玉虫色の僕らの人生
人は一年もすれば簡単に変われる。
それを実証したのは他でも無い自分自身だ。
一年半前の私は、小売業界の某大手企業が展開した新規事業の一環に携わっていた。
と言うと聞こえはいいが、実態は『契約社員の受付事務』というポジションだ。正社員でも無い上、その類の専門分野に精通していると言うわけでも無かった。
目の前に突然現れた、新しいタスクを淡々とこなす日々。私がやりたかったことってこんなことだったっけ。掃除をして、日誌を書いて、メールの返信をして、お客様対応の合間に雑務をこなす。毎日同じことの繰り返し。
心が少しずつ死んでいくのがわかった。
このままじゃ死んだように生きて、生きた実感もなく死ぬ。
いつもと変わらぬ日々、同じ顔、同じ場所、同じ仕事。「今日の夜ご飯は何を作ろうか。」自分のためだけに作る料理にももうウンザリしていた。綺麗に盛り付けた曲げわっぱのお弁当箱のおかずを、苦手な上司や見知らぬ社員に褒められてもちっとも嬉しくなってない。
ふと、鏡に写る自分を見る。生気の無い表情、覇気のない身体、魚の鱗のような眼。
こんなはずじゃなかった。こんなことするために、東京に出てきたわけじゃない。やりたいこと、叶えたい夢、見たい世界があったから信号すらないあの街から飛び出してきた。
自分で決めて、上京し専門学校を卒業して社会人になった。新卒で入った会社は人間関係のストレスで体調を崩して、4ヶ月で辞めてしまったけれど。それでも東京でもう少しだけ頑張りたくて、自分へのわがままを押し通してこの地に踏みとどまった。
今動かなければ、一生変われない。
そしてその日から私の中の小さくなってしまった火の玉が、大きくメラメラと燃え上がっていったのだ。
私は変わった。
だけど、あなたも変わってしまった。
もしかしたら、もしかすると、あなたは何も変わらないと言うかもしれない。何も変わってないのかもしれない。
だけど、それでも、私たちは玉蟲だから。
玉虫色の人生を歩んでいるのだから。
こっちから見た私と、あっちから見た私はきっと全く違う形をしている。
朝焼けに照らされたあなたと、夕陽に照らされたあなたはきっと全く違う色をしている。
玉蟲は玉虫らしく、この自然界の中で宝石のように輝ける居場所を見つけに行こうと思う。