西帝の 川上亮『人狼ゲーム』紹介
西帝です
どうも、ウエストエンペラー(※ハンドルネーム)です。
これは前にもちょっと話した、『人狼ゲーム』シリーズの、ノベライズ版(小説版)についての紹介記事です。
最新作『デスゲームの運営人』が良かったのと、現在は全作がKindle Unlimitedの対象作品となっているため、勧めるなら今かと思って。
映画版やコミカライズ版についても、軽く触れます。
ネタバレはありません。最下部にだけちょっと置いておきます。
1作目から順に紹介していきますが、それぞれの話は完全に独立しているので、気になったものから読む形で大丈夫です。
『人狼ゲーム』
1作目。これは正直に言うと、さほど期待せずに読んだら意外とよかったという読み口でした。人狼ものって、クオリティがまちまちなので……。
映画のほうにも完全に同じ感触を得たのですが(そちらもおすすめです)、それぞれ違う良さがある。
文章が非常にあっさりしていて、読みやすい。少年少女がたくさん出てくるのに、誰が誰なのかきちんとわかる。ストレスなくサラッと入ってきます。
こういうノベライズって、無名に近い新人が起用されるイメージが(なんとなく)あったんですが、こんなに手堅い文章を繰り出してくるんだ……とちょっと驚きました。
「よーし、人狼ものか! 張り切って綿密な推理をするぜ!」と挑むと、「思ってたのと違うな」という感じになってしまうかと思うんですが(ルールや進行に不明瞭/不自然な点があるので)、ひとまずは「デスゲームもの」として入ってみることをお勧めします。
こんなに空気の静かなデスゲームものあるんだ、というのが映画版とノベライズ版に共通する感想です。こういうの好きだな~。
『ビーストサイド』
2作目、『ビーストサイド』のタイトル通り、人狼視点です。
主人公が中二病に寄っているので、前作よりも人を選ぶかもしれません。
ゲームの展開も、人狼経験者は「ん?」となる。
しかし相変わらず、デスゲームものとして独自の空気感があります。映画版もよかった。
「映画版にあり、ノベライズ版にはないシーン」に注目すると、映画版における、ある人物の言動が、どういった動機によるものなのかもハッキリしてきます(※ネクストコナンズヒント「罪悪感」)。
いや、映画版だけでも汲み取れますけど、「あそこが不自然だ」というレビューをたくさん見たので……。不自然なことないですよ。
クレイジー(ライクア)フォックス
3作目『クレイジーフォックス』、キツネ参戦です。
主人公が「メンのヘルスがあまり良好ではないガール」であるため、前作よりもとっつきにくさは上がってしまいました。
しかし、前作までは弱かった「推理」の要素を、ちょっと変わった面から補強してきた意欲作。
いきなりここから入るのはおすすめしませんが、3作目として考えると、こういうアプローチもありだなという感じ。
『クレイジーフォックス』については、コミカライズ版が一番よかった!↓
コミカライズ版は「耽美」に寄せていて、映画ともノベライズとも違う読み口になっています。その中でも、クレイジーフォックスはよかったなー。
プリズン・ブレイク
4作目『ブリズンブレイク』、これ面白かった!
タイトルの通り、プリズンをブレイクしようとする回なので、人狼はちょっと脇に置いている感じはあるのですが、それでも面白い。
登場人物の内面が妙に複雑でリアルになる。おそらく、人狼をあまり知らずおっかなびっくりだった(と、実際に後書きでも記述している)作者が、シリーズを重ねたことで流れをつかんで、作家としての本領を発揮してきたんじゃないかなあ?
とても細かいところに良さが宿っている。冷蔵庫に入っているプリン、いわゆるプッチンプリンみたいなやつを、主人公が「ゼラチンで固めた偽物のプリンだ」「体に悪いかな」とモノローグで評価していて、なんかすごくグッと来ました。偽物て。
プリンの描写しかり、「人が作った状況」「運営しているやつがいる」という側面がフォーカスされてきました。
『ラヴァーズ』
5作目『ラヴァーズ』。恋人陣営入りです。
すごく面白かった! 前作から引き続き、「運営している者がいる」というところが強めに描写されます。
シリーズ中、もっとも好感の持てる主人公だと思います。そういえば歴代の主人公は、全員が女性ですね。
人狼のルールをなんとなく知っていれば、ここから入るのもアリかもしれません。俺は『ラヴァーズ』が一番好きです。おすすめ。
『マッドランド』
6作目、『マッドランド』は狂人村です。
人狼、予言者(占い師)、用心棒(狩人/騎士)以外は全員が狂人。
要するに、「村人」と「狂人」が反転しているんですね。人狼陣営が予言者と用心棒を探して駆除するゲームです。
これは映画版がとてもよかったです。ノベライズ版は、あくまでも忠実な文章化という感じで、うーん……(ノベライズ版が先に作られたのかもしれませんが)。
狂人村において、「人狼」は他人の生死を決める絶対権力者。つまり「噛まれない共有者」なので、ウルトラエンペラーです。その権力を手にした者が、凶暴性を全開にする様がエグく、同時に冴え冴えとしています。映画版は俳優の力もあり、見ちゃいけないもの見てる感ありました。↓
…………。
このあと挟まる『LOST EDEN』『INFERNO』は著者が変わっており、読んで「……これはいいや」と判断したのでリンクを作りません。
『デスゲームの運営人』
著者が川上氏に戻りました。やったー!
そしてすげーよかった。
ネタバレをしたくないので、あんまり語りませんが、読後に軽くファー……とするくらいよかったです。
なんも言ってないな。
以上です
良くも悪くも、あまり「人狼もの」と構えて入らないほうがいいかも。
ライトミステリとして面白いです。
『プリズンブレイク』『ラヴァーズ』『デスゲームの運営人』が特におすすめ。
ここからは全作のちょっとしたネタバレ感想です
シリーズに一貫している「あまり多くを語らない」というストロングさ、いいですねえ。俺は好きです。
原則として、配役一覧が明かされないというのが渋い。
『ビーストサイド』の相方共有は誰だったのか? 『クレイジーフォックス』で潜伏したまま死んだ霊媒は?
これらは明かされない。なぜなら「別に明かされなくてもいい情報だから」です。潜伏死した霊が誰であろうが、それはただの「しってても しらなくても どっちでもE~ こばなし」レベルの設定にすぎません。
俺たちが「面白かった。でももうちょっと親切に掘り下げてくれたらもっと……」と出すスケベ心を、いっさいケアしないのが、このシリーズの硬派な読後感を作っていますね。
『デスゲームの運営人』がその真骨頂だな~! とファーしました。もっと語ってほしい。でも語られない。
それでいい。このシリーズは、その淡泊さが心地いいんです。
作者、やっぱり新人じゃないですね。別名義でかなり書いている。読もうっと。
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