非日常を味わい尽くす!メキシコ旅物語 I/アシカと戯れるラパスダイビング編
旅の始まり Aeromexico機
2016年7月半ば、夏休みで賑わう成田空港。
搭乗前に最後の晩餐とばかりに、回転寿司屋で腹ごしらえした僕らは、意気揚々とメキシコシティ行きのAeromexico機に乗り込んだ。
タコス臭?いやそれは言い過ぎだろうが、搭乗するや否や即座に空気の違いを感じた。明らかに日本のニオイとは違う。
そして褐色の肌に彫の深い顔立ちの面々。スペイン語が飛び交い、陽気なメキシコ人が多いせいか、何やら騒々しい。
メキシコのフラッグキャリアであるAeromexicoの評判はあまり良くない。
最新鋭のB787だったが、僕の席のモニターは動作せず、CAも全く気にする風もない。前評判通りのスタートだ。
僕は、さっさと耳栓をして本を読んだりうたた寝をしたり。でも途中2回の食事は評判とは裏腹に旨かった。
こうして僕ら夫婦は、メキシコシティ経由でラパスへと向かう旅に出た。
非日常の旅を求めて
僕は海外旅行好きだが、生来の変わり者のせいか、多少ひねりが効いた旅でないと満足できないたちだ。
もう8年も前になるが、夫婦でメキシコはバハカリフォルニア州ラパスへの旅に出た。メキシコ北西部、太平洋側に長く伸びる半島の先端部の街。
旅の目玉は盛り沢山だ。
荒涼とした砂漠とサボテンの街ラパス/La Pazで、アシカと戯れるダイビング。そして無人島Isla la Partidaでのテント泊。
首都メキシコシティでは賑わう街並み散策と、古代都市テオティワカンへの日帰り旅。もちろん、たっぷりのメキシコ料理とテキーラも。
この旅がもたらした強烈な印象と思い出は、8年を経て全く色褪せない。
当時僕ら夫婦はフルタイムで働く50代&40代のDINKs。
溜まりに溜まった仕事のストレスを一気に開放すべく、年に一度のペースで海外旅行に出かけていた。
バブル世代の僕らの趣味はスクーバーダイビングと山スキー。
できる事なら、それらに海外、それも異文化や歴史を感じる旅と掛け合わせたい。
欲張りな要求を満たす旅を探し求めてメキシコ&ラパスに辿り着いた。
ちょっと怪しげな雰囲気も冒険気分を盛り上げてくれそうだ。
前後の土日祝日を含め、何とか10日間を確保。
せっかく行くならアレもコレもとなるが、サラリーマンにとっての長期休暇は至難の業だ。行先はラパスと経由地の首都メキシコシティに絞った。
現地時間の最大化のために、選んだのはAeromexico。成田から首都メキシコシティへノンストップ。そこから国内線でラパスへと向かうことにした。
そしてダイビングサービスは、FUN BAJA。驚いたことに、こんな辺境の地にも若き日本人スタッフがいた。ここは海外ダイビングを得意とするCLUB AZUL経由で予約した。
ホテルはラパスの海沿いに建つSeven Crown La Paz Malecon。
美しいラパスの海岸に沿って伸びるメインストリートに、こじんまりと建つホテル。海を背景に何とも言えぬ哀愁漂う雰囲気が好きだった。
郷愁を誘う街メキシコ ラパス
太平洋を横断する長いフライトの後、経由地メキシコシティでは一旦荷物を受け取り入国審査を受け、国内線でラパスに向かう。
この入国審査がうんざりする程の長蛇の列。
メキシコシティには定刻に着いたものの、危うくラパス行きに乗り遅れそうになった。
さて、ほぼ丸一日かかって目的地ラパスが見え始めた。
眼下には、見渡す限り広がる荒涼とした風景が続く。ほぼ砂漠じゃないか。
燦燦と輝く太陽と青い海、緑あふれる大地を想像していた僕は、着陸前から不安な気分に覆われた。
迎えの車に乗り、ラパス空港からホテルまでの道中でもイメージは変わらない。荒れ果てた土地に、打ち捨てられたような建物が続く。
このゴーストタウンのような土地の先に本当に楽園があるのだろうかと思いながら30分ほど走ると、ようやく海沿いの街が顔を見せ始めた。
もちろん、ワイキキのようなオシャレなリゾート感は微塵もない。
プーケットのようなゴチャゴチャ感でもない。
まさにThe中米。これまでに経験したことがない雰囲気の街が待っていた。
田舎の海沿い、こじんまりとした哀愁漂うマリンリゾートと言ったところだろうか。
一通りホテルやレストランや市場は並んでいるが、行き交う人々は素朴そのもの。通りには数十年は経っているであろうオンボロのボンネットバスが走る。
派手さはないが、なぜか懐かしいようなホッとするような落ち着きを感じる街だった。
僕たちはこの街で8日間を過ごした。
ローカル達との触れ合い
ホテルにチェックインして早速問題が発生する。異常に小さな窓しかない、物置のような部屋。
寝るには問題ないが、これでは出張時に使う日本の安いビジネスホテルと変わらないではないか。そもそも、HPで見た部屋の雰囲気とは大きく違う。
ダメもとでフロントの若いスタッフにルームチェンジの交渉をした。
「今日は他に空いてる部屋はない」という。「空きが出たら連絡する」と当てにならないような回答をもらう。
こんな時、本来なら理路整然と強気に交渉したいところだが、お互いに母国語ではない英語でのコミュニケーションでは、どうも力が入らない。
仕方ない、諦めるしかないか。
外を見ると、美しい夕日が海に落ちようとしている。
気分を変えて、ホテルの周りの散策に出ることにした。
陽が傾くにつれ、猛烈な暑さも和らいできた。
湿度が低いのだろう、海風に吹かれながら歩くと気持ちがいい。
プラプラと通りを歩いていると、典型的なメキシカンレストランの前でウェイターがニッコリ微笑んでいる。観光客向けレストランのようだが、時間がまだ早いのか、先客はほとんどいない。
どうしよう? まあいいかっ、腹も減ったし長旅で疲れた。
今夜はここで軽い夕食にしよう。
メキシコは、意外なほど英語が通じない。アメリカと国境を接していてもこんなものかと驚いてしまう。
もちろん空港や駅、ホテルでは通じるが、一歩街へ出るとチンプンカンというレベルは、日本以上かもしれない。
タコスを注文しようとすると、どうやらCorn tortillaかFlour tortillaかと聞いてくる。あの丸い巻物には、トウモロコシ粉と小麦粉の2種類があるらしく、どちらかを選べと。
両方食べ比べて、僕は断然Corn tortilla派になった。
レストランを出て更に街をそぞろ歩くと、地元の男たちで賑わっているバーがあった。
ドアを開け放し、ドリンク片手に楽しそうにやっている。どうやらサッカー中継で盛り上がっているらしい。
酔った男たちがスペイン語でまくし立てている中に入るのは、かなり勇気が必要だ。入口付近でウロウロしてみても誰も声をかけてくれない。
ここは、覚悟を決めてチャレンジあるのみ。僕たちは男たちをかき分けて店の中へと進んだ。
ニコリともしないバーテンダーに、テキーラ DonJulioのANEJOを頼む。
一口飲んだ僕を見て、バーテンダーは僅かに微笑んだ。
この東洋人、俺たちの酒の味が分かるのか、とでも言いたげだった。
宿に戻ると、先ほどの若いスタッフが声をかけてきた。
「別の部屋が用意できている」と。「その部屋でいいかどうか確認してくれ」と。
用意された部屋はオーシャンビュー。
やるじゃないかメキシコ、そして若いスタッフ。GRACIAS!!
長旅の疲れとDonJulio ANEHOに痺れた身体は、あっと言う間にベッドに吸い込まれたのは言うまでもない。
驚愕のラパスダイビング
時差も吹っ飛ぶほどの熟睡をした翌朝。
最上階のレストランで朝食をいただいた。ここは最高に気持ちがいい。
今日から始まるラパスダイビング三昧。そして今夜の無人島テント泊に胸が高鳴る。
予約通り、ダイビングサービスFUN BAJAのスタッフが、ホテルまで迎えに来てくれた。英語は堪能、日本語も少々OK。根掘り葉掘り聞いてみると奥様は日本人らしい。
途中いくつかのホテルをまわって、ご一緒するダイバーを拾っていく。
トップシーズンだが、思ったより客は少なく、僕ら以外に日本人が1組と米国人1組のみ。
のんびりゆったりムードで、ダイビング専用クルーザーはコルテス海に出た。
噂には聞いていたが、こんなにも!
いきなりアシカ、アシカ、アシカ。四方八方からアシカが現れる。
大人のアシカは2mほどもあり近づくのは怖いが、こどもアシカは何とも愛くるしい。全く人を恐れずに、じゃれついてくる。
僕のフィンを引っ張ろうとしたり、手を差し出すと甘噛みしてくれる。抜群にカワイイのだ。
7月は赤ちゃんアシカが自ら遊び始めるシーズンらしく、じゃれ合うには最高の季節らしい。彼らに囲まれて幸せな時を過ごした。
その他にも、マンタにバラクーダに巨大ジョーフィッシュに興奮が止まらない。今回はジンベエザメが見れなかったのは残念だったが、魅力いっぱい、興奮いっぱいのラパスの海だった。
この日はダイビングポイントから直接宿泊地となる無人島に向かう。
おそらく全周2キロほどの起伏に富んだ島。赤褐色の地肌とニョキニョキと伸びるサボテンが印象的、と言うか、それのみの島。
とても人は住めそうにない。
この無人島に、僕ら宿泊客4名となんちゃってシェフ兼スタッフ2名をおろし、クルーザーは去っていた。
企画されたイベントとは言え、この乾燥した砂漠の無人島に取り残された不思議な気分。まさかの海賊が頭をよぎる。
気温は40度くらいあるだろうか。
雲一つない灼熱の空の元、僕は小高い山の向こう側を見てみたくなった。
ちょっとハイキングに行ってくると言う僕に、メキシコ人スタッフが怪訝な顔をしながら引き留めた。「こんな暑さであの山を登るのはクレージーだ」と。
それでも諦めない僕に、最後にはスタッフが折れた。
「仕方ない。なら俺も一緒に行く。」
荒れ果てた瓦礫のような山をサボテンを避けながら進む。むちゃくちゃ暑い。滝のような汗、乱れる呼吸。
フラフラになりながら、一時間ほど登った先には絶景が待っていた。
そして、その晩の御馳走はなんちゃってシェフが用意してくれた。
もちろん、テキーラも。
Buen Provencho!
夜、誰もいない無人島で、満天の星を見ながらチビチビとテキーラをいただく。本場メキシコでは、テキーラを一気飲みなどしないのだ。
砂漠とサボテンの島には、風に揺れる木々の音も鳥や虫の鳴き声もない。
ただ静かに打ち寄せる波の音のみが聞こえる。
何という静寂、何という解放感なんだろう。
辺りはいつの間にか漆黒の暗闇になり、もはや肉眼で見えるものは星のみとなった。そろそろテントに戻る時間だが、ワクワクが止まらない。
ラパスに天使あらわる
翌日からはラパスのホテル泊に戻ったが、コルテス海でのダイビング三昧の日々は続く。
見るものすべてがジャイアント。こっちは栄養が豊富なのか?
そしてこの群れの大きさはどうなってんだ。捕食者はいないのか?
ダイビングサービスFUN BAJAの面々はサービス満点。一人旅でも寂しさは感じないだろう。潜るたびに笑顔が止まらないラパス ダイビングであった。
そして涼しくなり始める夕方からは、ラパスの街探索が楽しい。
海外旅行に行くと毎度のことだが、その街の文化を肌で感じることができる市場は見逃せない。そして旨いものを求めて彷徨い歩く。
ある日、炎天下の中をスーパーマーケットへ行こうと歩いていた。
タクシーに乗れば良いものを、生来の貧乏性がたたって、ひたすら歩く。
どこでどう間違えたのか、歩いても歩いても目的のスーパーマーケットは姿を見せない。40度くらいありそうな炎天下。夫婦二人ともに熱中症で倒れそうになりながら住宅街を歩いていた。
この辺りはやはり貧しいのか、通りに面する家の窓は開け放たれ、中が丸見え。窓越しに見えた若い女性に思わず声をかけた。
「市場はこっちであってますか?」はたして英語が通じているのか。
何となく「あってるよ」的な返事が返ってきた。
当てにはならないと思いながらも、疲れ切った妻を励ましながら更に歩く。すると奇跡のようなことが起こった。
後ろから、オンボロの赤いクルマが近寄ってくると、中から先ほどの若い女性が「クルマに乗れ、送るから」と。
どうやら僕らを心配して、わざわざクルマを出してくれたらしい。
そこから市場まではわずか5分程だったが、突然窓越しに声をかけた見知らぬ東洋人のためにしてくれた彼女の行為には、感激で涙がこぼれてしまった。
この世の中、まだまだ捨てたもんじゃないと感じた瞬間だった。
vol.2 メキシコシティ編につづく。