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モメンタムを醸成するGo-to-Marketにチャレンジした話

こんにちは。SmartHR プロダクトマーケティングマネージャー(PMM)の酒井です。日頃は新規プロダクトの企画や、「スマートフォン向けアプリ」のグロースに従事をしております。noteへの投稿は初めてになるので、幾分手に汗を握っています。
本日は、2024年7月から11月頃までに行ったスマートフォン向けアプリのGo-to-Market(GTM)のお話をします。
先に結論をお伝えすると、社内関係者の協力のおかげで今回のGTMを通して、過去最高のインストール数を記録することができ、AppStoreビジネスカテゴリランキングにおいても1位を獲得することができました。
これまでに得た学びや成果を具体的にお伝えしますので、少しでもお読みいただく皆さんの参考になれば幸いです。

はじめに

これから、私が記載する内容は「LOVED 市場を形づくり製品を定着に導くプロダクトマーケティング」のプロダクトマーケティングの「4つの基本」を参考に実行した内容になります。
本書によると、プロダクトマーケティングは以下の「4つの基本」で成り立っているとされております。気になる方はぜひ、お手にとってご一読ください。(回し者ではないです)

アンバサダー:顧客と市場のインサイトをつなぐ
ストラテジスト:プロダクトのGo-to-Marketを方向付ける
ストーリーテラー:世の中がプロダクトをどう捉えるかを形作る
エバンジェリスト:他者がストーリーを語れるようにする

LOVED 市場を形づくり製品を定着に導くプロダクトマーケティング

この「4つの基本」を私なりに解釈すると、PMMと同じ熱量でプロダクトを語れる仲間を増やし、それを広めることが重要であること。そのためには、まずPMM自身が誰よりも顧客や市場を理解し、プロダクトの可能性を信じる伝道師のような存在であり続けること。そして、その可能性をどのようなストーリーで顧客に届けるかを構築し、実行することが必要になると解釈しました。
その他にも本書には実践的な方法や事例が豊富に盛り込まれており、大変参考になりました。読み進める中で私自身の短いプロダクトマーケティングに向き合う経験と重ね、グロースフェーズのPMMの役割は、ブームを作ることに似ているなと感じました。「興味を持つ、または持ちそうなユーザーに(時にはユーザー像を創造しながら)、適切な価値を届け続けることでプロダクトが受け入れられ、その輪が広がっていく」という一連の流れを作ることがグロースフェーズのプロダクトマーケティングには重要であると考えています。

モメンタムを醸成するGTMとは

モメンタムという言葉が耳慣れない方もいらっしゃるかもしれません。
モメンタムとは、もともとは「はずみ」、「勢い」という意味で、私自身はプロダクトやその成長指標が加速度的に進んでいく大きなうねりのように捉えています。
モメンタムを醸成するGTMを言い換えると、顧客が欲しいタイミング求められている価値を届けるためのGTMだと考えています。
要するに「欲しいな〜と思っていたら、来た〜!」という状況を作り出すことです。
その状況を作り出すためにPMMとして特に目を配ったのは「社内状況」「顧客状況」「デリバリーコンテンツ」の3つでした。

まず、第一に「社内状況」です。社内のメンバーがプロダクトに対する熱量を感じ、可能性を信じられる環境を作り、エバンジェリストを育てることが重要です。PMM自身がプロダクトへの理解や愛、熱量を最も持っているのは大前提ですが、その熱量を社内にしっかりと伝播させる必要があります。というのも、顧客に価値を直接伝える場面では、PMMよりもセールスやCS、ISなど前線で活躍する精鋭たちが担うことが圧倒的に多いからです。濁りなく価値を伝えるためには、社内で同じ熱量を持つことが不可欠です。

次に「顧客状況」です。こちらがどれだけ熱量を持っていても、受け手である顧客側の準備が整っていなければ、「欲しいな〜と思っていたら、来た!」ではなく、「なんか、すごい勢いで来たぞ…!」と引かれてしまうこともあります。いかにして顧客が「欲しい!」と思う状態を整えるか、これも非常に大事なポイントです。

最後に「デリバリーコンテンツ」です。ここでいうデリバリーコンテンツとは、顧客に価値を伝えるための施策や機能全般を指します。たとえば、メールや事例、ebook、セミナーといったマーケティング施策だけでなく、顧客が求める機能改善も含まれます。これが欠けると、情報を伝える手段が限られてしまいます。この部分については世の中に豊富な情報があるため、詳細は割愛しますが、その重要性は言うまでもありません。

これらの3つを適切に組み合わせ、顧客が欲しいタイミングで求められる価値を届けるために、GTMの実行に取り組みました。

それぞれの要素に対してぼんやり意識していたこと

プロダクトを取り巻く状況を可視化するGTMマップの作成

ここから、モメンタムを醸成するGTMの実行のために行ったことをお話します。
まず、前述の3つの要素の適切な配置のためにGTMマップの作成からとりかかりました。
GTMマップとは「LOVED 市場を形づくり製品を定着に導くプロダクトマーケティング」記載の、いつ・誰に・何を・どんなふうに届けるかを中長期の時間軸で可視化したPGTMキャンバスを参考に、よりミクロな時間軸でプロダクトのGTM方針を記載したものです。

今回作成したGTMマップのイメージ(note用に簡易化・加工しています)

GTMマップを作成しようと思い立った理由は、意図的にモメンタムを作り出したかったからです。前述の三つの要素を俯瞰で見て、どこに山を持ってくるべきかを可視化し、それを社内関係者に共有して同じ解像度で進めることが、モメンタムを作り出す近道だと考えました。

GTMマップの構成はシンプルです。横軸に任意の期間を記載し、縦軸に主要な要素を記載します。縦軸は、ターゲットとなる顧客がどのような状況にあるのかを表す「顧客状況」、社内でどのような動きがあるか、どこにマインドシェアが向きそうかを表す「社内状況」、そして「その他施策カテゴリ」です。最後のカテゴリは、組織体制や共有対象によって変動するため、必ずこれでなければならないわけではありません。例えば、マーケティング部に対する呼びかけに留める場合は、「認知」「獲得」などに分けることも考えられます。
縦軸の中で最も重要なのは「顧客状況」です。モメンタムを醸成するGTMにおいて(そうでない場合も同様ですが)、すべての意思決定の軸は顧客環境にあるといっても過言ではありません。顧客がどんな業務をしていて、その時の関心事が何なのかを想定し、具体的に落とし込むことが大切です。
「社内状況」を設ける理由は、インプットを行うタイミングや、顧客環境を最優先としつつ施策を実施するタイミングを判断するためです。この要素では、その時期の社内(特にフロントメンバー)がどのような状態にあり、何にマインドシェアを割いているかを想定します。例ではモザイクを掛けていますが、例えば「期末時期であれば眼前の案件に集中するため、それ以外の情報は入りにくいだろう」や「新機能がリリースされるので感度はそちらに向きそう」などが挙げられます。顧客状況と同様に、社内も情報を受け取りやすい時期であるか、または情報をメリットとして感じられるタイミングであるかを考慮しました。

これらの観点から、GTMマップ作成のメリットを3点にまとめてみました。

GTMマップのメリット

  • 顧客状況を起点としてアクセルを踏む時期を決められ、そこに合わせた戦略を組み立てられる

  • 社内関係者との適切なタイミングでの目線合わせができ、団結力を強めることができる

  • 社内・顧客双方の状態を踏まえて施策の検討と実行ができる

GTMマップを活用した施策の実行

実際に作成をしたGTMマップに沿って、いつどんなことを行ってきたのかをお伝えいたします。
まず、6月頃にGTMマップの叩きを作成した時に、この半年間で顧客は、年末調整への情報収集・準備・実行に大きな労力を割くと改めて理解をしました。また年末調整は担当者だけでは完結せず、従業員全体を巻き込む必要があるため、担当者と従業員の連携が特に重要であることも理解しました。だからこそ、顧客は年末調整の準備に特に力を入れ、従業員にも強く呼びかけがされるだろうと考えました。
スマートフォン向けアプリは、担当者からの連絡事項を従業員に伝えやすくするという特徴があるため、今回のGTMの山は年末調整の準備の本格化が想定される10月頃に設ける判断をし、「アプリ通知で見逃し防止ができ、いつでもどこでも対応可能になることで従業員の対応を促進し、結果的に年末調整が円滑に進む」を軸に様々な手法で価値を届けようと考えました。上記の方針を元に関連する施策を検討し、GTMマップを完成させました。

GTMマップの作成の後は、下準備として社内関係者へGTMの内容説明や、施策の相談を実行しました。どこで山を作りたいのか、そのためにどんな施策を行いたいのか、全体のうちこの施策はどのような位置づけでなぜ必要なのかを中心にお話をしました。
中でも、年末調整チームに対する説明は今回のGTMの主軸である年末調整に密に関係するため、力を入れました。(弊社の年末調整機能は毎年リリースがなされ、そのたびに年末調整機能のGTMチームが組成されます。)
GTMマップを軸に社内関係者にお話することで、注力ポイントが明確にシェアできますし、その中で自分はどこに関係し、どんな意味を担うのかを解像度高く伝えることができ、熱量高く施策実行ができます。

目線合わせができた後は、実行です。ここに関しては正直あまり語ることはなく、組み立てたGTMマップを粛々と実行に移すことに尽きます。
数々の施策を行ってまいりましたが、その中でも特にこれはやってよかったなと思える2つの動き紹介いたします。
1つが年末調整準備期間に開催をされた十数回のセミナーへ、「年末調整機能×スマートフォン向けアプリ」のメリットを漏れなく内容に盛り込んだことです。
「年末調整は、多くの従業員に対応が求められ、対応が止まってしまうと全体の遅延につながってしまう。だからこそ、アプリによって対応漏れを防止しましょう」そんなメッセージを伝えておりました。

該当資料の抜粋

中には「そんなことか」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、
伝え続ける凡事徹底が、顧客はもちろん社内関係者にも「年末調整にはアプリを利用する」という共通認識を生むに至り、後の動きにもはずみが出たように感じています。
たとえば、「こんな傾向が出ているから、こんな施策をやってみてはどうだろうか?」や、「この記事に、この表現も盛り込みたい」などマーケティングやCSの方々から自発的に思いもよらなかったナイスな提案を頂くこともありました。
2つめは、顧客に欲しいと思われるであろうタイミングでの機能リリースです。9月の下旬に、アプリのダウンロードや起動を誘導する、バナー表示を設定できる「バナー機能」をリリースいたしました。
アプリのインストールを促進するための様々なコンテンツを用意はしておりましたが、顧客の案内工数が0なのかと言われるとそうではないです。
年末調整の準備の段階では、ただでさえ担当者は業務で逼迫しているので、余裕を持ってアプリを案内できることのほうが少ないかもしれません。
そんなタイミングで、半自動的に従業員にアプリインストールの促進がなされる機能が登場すれば、きっと顧客は喜んでくれるに違いないと考えていました。
開発着手段階からプロダクトマネージャー(PM)やエンジニアの方々とリリースの時期についてはお話していたこともあり、タイミングを意識したデリバリーができました。不確実性が高い中でもコミットをいただいた開発チームには本当に心から感謝しています。
結果的に当該機能の利用はリリース初期から跳ね上がり、顧客の手に素早く届いて活用されていることを確認し、意志と意図をもったリリースのタイミングの重要性を再確認しました。

また、粛々と施策を実行するかたわらで、状況に変化があった場合は前述の「4つの基本」のアンバサダー的な立ち回りとして、その内容をすぐに社内全体にシェアをすることを意識していました。「某大手企業の〇〇社から、アプリのお陰でこんなに業務が楽になったという声をいただいた」や「アプリのこの機能の利用率がとても高く、インストール数にも跳ね返ってきている」などポジティブな変化を積極的に社内でシェアすることによって、プロダクト全体のまだ見ぬ価値を感じていただけますし、何より勢いが出ます。ポジティブな変化を共有することで、さらに良い成果を生み出す循環を作り出せると考えています。

リリース史上最高のインストール数の記録

多くの関係者に協力をいただき、GTMを実施する中でKPIに明確に変化が出始めたのは、10月中旬ごろでした。休日を底値に平日で徐々にインストール数が増えるという1週間のインストールのサイクルがあるのですが、休日の値が徐々に上昇していっていることを感じていました。
大きなうねりが形として現れたのは、10月下旬ごろでした。施策の集中時期が10月初旬頃だったので社内、顧客、デリバリーコンテンツのタイミングが噛み合っていたのだと感じています。
結果として、アプリリリース時点のモメンタムを超えるほどの盛り上がりを記録することができました。インストール数はリリース初期である前年の同期比で約150%と優位な数字が出すことができ、リリース史上最高のモメンタムを醸成することができました。

アプリインストール数の推移

また、同じタイミングで想定していなかった嬉しいことも起こりました。
アプリインストールランキングにおいて、Appstoreビジネスカテゴリで1位を取ることができました。(同時にgoogle playストアでも2位を記録することができました。)
リリース時点でも、2位が最高位であったので素直に嬉しかったのを覚えております。

2024年10月26日時点

現在は、インストール数の山も落ち着きつつあるのですが、引き続き高い水準で数字は推移しており、多くの顧客の手元に価値が届いている証拠でもあるのかなと感じております。

おわりに

本日は、私が行ってきたGTMについてのお話をいたしました。
まだまだお話したいことがあるのですが、びっくりすることに6,000字を超える肉厚具合になってしまったのでここで一区切りとしたいです。今回の動きは、冒頭もお話をした「LOVED 市場を形づくり製品を定着に導くプロダクトマーケティング」に立脚するものであり(回し者ではないです)、私の我儘なGTMに真っ向から向き合ってくれたPM、開発チーム、マーケティング、CSなど、皆さんのお陰で実現することとなりました。

顧客がどんな状態であり、そのときにどんな情報が必要なのかを考え、実行できた経験は新しい発見が多くあり、その重要性を強く感じるものでした。
まだまだ、未熟な部分が多いですが今回の経験も経て、改めてPMMという職種の魅力を感じることができました。
同じようなフィールド活躍されるみなさまのお知恵も拝借しながら、引き続き向き合っていきたいと思います。

SmartHRでは、一緒に働く仲間を募集しています。
不確実性の高い状況を楽しみながら、一緒に進める環境が整っています!
ご興味がある方はカジュアル面談からぜひ!


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