊池は、何事にも立ち向かったり逃げたりできない自分を見つめて、苛立ちを感じる。ダサいか、ダサくないか。目立つか、目立たないか。クラスカーストを決めるこれらの要素は、絶対的な価値観として我々を縛り付ける。クラスの数だけクラスカーストは存在するだろう。そんな醜い世界を、私たちは生きている。自分より「上」の人をうらやましく思ったり、「下」の人を馬鹿にしたりすることもあるだろう。でもどうか、自分が「下」に思えても、諦めないでほしい。自分が本当に好きで熱中できることを何か一つ見つけることで、革命が起こるということを。スクールカーストなんて吹き飛ばしてしまうモノにきっと出会える。前田涼也は、菊池宏樹にそんなことを教えたのかもしれない。
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