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等距離恋愛。_1丁目5番地 お子様プレート


画面には【✆10:22】の表示

わたしはマナーモードにして画面を裏返しにして机に置き台所へと向かった

ガチャ…。

冷蔵庫の中を覗くと賞味期限の切れそうな卵と昨日の残りのひき肉、それに玉ねぎが入っていた。

(うーん、ハンバーグにしようかな。)

一人暮らしを始めたころからずっと続けていた料理。「得意料理は?」と聞かれて「冷蔵庫掃除ごはん」って即答するくらいには自信があった。

丸くて茶色いお気に入りのプレートにバランスよく綺麗に盛り付ける。その「制約」の中で味・見た目・栄養を考えて作るのが楽しかった。

せっかく頑張って作ったものを自分一人で食べてしまうのは、毎度なんだか切なくなってしまう。だからSNSに載せたり、母親にラ〇ンで送りつけたりして自己欲求を満たしていた。

玉ねぎを切っていたら、涙が肌を伝ってまな板に落ちた。これは玉ねぎのせいなんだろうか、それとも...。

すべて切り終わり、温めたフライパンにオリーブ・オイルを垂らす。切った玉ねぎを弱火でじっくり炒める。

水分が出て少しずつ柔らかく、飴色になる玉ねぎ。それはまるで太陽が少しずつ沈み、空がオレンジ色に染まるそれと似ていた。

ジュウウウウ…。

別のフライパンに油をひいて、中火にする。十分に温まったところに下味をつけたひき肉を入れる。

焼ける音と空間いっぱいに広がる香りが、すっからかんになった胃袋を容赦なく刺激してくる。

フライパンを振る腕が少し早くなる。

「味の好みは人それぞれだし正解なんてないよ。これ入れたら美味しいかもっていうものを入れてみて。ちょっと味見して、また入れて。繰り返すの。そしたら自分好みの味になってる。」

料理を教えてくれた人から教わった味付けのコツだ。それ以来、レシピ本に書いてある分量は必ず疑ってかかるようにしてる。

ホントにこの分量がベストなのか。

こんなに入れたら素材の味が消えちゃうんじゃないか。

今日は濃い味付けにしよう。

味覚はその時の体調によっても変わってくる。疲れている日は無性に甘いものが食べたくなるし、じめじめした日は刺激を求める。

そんな風に私たちの身体は信号を送り続けてくれていることを知った。

その信号に気付いてあげること。

自分を思いやること。

もっと大切にしてあげること。

自炊を続けられた一番の理由。
忙しい日は効率よくこなすことが多い。でも今日は、特にすることもなかったのでゆったりした時間の流れでできた。

だんだんと楽しくなってきて、気づいたらさっきまでの恥ずかしさや怒りは消えていた。そして一方的に切ってしまったことに罪悪感を抱いた。

ふと時計を見ると、「6」を差している

落ち着いたら謝罪文送っとこう、と心の中で呟く。

最後の仕上げ。綺麗に皿に盛り、テーブルにクロスをひいてセットする。いつものようにSNS用の写真を撮ろうと、2時間ぶりにスマホの画面を開いた。

ロック画面には通知が並ぶ。その一番下に、

_おーい

_なんでいきなり切るんだよw

_✆不在着信

_ごめん、悪い冗談言い過ぎた・・・

_でも反応可愛かったからつい

という彼からのメッセージ。

(…可愛いとか平気で言っちゃうんだ、なんかちゃらい)

そう思う反面、可愛いと言われた嬉しさで少し頬が熱くなるのが分かった。

(あ、そうだ。返事、返さなきゃ。)

なんて送ろうか数分迷った末、

_ごめん!ご飯作ってた!

_恥ずかしくなって切っちゃったけど、もう気にしてないよ~

_【スタンプ】

と無難な言葉だけを送った

すると、待ち焦がれていたかのようにすぐに既読がつく。

_怒らせてブロックされたと思った。なに作ったの?

_そんなひどい人間じゃないよ〜(笑)

_でも所詮ネットで知り合った同士やからな。

「所詮ネット」という言葉に心が痛んだ

会ったこともなければお互いの素性も全く知らない私たち。ブロックされても何ら不思議ではない関係なんだもんなあと思ったら胸がギシついた。

_そんなことしないもん!

不安な気持ちをかき消すように言い放ち、話題を変える。

_お子様プレート風ごはん

撮ったばかりのインスタ用の写真を送ってみる

勢いで送ってしまった写真、すぐに既読がつく。彼とのLINEはいちいち心臓がうるさい。

両手を合わせて「いただきます」をする。彼からの返事はない。

さっきにもまして心臓が弾み、血が巡る。気になって味がわからない。きっと今日はどれだけ濃く味付けしても何もわからなかったと思う。

「無」と化したハンバーグを食べ終わりそうな頃、スマホの通知音が鳴った

_えええ!!!すげえ!!!!!!

_うまそっ!!、!!

勢いよく送られてくる賛美の言葉。

_これ、作ったの???

_うんっ。

_やば、天才じゃん…

素直なのか、褒め上手なのか。
彼は私を喜ばすのがうまい。

なんでも凄いと思ったことはストレートに褒めるし、あからさまにテンションが上がる。

_そんな大したものじゃないけどね!笑

と、謙遜してみせた

_俺の晩飯

彼から送られてきた画像。写っていたのはコンビニ弁当2つとおにぎり2つ。

え...(笑)

思わず目を疑ってしまった。

_これ全部食べるの?(笑)

_うん、これでも足りん。

さすがに冗談だと思い一応つっこんでみるとどうやら本気らしい。

本当に食べるんだ...男の子の食欲ってすごい。

弟二人がいる環境で育ったため、いっぱい食べるという認識はあった。だけどアイコンからわかる華奢な身体のどこに入るのか...

_太らん?

この食生活を続けてたら確実に太ると思った

_いや、いくら食べても太れん。これ女の子に言うと大抵、睨まれる

_私も画面越しで睨んでるw

_おお、こわ(笑)

_体交換して

_できるもんならしてあげたいわー

くだらないやり取りをしながらも、ただ漠然とカレの身体が心配になった。

見たことも、触れたこともないカレの姿を思い描いて...


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ゆるみな。
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