私とおばちゃんの3時間戦争

(Twitterで呟いたものを多少修正して載せてます)

今日お話しする夜話は「私とおばちゃんの3時間戦争」となります。告知した通り、バザーでおばちゃんとからあげくんの皿を巡り3時間たたかった話です。ご興味ある方もない方も、適当に聞き流して行ってください。

小さき人の通っている保育園は提携している他のスクールと共に年に1、2回ほどバザーを開催する。市内の中心にある公園を貸し切り、バザーだけでなく、様々な出店あり、遊びの体験コーナーありの、保育園のバザーってレベルじゃねぇぞという大きめのイベントである。

保育園の経営理念などその他諸々の事情により、職員と園児の保護者で数週間前から準備するので、ここまで大規模!?と最初は本当にびっくりした。私は手芸も料理もそんなに得意ではないので、もっぱら当日の売り子を担当している。
まだ3回くらいしか参加してないけど。

バザーに出される品は園児の保護者から提供された日用品や衣類などごく普通のものなのだが、ちょっとした事情により、たまに海外高級ブランドの衣服やバカラのグラス、牛革の高級ランドセルなどが混ざり込み、他のものと同じく100円くらいで売られている。ここのバザーは本物の玉石混合なのだ。

このバザーの玉石混合具合は有名なようで、近場からも遠方からもかなりの人がやってくる。そして、結構売れるのだ。

え…こんなの誰が買うの?というようなよくわからない物でも何故か売れる。誰かの手作りお面や全ピース揃ってないパズルでさえ売れる。なんでそんなのが出品されてるのかわからないが。

ただ本当にいろんな人が来るので、めちゃくちゃなこともたくさん起こる。衣服や鞄などバザーの中でも比較的高価な物の担当はそうでもないが、おもちゃや日用品を10円や100円で投げ売りをしている雑貨部門の治安は最悪である。

保育園バザーの中に突如出現するスラム街。そう、私の担当はそこである。

今回のお話しするのはそのスラム街で出会った1人のおばちゃんと私のからあげくんの皿を巡るハートクーリングエピソードである。

いつぞやの春先にあったバザー…私はまだ参加は2回目でなんとなくバザーの雰囲気はわかっているという程度の売り子であった。(いまも大差はない、年に1回くらいだし…)

バザーは実質3時間くらいなのだが、最初の1時間を過ぎると治安が乱れてくる。値切りなどは問題ではなく、何故かキット製品の箱を勝手に開けて部品をバラして持っていこうとする者や、普通にパクっていこうとする者がいるので、そこを注意しなければならない。
「起こらないように」仕切るのである。

出品された品の中で有望そうな物はどんどん売れていく。最後の1時間がくるまでは値切りにはあまり応じないという暗黙のルールとなっているので、すべての値切りを平等に断われるので心情的にも楽である。

電源が入らないおもちゃの電子ピアノ(説明済み)が売れたところで、1人のおばちゃんが私に話しかけてきた。

「このお皿、もっと安くならへんの?」

某コンビニのキャラクター、からあげくんのノベルティグッズのお皿である。3枚セットで500円と値段がつけられている。
この手のやつ意外と売れるんだよなーと思いつつ、まだバザーが始まってから30分しか経っていない。

ルールのため、まだ値下げはできないと答えると、おばちゃんは多少不機嫌になりつつも、500円には納得できないようで、そのまま去って行った。

すまんな、おばちゃん…この皿は他にも結構気にして見ている人がいるので、おそらくこの値段で売れる品なのだ。

ここはバザー…
一期一会の戦場である。

立ち去ったはずのおばちゃんはその後たびたび雑貨スペースを訪れ、からあげくんの皿を確認していた。

ん?

よく見ると、からあげくんの皿に興味がありそうな人が来るたびに、おばちゃんがさりげなく手に取っては戻すを繰り返している。

ほお…そうきましたか…

からあげくんの皿の何がそこまでおばちゃんを魅了しているかわからないが、きっと何かがあるのだろう。
そこまでして欲しいのなら、もし次、交渉に来たら、本部の人に相談して値下げできるか聞いてくるか…と思い始めていた。

しかし、おばちゃんは10分くらいのディフェンスでキレてしまったのである。

防戦一方の戦いに嫌気がさしてしまったおばちゃんは、皿を見ているフリをして他の商品の下にからあげくんの皿を隠してしまった。そして、何食わぬ顔でまた立ち去って行ったのである。

そうやって値下げ開始するあと1時間を耐えようっての…?

ふーん、面白ぇ女…

私はからあげくんの皿をフロントの目立つ場所に配置し直した。

10分くらいたってまたおばちゃんが確認にきたとき、隠したはずの皿がフロントに出てきていることに気づいた。

おばちゃん、あなたは微妙な一線を超えてしまったんだよ、買うか諦めるか…決めてください…

しかし、おばちゃんはそこで終わるようなタマではなかったのだ。

重ねたくらいでは気づかれると悟ったのか、売れなさそうな商品の箱にからあげくんの皿を分散させてねじ込み始めたのである。

そこまでからあげくんの皿を失いたくない気持ちがありながら…何故!

注意をして止めるべきなのは分かっていたが、私は気づかないフリをした。

おばちゃんはこれで大丈夫、あと30分でこの戦いも終わりよ…という顔で立ち去って行った。

すぐに私はからあげくんの皿をフロントの目立つ場所に配置し直した。

あと30分、存分に戦おうじゃないか。

まあ、いうても30分しかないので、おばちゃんも他の商品の箱にねじ込むような離れ技は繰り出せず、おばちゃんが皿を隅の方へ移動させて、私がフロントに戻すを1回やったくらいである。

そして、値下げの時間が来た。
私とおばちゃんの3時間(正味1時間くらい)の戦いの終わりが来たのだ。

闇堕ちバレしたおばちゃんはさすがに気まずくなって買わないのではないかと思ったが、あっさりと聞いてきた。

「このお皿、もっと安くならへんの?」

「300円です」

「は!?半額にもならへんの?もうええわ!買うわ!」

そうして、からあげくんのお皿はおばちゃんのものとなった。

この戦いの結末は最初から分かっていた。

私とおばちゃんのギリギリ(?)のやりとりに割って入り、からあげくんの皿を買おうとする客など誰もいない。
おばちゃんが購入するか、売れ残って次のバザーまで在庫として残るかの2択しかない。おばちゃんが戦いから降りても、降りなくても。

正味、私に残ったのは疲労感だけであった。


おばちゃんはこの戦いで一体何を失い、何を得たのだろう?

そう、おばちゃんは、2時間半の時間とモラル、そして現金300円という代償を支払い、からあげくんの皿を手に入れたのだ。

うん、多分、500円超えてると思う。

おわり

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