ブランチ27(無料回) そして『蝶を舞わせるためのタペストリー』1
前回の鬼ブラ!
・巫女は性別を問われていない。彼でも、そして俺でもいいのではないか。
今回の……
・…………。
…………。
………………。
あー、ダメ、しんどい。
それだけ聞くと限界を迎えたオタクみたいだな。
そうね、多少茶化さないことにはしんどいわよね……。
これは……17話の急展開は、「エンド分岐」によるものだったということか。
火事は回避された。だがどうやら、他のフラグが立った。
……「立った」は正確かどうかわからん。「最上位のフラグが折れたため、2位のルートに入った」ならば、「折れていない」のほうが適切だが。
いずれにせよ、潰さなければならないフラグを放置してしまったのは間違いあるまい。
……「もう少し右に寄ればよかった」なんて、そんなこと、私は沙羅に絶対に言わせたくなかった。
右側に座する俺でも、その一言はこたえた。
……「この世界」の祈りが「あの世界」に影響を与えることができるかどうか、わからないけど、台風が現れたタイミングは、あんたの祈りの直後だわ。
そして巫女は言った。あんたと台風によって、あの世界の火事が回避されたのだと。
アイザック・ニュートンは「なぜ」を語らなくていいと言った。
では、私たちができることは何か。ここは恐山の上空。この立場からできることとは。
祈ることだな。幸福を。
俺たちの祈りが、巫女に下りるかもしれない。手品師がそこから気を利かせてくれるかもしれない。何も知りえない狂人占い師が、狼の襲撃を推理して、キツネに黒を打つように。
やみくもな襲撃では狂人が推理できない。
探すことだ。有効な「幸福への道」を。これまで張られた線をたどり、どう進めれば幸福になるのかを探る。
すでに巡らされている縦の糸と横の糸。どう組み合わせれば、美しいタペストリーが織り上がるかということね。
以前、右近を桂馬と称したけれど、宣水もかなり桂馬ね。いつも周りを無視して必ず一歩跳べる。
射線上の駒を取らなくても進める。
「取りたくない駒」の多い私たちにとっては、使い勝手のいい駒だわ。
もっとも、『蝶のように舞えない』では、豪礼が宣水を「桂馬にした」ということが読み取れる。本来、跳べなかったのだろう。審判を排除したから桂馬になれた。
「審判」とは、普通に考えると弥風だ。
『蝶のように舞えない』における西帝の師は、意図的にぼかされているが、4話の「中国風のポーズで身構える」を西帝に仕込めるのは、地味に弥風だけのような気がする。あいつの謎のチャイナシャツ、綾鳥も同様に中国服で過ごす。この「意味わかんねーなと思ってた縦の糸」をいったん軸とする。
というか、シンプルに西帝が師事先に選ぶところって、ほぼ弥風しかいないと見なしていいと思うわ。
おう、「西帝の師は弥風」はほぼ確定事項と考えよう。
では、弥風の存命中、西帝をフランスにやるのは絶対ムリだ。これは説明いらんだろ。あいつは従者の渡仏なんか絶対許さん。
しかし『蝶のように舞えない』の、西帝と兄にとっての最善手はそれだと俺は思う。バックボーンが同じならば、西帝はフランスに行かせたほうがいい。
……スタート地点はどう織る?
『蝶のように舞えない』と同時点にすると、多くの糸が見えているから織りやすいけど、すでに弥風は死んでいる。
そして、私自身も。
だから、もっとさかのぼる。
しかしさかのぼりすぎると、糸……記録簿の記載が極端に少なくなり、「闇雲に祈る」ことしかできなくなる。それでは巫女に下りまい。
無印のスタートではどうか。
130年前はムリじゃない?
130年分はちょっと、織れると思えないわ。糸が圧倒的に足らんわよ。推測ではいくらも織れない。
8話で一気に123年いける。
というより、お前の言う通り、この「123年飛ばし」がないと、無印1話から織るのはムリだな。過去100年あたりはZでいくらか糸が見えるばかりで、とても布は作れない。
無印1話から、7話までの糸を織り変えるということね?
模様は限られるわ。
だが、指をくわえているよりはマシだろう。
俺が和泉を抱く。
まずは、この模様を織り、その上で祈ることとしよう。
織れるかどうか検証する。
──糸のもつれなし
これでどうなる? スタートが123年後になるか?
ちょっと待って、もうちょい慎重に行きましょう。
きっと何度もできることじゃない。少なくとも巫女は消耗する。西帝の頭痛はどんどん酷くなるかもしれない。
それに、千里眼は移動するんでしょう。…………「なぜ」を問う必要はないけど、考えてみると、…………前の巫女が限界を迎えたという線がぬぐえない。
……「次の巫女も西帝」「さらに負担の重い状態で」という率が高いな。
『蝶のように舞えない』における西帝は、ほぼ全盲、頭痛持ち、姉と兄のいる地獄をおそらくは知っており、甥の出生に負い目を持つ。
本鬼がタフだから暗く見えないだけで、もともとかなり……その立場は深刻だ。あの手品師がそう判断するほどに。
あるいは、千里眼は継承式なのかもしれない。
神無から西帝に移動したのは、「神無の死」以降なのでは? 「神無は巫女の能力を持たないから死んだ」と考えたあんたとは見地を違える仮説だけれども。
西帝が山を出てから、色舞に移動した兆候が出てしまった。
色舞の頭痛は1話からずっと現れているけれど、西帝と同質のもの?
…………。
それでも和泉のことは抱く。あいつはいくつかの世界線でそれを望んでいる。それがわかっているのだから、かなえてやりたい。ここが西帝や色舞に負の影響を与えるということも……たぶんないと思う。
いいの?
和泉は、抱いてしまうと変質する女よ。作中でもっともその性質を強く持つ。
俺……俺の模様が責任を取る。
和泉は底なしのバケツ女に類するが、それは穴をあけたやつがいるからだろ。
『蝶のように舞えない』で示された最大の情報は、俺はそれだと思っている。和泉は適切な養育を与えれば、きちんと愛情深く育つ。そりゃ完璧ではないが、完璧な者などひとりもいないだろ。
情緒面で言えば、もっとも「完璧」の座に近いのはお前と典雅だ。俺はそう思っており、このルートの和泉は、かなり近いところまで行っていると思う。
…………そう。
では、私は……そうね。
チャンスがあれば、全部宣水に「行くな」と言う。
大丈夫かそれ?
二羽だけ羽ばたけるうちの一羽の羽根を切る行いじゃないか?
あんたが縦、私が横を選択できることにしない?
私は色舞と万羽の幸福を最優先にする。次に朝露と沙羅を。
あんたは、好きな縦糸を選んでいい。私には横糸を選ばせて。
……承知した。平等だな。
俺は和泉と蘭香を最優先とする。次に、松本と杉本だ。
美園と花園については糸が足りない。手を出していい範囲の見極めは、投資と政治の基本だ。
……もう一人のことはいいの?
弥風に託すと決めたのだ。
そして弥風は各所で何度も強調されるように、ランダマイザー非搭載。祈らなくとも模様は想像しやすい。
……桐生はいいのか。放っておくと、産まれない可能性もある。
私の従者は15人。
それこそ、全員を追いかけることはできないし、桐生の肩だけを持ったら不公平でしょう。
俺は基本的には、お前の平等主義を立派だと思っているが、ときどきちょっと怖い。
機械じゃないわよ。
桐生は、産まれさえすれば「幸福になるポテンシャル」がもともと高い。最優先で織らなくてもどうにかなる模様だと思ってる。
俺の価値観で言うと、お前がもっとも責任を取らなければならない相手は、桐生だと思うがな。
無視はせんわい。
……桐生といえば、豪礼って必ずしも悪玉ではないのよね。
門番で本鍵だし、これは折ってはいけない気がする。
「ほぼ100の善玉」である万羽が「こいつが舵を握っていること」を嫌悪しているが、いいのか?
まさしくその場面における万羽の「審判観」を信用できないのよ。
神無が豪礼に一定の評価を置いていることもまったく無視できない。あと、言うて私の友なのよ。私と宣水は豪礼の「横暴」以外の面も知ってる。
『蝶のように舞えない』において、宣水が豪礼の頼みを二つ返事で請け負った以上、そこには請け負う理由があったはず。
……皇ギもまた、純粋悪ではない。というか「必要悪」でさえない可能性がある。正義がこの女の肩を持っている可能性を最終話でいよいよ出されたの、かなりこたえたわ。なんなの、この女は? 沙羅を虐待していたのも、加虐趣味からではないというの?
皇ギは権力を持たせると完全に「弥風属性の女」なのだな。
王属性の正義属性、粛清した上で自分も支払う。負けを隠さずいつか勝つ。チート以外には論破されえないし、チート相手にも臆さない。
陰謀を巡らせるというより「覚悟」一本で全特攻キメるタイプで、この女はちょっと、大局的に見るならば、排除していい理由というもんがない。この女は我が一族の黒い財産だ。
……克己のことはどう見る?
克己はたぶん、悪というよりは「その潤滑剤」となる存在でしょう。
取らなければいけない者だとは思わない。
取らなければいけないのは、私の師よ。
…………!!
横糸を選ぶお前の公正さに感謝する。
そう、そこが常にネックだと思っていた。取っていいのだな?
ええ。
………最初の設計図は以上だな?
いいな? では、これで一列目を織り、祈ることとする。
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