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55歳からの遊び方 vol.4…真冬のシーカヤック

一般的な観点で言えば「あんたアホやろ、この寒いのに」となるだろう。

1月初旬、まだ夜も開け切らぬ早朝。
気温は5℃。
身震いしながら手早に支度をして僕は真冬の海に向かった。

東京は海に面した街とは言えど、都心から海遊びに適した千葉房総半島や、神奈川三浦半島、湘南エリアへは遠い。
電車に揺られながら、ゆうに2時間はかかってしまう。

晴天、風穏やかにして波低し。
ラッキーだ。真冬にこの穏やかな海況は貴重だ。
いつものシーカヤッククラブの面々と落ち合い、冬晴れの海に漕ぎ出した。

冬の海は意外に暖かい。海水温は15℃。
気温より遥かに暖かく、海面からジワーっと暖かさが伝わってくる。

ふと視線を上げると、見事な富士が目に入った。

相模湾から富士を望む

こよなく海を愛し、偉大な海に思いを馳せながら、一心にパドルを動かすカヤック仲間たち。

海鳥たちが、まるで水面を走るが如くの長い助走の末に、どこまでも低空飛行で飛び去ってゆく。

突然の舟に驚き混乱し、高く飛び跳ねる気弱な魚たち。

水中を覗くと、どこまでも見通せる透き通った冬の海。

見る見るうちに薄汚れた心は洗い流され、ちっぽけな自分に今更ながらに気付かされる。

やがて僕らは、他愛もない話をしながら穏やかな海をゆく。
朝起きるのは辛かったけど頑張って来て良かったと、心から思う。


シーカヤックとは、堤防沿いの散歩の如く美しい景色を見ながら、のんびりと漕ぐものと思っていた。

しかし、母なる海の気性は激しい。
波、うねり、風、水温、気温、干潮、満潮、大潮、小潮、一日たりとも同じ条件の海はない。

何千年もの昔から、この激しい気性に翻弄されながら漕ぎ続けてきたイヌイットたちに思いを馳せ、僕は漕ぐ。

それなりの技術習得が必要だ。
体幹を鍛え、バランス感覚を磨く。
目を凝らして水の動きを観察し、手足の如くにパドルを使い、艇を傾け、足腰を柔軟に動かすことで、自在に艇を操る。

万一の沈の時には、エスキモーロールという技で、一回転して起き上がる。
シーカヤックは、全身運動のスポーツなのだ。

静と動、心と体、まさに大人が嗜むに相応しい遊びではないか。

その昔、北極圏に住むイヌイットたちは、木を削りだして艇の骨格を造り、アザラシの皮で包んでシーカヤックを造った。
そんな艇で彼らは漁をし、島々を渡り歩いたと言う。

凍える海に投げ出されたら、命はいくつあっても足りはしない。
きっと卓越した技術で、お手製のカヤックを操っていたのだろう。

そんなイヌイットたちの顔立ちは、僕たち日本人に実によく似ている。
彼らは人種的にはモンゴロイドで、遺伝子的には日本人と共通の祖先がいると言われている。

何千年の時を経て、僕らの祖先が海を渡ったカヤックは静かに進む。

自己満足と言われようが、ロマンチストと言われようが、これぞ大人のロマン。

今日も力の限りに遊んでしまった。
もう日没も近い。

僕は遠い昔に思いを馳せながら、燃えるような夕日を背に、冬の海を存分に楽しんだ。

この後は仲間との呑み会へと続く。
61歳専業主夫、だいたいこんな感じで過ごしている。


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フレッド@FIRE専業主夫
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