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蝶のように舞えない 16話


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 夜、男――狭野の青ざめた顔を見た時、あるいは先週は来なかったということから、和泉には予感があった。

 だから、男の顔に両手で触れる。今までにしたことがないほど優しく。
 そしてささやく。

「しばらくいらっしゃいませんでしたね」

 狭野は目を閉じた。そこには苦悩がある。
 刃物が出てくるかもしれないと、和泉は考えた。そうだとしても仕方あるまい。

 男から手を離して、ベッドに腰掛けた。ここで和泉は眠っているが、シーツだけ替えて診察台としても使う。

 背の高い狭野は、和泉を見下ろして何かを考えている。その目は冷たいが、湿度がある。情か欲かは知らないが、そういえば情欲という言葉がある。両立するものらしい。

「別れ話を?」

 和泉が冗談を言うと、狭野はようやく口を開いた。

「付き合っていたんですか。知りませんでした」

 相変わらず低い美声で、なめらかに響く。声だけ聞いていれば動揺は感じない。

「最後に抱いて行きますか? いらっしゃるとしても明日、水曜かと思っていたので、今日はまだ入浴していないんですが」
「やめてください」

 男は患者用の丸椅子に座った。和泉の隣ではなく。
 少し飲酒をしているようだった。顔にはまったく出ておらず、匂いだけがする。

「先生、あなたは――あなたっていう女は」
「西帝さんのお加減はいかがですか? お薬は足りていますか」
「あなたからもらった薬なんか飲ませられない」

 和泉は心を痛める。では、彼は頭痛をこらえているのか。

 男は眉をしかめた。彫りの深い顔立ちであるから、それだけで恐ろしい顔となる。

「なんで俺を騙しておいて、西帝を心配できるんですか? あなたの心っていうのはどうなっているんですか」
「おかしいでしょうか? あなたのお父様は西帝さんの目を視えないようにして、それでも西帝さんを愛していらっしゃると思いますが」
「うるさい!」

 ここで暴力が出てこないのならば、このあとも出てくることはないだろう。和泉は男の甘さを思う。

「私に愛など語られたくありませんか」
「僕、と言っていませんでしたか。自分のことを」
「どちらも使います。それが何か? 僕の心が離れたと感じますか」
「離れていなかったことなんてないくせに」
「寄り添おうと思っていました。だから身体を。あなたが限界なのかと思ったから」

 男は首を横に振って、片手で自分の顔を覆った。

「どういう方なんですか、先生。あなたは」
「繕っていないほうだと思います。基本的には思ったことを話していますよ」
「そこが怖い」

 そう言われることはある。色舞――兄弟子の娘からも嫌われている。兄弟子は和泉の心のすがたを許してくれた。姉弟子もだ。

 和泉には他者の心の、特に、柔らかい部分を理解することができないらしい。理屈はわかる。納得が伴わない。

 男が憤り、悲しんでいることはわかる。そのことを哀れに思う。それが男の気に障るという、そこはよくわからなかった。

「僕を憎んでいますか?」
「憎むほど親しくなかった」
「そうですね。僕は今週、少し寂しいと感じていました。前の水曜、あなたがいらっしゃらなかったので」
「なんでそういうことを――いや、いい。来ましたよ。先週も」
「そうでしたか」

 千里眼ではなく、その耳で聞いただけか。

 和泉は立ち上がった。男の背後に回り、そっと頭を抱く。

「傷つけてしまいましたか。あなたの心か、誇りを」

 不思議なもので、こうして胸に抱いていると、この男のことを愛しているような気になる。だから和泉も悲しくなる。

「すみません。心の冷たい女で」
「あなたのことじゃない……」

 男はうめくように言った。

「また姉が正しかったということがきついだけです。俺はあの女に、ずっと操られて生きるしかないのか」
「そのことがつらい?」
「わかりません。姉が笑っている時だけ幸せだと思う気もする。これは俺の心なのか? 姉に操られて、電流を流されてるだけなのか」

 症例のほうだと和泉は感じる。だが、精神科医ではない。

 それに和泉の知る範囲でさえも、狭野の姉は、おそらく弟を愛している。父親がそうであるように。狭野が弟を愛しているように。この男の血族には絆がある。それが引っ張る歪みも。

 黙って男の頭を抱き続ける。

「俺はあなたを守ろうと思ったけど、マッチポンプですね。俺のせいであなたが危ないだけだ。もう来ません。それでも、あなたが長老の肩を持っていることを姉はおもしろく思っていません。どうにかなりませんか」
「どうにかとは? 捨てろということですか」
「できませんか」
「わかるでしょう、あなたなら」

 男は和泉の手を振り払った。
 見上げてくる。その冷たい眼差しは父親や姉によく似ていた。弟の目はもう強い光を宿しはしないが、やはりこうして見ると血を感じる。

「俺たちはこの狭い世界で生きるしかないのに、老爺ひとりを諦めることもできないんですか? 見かけが美しいからですか」
「優しくしてもらったからです」

 男の目を見つめ返す。

「当時、僕のような者は蔑まれていました。酷いこともされました。あなたも知っているはずです。あなたは僕より年が上なのですから」
「差別があったことは――覚えてます」
「父親はそばにおらず、男たちの気が向けば服を脱がされて、胸がふくらんでからはそれ以上のことも。長老は知らないかもしれません。でも、見えるところに怪我をすれば怒って、犯人に罰を与えてくれた。そして、師と兄弟子が知って助けてくれた。覚えていますか、僕の師のことを。あなたのお父様に足を刻まれた、祝詞という名の男ですが」

 男は苦痛をこらえるように目を細めた。

「俺じゃない。俺は親父とは違う」
「わかっています。ああ、責めていません――右の足首を斬られた時点で考えを改めず、左まで失っても改めず、膝を斬られて失血死するまで改めなかった、師が悪いんです」

 師の高潔さを和泉は尊敬しているが、いくらか恨みにも思っている。己の思想にのみ殉じ、泣く姉弟子のことも、説く兄弟子のことも選ばなかった。姉弟子は、此紀はそのせいで長く塞いだからだ。

 和泉は師に何も通じぬことがわかっていたから、ただ黙って、死にゆく師の頭を抱いていた。先ほど、目の前の男にそうしたように。

「そんな境遇から守ってくれた者を捨てられないという、そのことはわかるでしょう。そう言いたいだけです。姉弟子は亡くなって、兄弟子には家族があります。僕は長老を選びます」

 僕は師とは違う、とは言わなかった。意趣返しに聞こえると思ったからだ。

 男は和泉を見るのをやめ、正面を向いた。背後に立つ和泉からは顔が見えなくなる。ハイネックのセーターの首が、爪に力を込めれば切り裂くことのできる場所にある。

 この期に及んで和泉を信じているのだろうか。そのことを不思議に思う。

 この首を斬り、返す刀で皇ギの首を斬り、その父親と刺し違えることが和泉にならばできる。

 和泉にとっては、皇ギは数に入らぬようなものだ。
 二人いるのに一太刀しか浴びせられない・・・・・・・・・・・・・・・・・・ということが状況を膠着させているのだ。和泉には一太刀のボーナスが今、目の前にある。あと一太刀は和泉の命と交換で、ちょうど足りる。無料の命が対価に化けるのだ。

 和泉が武力に訴えないのは、同胞の命を救うためならばと金を出してもらって医大を出たからだ。現長老が採決したその予算案を、裏切る気にはならないだけだ。

 壁時計を見ると、まだ火曜であった。数時間で水曜になる。そのとき自分の気が変わることがないように、そして東雲に手を出すことを考えようと、和泉は祈りと計画を同時に行った。




 揺り椅子に腰掛け、小さな声で歌っていた万羽は、茶を運んできた沙羅を見ると表情を曇らせた。

「どうしたの? 顔色が悪いわ」
「少し血が足りないだけだ。減量をしているから」

 ぬるく淹れてある紅茶のマグカップを手渡した。
 万羽は沙羅の淹れる茶しか飲まないらしい。何度か薬を盛られたから嫌だと、当たり前のことを言う。

 なぜ自分の茶は飲むのかと、カップに口をつけるその姿を眺めながら、沙羅はそばに座って自分も茶を飲みながら考えた。

 沙羅も万羽に薬を飲ませることがある。そうとは伝えずにだ。そのことに気付いていないとも思えない。

「ダイエットなんかしなくていいわよ。痩せたって誰に見せるの。免許も取られてるのに」
「お前がそんなことを言うのか?」

 同じく免許証を没収され、沙羅の付き添い――そしてさらに運転手がいなければ、どこへも行けない身であるのに、万羽はきちんと化粧をして、美しい服を着ている。今日は明るい灰色のツーピースだ。四つ葉を模した耳飾り。色とりどりの小さな石が並んだ指輪も嵌めている。

 ため息が出るばかりに美しい女である。月の明かりに照らされて、その姿は彫刻のようだ。

「歌は? もう歌わないのか」
「うふふ」

 聞かれていたことを照れるように微笑んで、万羽は両手でカップを包んだ。

「あたしのお父さんが歌ってくれた歌なのよ。下手だから、こっそり。最近調べたら、記憶とぜんぜん違うリズムだったの。あたしの記憶力が悪いのかしら? すごく音痴だったのかしら」

 後者であろう。万羽の記憶力が悪かったことなどない。強い鎮静剤を飲ませた時を除いて、この女の頭脳は明晰であるはずだ。

 たびたび耳にするその歌の、歌詞を思い起こす。

「世界は苦しみに満ちている、だからわたしの膝にいなさい、その時だけが安らぎだ、か」

 万羽は大きな目をますます見開いた。

「そんなこと言ってないわよ!」
「え? そうか」
「そんな翻訳しないでよー」

 確かに多少ロックに寄った訳ではあると思うが、大意は間違ってはいないはずだ。

「世界にはこわいこともある でもだいじょうぶ ここで眠りなさい この時間は安らいで」

 万羽は見事な符割りで日本語訳を歌った。

「っていう歌よ。どこから脅迫のニュアンスを取ったのよう」
「脅迫? そんなつもりはなかった。どうも私にはセンスがないのだな。かわいらしいアクセサリーも買えないし、歌も恐ろしく訳してしまう」
「そういうことがあるのね。優しい気持ちで歌っても、脅迫になるっていう」
「夜道に気をつけろ、というような」
「そういうことよね? 世界はこわい、夜道は暗い。それを脅しだと取ることもあるのね」

 そしてそれは、聞く者の心を反映する。後ろ暗さや危機意識、相手に憎まれているのではという恐れ。

「悲しいことだわ」

 このところ憑き物が落ちたように――と表現してしまうと万羽の服喪を悪く言うことになるか――穏やかになった万羽は、そうつぶやいて茶を飲んだ。

「ラブミーフォーエバーとか言わないと愛は伝わらないの?」
「それは求愛だから、愛というよりは必死さが伝わる気がするが……これも私の訳は悪すぎるか。愛してほしいと言っている時点で、愛しているのだろうし」
「愛してるの?」

 優しい声で万羽は問うてきた。
 沙羅は庭を眺めながら答える。

「違うのかもしれない。私の心が弱くて、強い者に惹かれているだけなのかもしれない。私を支配する者に」
「あたしはどうせ、もう幽霊なんだから――」

 継承権を剥奪されていることを、万羽は時々そう言い現わした。

「取ってもいいのよ。あんたを苦しめるものを」
「そういうことを繰り返して、今だろう。より大きな苦しみが生まれることは見えている。このまえ、お前がそう言ったのだろう」
「ニュアンスが違うわ。刹那の死を願うことはやめてって言ったの。豪礼は死んだ方がいいじゃない」

 優しい声のままそう言って、万羽も庭を見ている。

「あたしの友達の友達だから、許してたのよ。でもあたしとお父さんに毒を盛って、あんたを苦しめて、刹那のことだって」
「だから、できるとしても、もう遅いだろう」

 万羽の体調には波がある。刹那の意識にもだ。沙羅の気力は折られて、もはや政権としての体力がない。

 神輿として担ぐならば典雅だが、守るものの多いあの男は、遺恨を持たれることを良しとすまい。

 もしも首尾よく、王と宰相と近衛兵を取れたとして、盲目の美少年が遺恨となりうる。だが沙羅を含め、その芽を取り去りたいと思う者はいないはずだ。あの親子は絡み合って、それぞれがネックとなっている。ネック、首だ。四つの首を持つ、一匹の大蛇なのだろう。

「お前に自由を与えてやりたいと思うが、西帝を悲しませることもしたくない。私は何もできない女なのだな」
「死んだ者は悲しまないわ」

 万羽には独自の死生観がある。沙羅はそのことを近頃知った。

「だから……西帝を死なせてもいいと?」
「あたしは嫌よ、目の視えない若い男を殺すなんて。でも、それはあたしが嫌なだけ。西帝が悲しむからじゃない。言ってることわかる?」
「私の覚悟の話か?」
「指針を決めておかないと、いつだって、あんたよりも強い指針の持ち主に振り回されるわよってこと。そもそもあんたは幽霊が怖いんでしょ。だから幽霊を増やしたくないんでしょ」

 そうだ。沙羅は死者が怖い。死者への罪悪感が、自分を呪うだろうということがわかっている。
 万羽の父親のことも救えなかった。あの男の姿をよく幻視する。沙羅を憎みはしない、だが万羽のことは守れとささやく。沙羅はその幽霊に応えなければ、取り殺されるだろう。

 自分の心が生み出す幻で、死者への侮辱だ。万羽の言う通り、死者は悲しまないし恨むこともない。安らかな眠りに、沙羅は勝手に怨念を見出す。それが幽霊、それが呪いというものだ。だから祓えないし解くこともできない。

「お前はどうしたい?」
「あたしは買い物に行きたいわ。新しいパレットが欲しいの。でも四人を取るほど欲しいわけじゃないわ。トロッコ問題、あんたなら知ってるでしょ。四人は多いわよね、ちょっと」
「もう片方のレールには何人いるのだろう」
「刹那がいるから、和泉が切り替えようか迷ってるんでしょ。でも医者には切り替えられない。トリアージは数を救うために行われるから」
「刹那の死は私に利さないらしい」

 万羽はゆっくりと沙羅を振り向いた。静かな表情だ。幽霊とは思えぬ、理知を感じさせる顔。

「伝聞ね。誰から言われたの?」
「西帝だ。逆のレールに乗るうちのひとり」
「牽制? 親切? 千里眼?」
「わからない。私が刹那を轢こうとしていることを見抜かれたのだとは思う。私は西帝の助言に報いたい。西帝のことも、彼がアドバイスしてくれたように、刹那のことも轢きたくはない」
「じゃあ、新しくレールを敷くしかないわね。できる?」

 沙羅は部屋の奥、暗いその隅を見た。

 弥風が立っている。彼が自分の足で立つことが出来たのは、死より八年も前のことだ。幽霊なのに足がある。沙羅の古い記憶を投射しているからだ。

 この幽霊にも報いなければならないと、思う。

「私には知恵も勇気もない。愛もおそらく知らないのだろう。時も、もう遅いのかもしれない。けれど」

 沙羅を愛してくれる者が誰なのか、そのことはわかる。

「お前と、東雲と、右近と。そして幽霊たちに報いよう。私には愛のことがよくわからないらしい。だから愛ではなく、下手な交渉でだ」

 知恵でも勇気でも、武力でも勝つことはできない。

 万羽は少し悲しそうな顔をした。

「依存すると、それを取られた時点で立てなくなるわ」
「杖ということだな。わかっている。だから自分の足でここまで来た。依存ではなく、この身を投じよう。どうせ切られる足だ。どうせもう立てない」
「右近を担ぐの?」
「私にその力はない。お前のことを庇護してもらう。私の命を質草にして、復讐の約束を買う」

 見せるだけの武器だ。発射してしまえば焼け野原となる。
 皇ギもその父親も、そのことは望むまい。

 万羽は首を横に振った。

「右近はあんたの命なんて欲しがらないわ。復讐だってしないわよ」
「東雲を人質に取る」
「どうしてそんなに翻訳が下手なの」

 柔らかく甘い、年長の女の声が沙羅を叱る。

「東雲を守る代わりに、あたしの後ろ盾を頼もうっていうことでしょ? 東雲とあたしのことを守って、あんたが皇ギから嫌われるから、右近の旗印で体制から独立したいっていうことでしょう。あたしに自由を戻すために」
「間違っているか」
「あんたならわかるでしょ? 求められるわ。けじめを」
「私の足で支払う。トラディショナルなやり方だ。あの女は好む」
「あたしたちは誰もそれを望まないわ」
「私はそのことを理解しているのだが、なぜかな、どうでもいいと思ってしまう瞬間がある。自分でも支離滅裂だと感じるのだが」

 万羽は音もなく立ち上がり、カップを椅子に置くと、沙羅の隣に座って身を寄せてきた。綿菓子のような香水の匂いがする。
 美しい指先で沙羅の額にそっと触れた。

「――薬を飲まされてるのね」
「やはり、そうかな。蛇口から出る井戸水に?」
「そんなわけないでしょ、全員が使うんだから。覚えはないの?」

 沙羅はカップを畳の上に置いた。

 食中毒に罹った時は、最初に思い浮かぶ食物が原因である、と古い時代は言われていた。シンプルな因果だ。心当たりの一語で表現できる。

「蘭香の菓子か。だから――味が変なのか」

 万羽は沙羅をぎゅっと抱き締めてきた。その体温のあたたかさ。

「蘭香なら大丈夫よ。そんなに悪い薬は使わない。でも、これからは気を付けて」
「西帝からも痛み止めをもらって飲んでしまった。それも、かなり強いものを」
「気を付けて」
「私の意志というのはどれだ? 心とは何なのだ。どうすればいい?」
「右近に守ってもらうのはいいと思うわ。でも、あたしのことは心配しなくていいのよ。誰かが車を出してくれたら買い物にも行けるし。――歌はあんたのために歌ってるの。世界は恐ろしいわ。でも、味方よ」

 万羽はずっと従者を取っていない。親の介護で手一杯であったからだ。

 沙羅の身体をそっと離して、万羽は立ち上がった。

「あたしは権力なんかいらないの。化粧品のパレットと、あのピアスが欲しかっただけ。鏡を見たら寂しくなくなるように」

 その耳飾りが万羽のものになることはない。

 沙羅は涙をこぼしながら答えた。

「それほどに欲しかったのだな。すまない。力になれず、お前を責めるようなことまで」
「もういいの。喪は明けたし、色舞はちゃんとあれを着けてるから。調合してるのは、あんたの師よ」
「お師さまが? 何を」
「刹那ができないんなら、克己しかいないのよ」

 薬はあの金髪の女が。

 毒は、沙羅の師が。

 万羽は月の光を受けながら、そう言った。



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