【story】『蓮華が風にゆれていた頃②』
『さあ、出発よ!と、強く思ってごらん。それが出発の合図だよ。』
と、チェンジがワクワクした声で言ったから…
私もワクワクして…
さあ、出発よ!と、心で叫んでみた。
すると、ベットは、飛行機みたいに部屋の窓をぬけ…
家の庭を抜け…ずんずん高く高く昇り…飛行し始めた!
あっ…うちの屋根が見えるわ…だんだんと小さくなっていくわ…
へぇ…私の家って上から見るとこんな風だったのね。
あっ、あそこに…隣の家でいつも吠えている犬のチョコも見えるわ。
声は、いつも聞こえていたけど…姿を見たのは初めて…
こんにちは!チョコちゃん!!
そんな風に町を楽しく眺めていると段々と風が強くなってきた。
振り落とされはしないかしら…と、ちょっと心配になっていると…
チェンジは、それもまたまたわかったらしく…
『大丈夫!何か素敵な事の前には・・ちょっとした勇気が必要なだけさ。
さあ、少し揺れるけど・・私は大丈夫!私は絶対に行きたいところに行ける!と、強く思っていてね。』
と、言った。
私は、何回も、何回も心の中で唱えるように強く思った。
…私は絶対に大丈夫!私は絶対に行きたいところに行ける!
すると…
『ほら・・見えてきたよ。あれが・・君が行きたい場所だね。』
そう言って、チェンジが遠くを指差した。
遠くてまだそれがどんな場所なのかよくわからない…
『もうすぐだよ!さあ、もう一度・・強く強く心で思うんだ!』
そう言われて…私はさらに力を込めて…
私は絶対に大丈夫!私は絶対に行きたいところに行ける!と心で思っていると…
『さあ・・到着!
君の行きたい場所に、君の心が連れて来てくれたよ。
さあ、ここは君の・・君だけの場所だよ。』
そう言って、チェンジはニコニコして私をみつめ・・
そして、目の前に広がる風景を・・差し出すように・・
『どうぞ!』
と言いながら、おしゃれに手を広げてみせた。
あっ!ここ…私の一番大好きなあの場所だわ!
風も、においも、優しい笑顔の蓮華の花たちも…あの時と同じ……歌っている。
遠くに見える山々も…お日様に照らされて、ちょっぴりお化粧した時みたいに恥ずかしそうに輝いている。
こんなに、変わらないで…ここに…あの時の、あのままで…ずっといてくれたのね。
私は、そんな事を思いながら景色を見ていると…心がキュンとなって…
何か言葉をチェンジに伝えたくなった。
こんな時って、何て言えばいいんだろう?
でも、私は声が出せないから…きっと伝えたい言葉がみつかっても伝えられないわよね。
そんな風に思っていると…チェンジがちょっと…エヘンと咳ばらいをしてから言った…
『大丈夫!君の言葉は必ず伝わる!言葉は、声が伝えるとは限らないよ。
自分が伝わると信じてさえいれば、君の言葉はきっと相手に伝わるよ。』
信じればいいの?でも、なんて伝えたいのかな?
…なんだかずいぶんと昔に使ったきり、あまり使ってこなかった言葉のような気がする…
『大丈夫!きっとみつかるさ!慌てないで・・ゆっくりと・・みつけてごらん。』
その時…蓮華の花が優しい、甘い香りを運んでくれた。
その香は…まっすぐに私の鼻にやってきて…クーンと体の中にも入ってきた…
私の全部が甘い…優しい香でいっぱいになった。
そして、その香が心にも染み込んできた。
すると…そうだ!みつかった!私が伝えたい言葉が…
私が伝えたい言葉は…
ありがとう!ありがとうよ!!
チェンジさん…ありがとう!
輝く山々…ありがとう!
優しい風…ありがとう!
温かな太陽…ありがとう!
そして…蓮華さん達…ありがとう!
素敵な歌を…ありがとう!
みんな…みんな…ありがとう!
いっぱい…いっぱい…ありがとう!
そう、心で強く思っていると…
みんなが一斉に答えてくれた…
“どういたしまして!!!”
私の言葉が伝わった!
そして、チェンジがいつもよりゆっくり言った…
『君が思うことは、なんでも出来る!
心で強く思いさえすれば・・
いつでも・・
だって・・
君の力は・・
無限だから・・・。』
そう、チェンジが言った時、強い風が吹いて来た!!
(つづく)
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