ダメな幼馴染と恋愛未満。紅茶を添えて。0
大きな箱に詰まった紅茶のティーバッグ。その数、なんと30種類。
それが、様々な色のパッケージを纏っている。
見ているだけで、嬉しくなってしまうのは、女子として、仕方のないことだろう。成人式をゆうに越えて、喉を通る度に焦がすアルコールの刺激に慣れてきたことに目を瞑れば。
どれを飲もうか、と悩んでいると横から大きな手が割り込んだ。
「ドウシタンデスカ? ソレ??」
その中の一つが宙に浮く。さっと、可愛いクマの絵が横切っていく。
「ちょ、ちょっと、サムっ、返してっ!」
アタシは慌てて追いかける。ひらひらとティーバッグを振る手の持ち主、サムを。
幼馴染で、同居人。
「同棲じゃないの?」 と良く言われるけど、同居人。
だって、まだ、恋人じゃない。告白されてないし、する気もない。
だって、アイツにとって、私は親友。手を出されたことは一度もない。むしろ、目の前で他の女の子に手を出してる姿しか見たことがない。
親から貰ったGカップと頑張ってダイエットとトレーニング積んだお尻だけじゃ、あの子たちに太刀打ちできない。
勝ち目のない賭けって、アタシ、大嫌い。だから、いつも、モヤモヤするのだ。
彼女たちより、アタシの方がサムのことを知っていて。
彼女たちより、アタシの方がサムのことが好きなのに。
なんで、こう、うまくいかないんだろう?
今だって、あまりに可愛らしいティーバッグをアイツが強奪した理由が分からない。だって、アイツ、コーヒー派だから。
「浮気サン、淹レテクダサイ!」
「へ?」
アタシは耳を疑った。
サムが、紅茶を、飲む? どういう風の吹き回し??
「一緒ニ、飲ミマショ?」
「え…… いいの?」
「ボクダッテ、紅茶飲メマス!」
嫌いじゃなかったっけ? と問いただそうとした口に、ティーバッグが押しつけられる。可愛いクマの絵に、アタシのファーストキスを落としていく。
キラキラと目を光らせてワンコのようにこちらを見るサム。図体はでかいし、申し訳なさのかけらも無い顔がこちらをニヤリと笑っている。
「…… 分かったわよ」
アタシは、渋々、キッチンへ足を進める。
ティーバッグを二個。ちゃんと用意して。
0;2人の日常。山もりの紅茶とともに。