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【起業】投資ラウンドについて
1990年代、アメリカのシリコンバレーで起業ブームが起こって以来、主にベンチャーキャピタル(VC)などが、当時のベンチャー企業(いまの言葉でいうスタートアップ)と、成長度合いに応じた優先株式の内容や発行数などを議論・判断するために、「投資ラウンド」という考え方を定着させてきました。
この呼び名は日本にも定着しており、資金調達の際、投資家、VC、銀行などと交渉をスムーズに進めるための知識として「投資ラウンド」について知っておくと便利です。
一般的に、投資ラウンドは、創業前の「エンジェル」「シード」、創業後の「シリーズA、B、C……」に分かれます。
まず、シリーズA、シリーズBなど、投資ラウンドの名前の元にもなっている優先株式について簡単に説明します。
優先株式
優先株式とは、普通株式と違い、株主に対して何らかの優先権を約束した株式のことです。一般的にスタートアップの優先株式と言えば、万が一会社を清算するとき、優先株主が優先的に投資した金額を回収し、残りを普通株主が分配する「優先残余財産分配権」が設定されます。
また、多くのスタートアップでは、投資契約書などで、優先残余財産分配権と合わせて、M&A等、イグジットとしての株式譲渡も清算と同様とみなす「みなし清算条項」を設定し、幅広く優先株主が資金回収できるようにします。
スタートアップが普通株式でなく優先株式を発行する主な理由は、普通株式よりも株式価値の高い優先株式を発行すれば、少ない発行株式数で資金調達の目標金額を達成できるからです。創業メンバーなど普通株式を持っている経営者の経営関与度を維持するために、発行株式数はできるだけ減らしたいのです。
尚、優先権設定の詳細についてはさまざまで、例えば、日本の会社法では普通株式でない株式を「種類株式」として「優先配当」「優先残余財産分配」「議決権の制限」「譲渡制限」「取得請求権」「取得条項」「全部取得条項」「拒否権」「役員選任権」などが設定できます。
優先株式と投資ラウンド
優先株式は、発行順にA種優先株式、B種優先株式、C種優先株式というふうに、先頭にアルファベットを付けて区別するのが通例となっており、基本的には、投資家に対してA種優先株式を発行して受ける投資をシリーズA、同じく、B種優先株式を発行して受ける投資をシリーズB、以後順にシリーズC、シリーズD…… と続きます。
投資ラウンド
VCからの投資を受けるのはA種優先株式の発行から、つまりシリーズAからになる場合がほとんどですが、その前にも「シードラウンド」更に「エンジェルラウンド」を設定して、投資を受けながら成長するスタートアップも増えています。
エンジェルラウンド
「いいアイデアがあるのだけれど、お金がないとアイデアの検証もできない」という場合には、このラウンドの資金調達を行わなくてはなりません。
例えば、技術系スタートアップなどで、ビジネス検証用の装置を作らないと話が始まらないという場合にはこのラウンドの資金調達が重要になります。
アメリカでは、いわゆるエンジェル投資家といわれる個人投資家から出資を受けることが多いので「エンジェルラウンド」と呼ばれますが、エンジェル投資家の少ない日本では、インキュベーターと呼ばれる団体から支援を受けるケースが多くなります。
インキュベーターの母体は地方自治体や、独立行政法人 中小企業基盤整備機構、NPO法人などで、投資から直接リターンを求めるのではなく、国や地域の経済振興や、科学技術を早期にビジネス展開することなど、それぞれ独自の目的でスタートアップ支援を行っており、自分の事業にマッチしたインキュベーターに出会うことが大切です。
シードラウンド
ビジネスの方向性が決まって、創業前、あるいは創業直後に商品のプロトタイプなどを作りながら、商品やサービスが市場に受け入れられるまでの試行錯誤に必要な資金を調達するのがこのラウンドです。
CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の中には、自社の事業内容とのシナジーが見込めたり、投資が自社のイメージアップにつながるなどのメリットがあれば、積極的にシードラウンドに投資するところもあります。
エンジェルラウンド同様、リスクが大きいぶん、それぞれ、出資や支援には直接のキャピタルゲイン以外の目的があるので、それらを十分理解した上で、自分の事業にマッチした資金調達を行う必要があります。
シリーズA
A種優先株式の発行による資金調達を「シリーズAラウンド」あるいは単に「シリーズA」と呼びます。
主にアーリーステージのスタートアップが投資の対象になりますが、このラウンドの出資を受けようと思うと、ある程度、初期の商品やサービスは市場に認知されており、多少のリスクは抱えながらも、これからのビジネスの展開を十分説明できなくてはいけません。
シリーズB
シリーズAの次になるので、タイミングとしては、ビジネスを大きくスケールアップするときの資金調達になります。
シリーズC
シリーズA、シリーズBの流れから、イグジットまでの準備資金を調達するのがこのラウンドということになります。
シリーズD以降
この後も、イグジットまでに資金が必要になるようであれば、シリーズD、シリーズEと続くことになりますが、新たに株式を発行するたびに起業家自身や創業メンバーなどが株を持っているメリットが薄まっていきますし、融資を受ければ当然返済リスクを背負うことになりますので、慎重に資金調達を行っていく必要があります。
成長ステージとの関係
スタートアップの成長ステージ(参照「【起業】スタートアップの成長ステージ」)では、起業家側に近い目線で立ち上げたビジネスと顧客や市場との関係をモデル化しているのに対し、投資ラウンドは、資金調達のタイミングに合わせて、投資側寄りの目線で分類されています。
ただし、多くの場合、成長のステージごとに資金調達が必要で、投資ラウンドもスタートアップの成長段階の指標として語られることも多く、実は様々な場面で、かなり似た意味に使われています。
ビジネス用語といわれるもののほとんどは、言葉の定義を厳密にすることにあまり意味はなく、その言葉を使うと、付随する周辺の情報もなんとなく伝わることが重要で、「聞いたことがないとちょっと困る」ぐらいのイメージでとらえた方がいいでしょう。
いまは「成長ステージ」と「投資ラウンド」をちゃんと区別して、しっかり使い分けることが「起業家っぽい」ですが、今後は、双方細かい定義を変えつつ、将来的にはどちらか一方だけが使われるようになるのではないでしょうか。