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ジリからのエベレスト街道クラッシックルート Day 15 ゴラクシェブ〜カラパタール

真夜中に目が覚めた。
夜半からの冷え込みで、喉をやられたのか、乾いた咳と鼻水が止まらない。
頭もなんとなく痛い。

身体は疲れ切っているのに眠れない。
遂に風邪をひいてしまったか。

それとも高山病の症状か。

高山病は睡眠中に悪化すると聞いた。睡眠中は呼吸が浅くなり、十分な酸素摂取ができなくなるとか。

夜中に咳と鼻水で目覚める度に、腹式呼吸を意識した。

寝たような、寝なかったような夜を過ごし、ロブチェでの夜は明けた。

不思議なものだ。
凍える寒さの中、今日のトレッキングの身支度を整え、朝食をいただく内に、頭痛は消えた。

やはり、動くことで深い呼吸になり、酸素摂取が増えるからなのか。

寒さに震えながら、ロブチェの街を後にし、最終宿泊地ゴラクシェブへと出発した。

Lobuche(4,914m)〜Gorakshep(5,170m)〜Kalapattar(5,605m)〜Grakshep(5,170m)
計9.01km


視界に入るのは、目の覚めるような澄んだ青空、雪を被った刺々しい山々、ゴツゴツした岩。森林限界を超えた荒涼とした景色が広がる中を歩く。

勾配はそれ程でもないのだが、空気が薄いのだろう。相変わらず亀のスピードで進む。

果てしなく続くと思えた道のりだが、やがて山と山に挟まれた寒々しい場所に最終宿泊地ゴラクシェブの街が見えてきた。

まずはここでランチ休憩。
そしてこの後どうする?

まだ11:30。
強い冷え込みと強風だが、青空が広がっている。

明日は寒波到来で悪天候予想。
ただでさえ凍える寒さなのにこれ以上は想像不可能だ。

体力が僅かでも残る内に、最終目的地のカラパタールに登ることにした。

カラパタール山頂へは、急な山肌を強風に晒されながら登り、高度は更に500mも上げることになる。

何の為に登るのか全く意味不明なのだが、僕にとっては決死の覚悟だ。

幸い重いザックは宿に預けておけば良い。
水と防寒具とカメラだけを持って、フィナーレとなるべきカラパタール山頂へと向かった。

キツイ。無茶苦茶キツイ。
登っても登っても先が見えない。

それでも下を見下ろすとゴラクシェブの街が確実に小さくなっていく。

咳が止まらない。鼻水は流れっぱなし。頭がクラクラし、意識が遠のくような感覚。

もはや亀にも劣るスピードでしか進めない。

無茶苦茶苦しい、苦し過ぎる。
色んな思いが頭の中をよぎる。

最初に頭に浮かんだのは、僕の幼少期の頃。決して良い思い出とは言えない幼少期の友人達と風景だった。

そして、その昔難病で若くして旅立ち、今は天国に住んでいるであろう僕の家族の姿。

カラパタール山頂へと一歩、また一歩と登る度に、天国への扉に近づいているような、手を伸ばせば触れられるような錯覚を感じた。

いよいよ高山病の幻覚か?
ふとスマートウォッチを見ると高度は5,600mを超えていた。

最後の力を振り絞って岩山を這うように登る。

強風に吹き飛ばされそうだ。
何故か目から涙が溢れ出る。

着いた、カラパタール山頂。
対面にはエベレストがはっきり見える。

カラパタール山頂

ジリと言う街から歩き始めて14日目。
既に総歩行距離は150kmを超えていた。


無事にカラパタールから下山し、ゴラクシェブの宿に戻ると、既に食堂には大勢のトレッカーが集まっていた。

部屋に暖房設備はない。皆寒いのだ。

唯一の暖房設備である食堂の暖炉を囲って、世界各国からのトレッカーが談笑する。

完全なる僕の主観だが、陽気に誰にでも話しかけているアメリカ人。

英語が苦手なのか、グループでモゾモゾやってるドイツ人。

この情勢下で何故ここに居るイスラエル人グループ。

小声でポツリポツリと話しかけてくるポーランド人。

リトアニアからの親子は、息子からリタイア記念にこの旅をプレゼントして貰ったと嬉しそうだ。

誰かが言った、今夜は更に風が強まり、気温はマイナス17℃になるらしいと。

宿の主人が暖炉にヤクの糞を焚べてくれた。
この高地ではヤクは尊い生き物だ。日常は重量物の運搬を担い、ヤクチーズにヤクステーキにも利用され、糞は暖炉の燃料となる。
特に異臭も出さず、驚くほど僕らの身体を暖めてくれる。
木など一本も生えないこの地では、ヤク無しには生きられない。

ヤクたち



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