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同級生の女の子と再会した時の話

社会に出てしまった今でも度々思い出す瞬間がある。中学受験塾で同じクラスだったある女の子と、卒業後しばらく経った日に電車で再会した、その一瞬の出来事である。

今となっては本当に何にもならない事なのだが、僕は塾では客観的に見て優等生だった。塾の各校の優秀者が集まる選抜クラスのようなものに参加させて貰っていた記憶がある。今思えば、講師陣からもかなり期待されていたと思う。勉強する事に対してしはあまり、というより全く真面目ではなかったが、幼いながらもそれなりに自信だけは持っていた。

ところが、受験結果はあまり振るわず、最終的にはまあまあの所になんとか補欠で合格した。先程も述べた通り、僕は勉強する事に対して全くもって真面目ではなかったため、入学先では直ぐに落ちこぼれてしまった。「a≠0」という板書を見て、「aキロってどういう意味?」と前の席のクラスメイトに聞いて、ドン引きされた事もあった。そんなこんなで、新しいクラスでは数ヶ月も経たない内に"イジられキャラ"となっていた。

ある日の学校からの帰り際の電車内で、いつものように友人達からイジられていると、見慣れない制服姿の女の子と目が合った。塾で同じクラスだったあの子だ、と直ぐに気が付いた。彼女が、電車内でイジられている僕をずっと見ていたのだと分かった。

恥ずかしいな、と思った。その子の前では頭の良い出来るやつだったのに、今では周りから馬鹿呼ばわりされて笑われている。とても見られたい姿ではない。"イジられキャラ"の自分にも自尊心のようなものはあった。

幸か不幸か、目が合ったちょうどそのタイミングで、その子が降りる駅に着いてしまったため、言葉を交わせる時間はごく僅かだった。僕が「あれ、お前……」と言うと、彼女は何も言わず、ただクスクスと笑って降りていった。そんな彼女を見ながら僕は、そういえば塾でもよく同じように笑っていたな、とぼんやりと思っていた。

普段は人の事を「お前」などと呼ぶ事はなかったが、あまりに突然だった事による純粋な驚きと、それ以上に見られたくない姿を見られてしまったという気恥ずかしさから、そんな言葉が出てしまったのだと思う。そんな僕を見て、彼女はどう思っただろうか。今となっては、知る由もない。

友人達はというと、そんな一瞬の出来事に気付く事はなく、僕がまた何かのボケをかましたのだと思って笑っていた。僕も直ぐ、周りに合わせて笑い始めた。とにかくこの気恥ずかしさを誤魔化したかった。

その子とはそれきり会う事はなかった。

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