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等距離恋愛。_2丁目1番地 空っぽのライブハウス


あの日、彼と初めて会った日。

初めて一緒にこの町を歩いた日。

初めてデートして、手を繋いで、唇を重ねた日。


それが始まりだと思っていた。

ここから始めるんだと、そう願っていたのに...

彼はあの日以来、私の前に姿を現すことはなかった。

姿は愚か、連絡もなければ電話に出ることもない。

「ラ◯ンが既読にすらならないなんて...」

「今度行く時は、チーズケーキセットを食べようね」

と約束したあの日。

一緒に行くはずだった喫茶店で私は一人、グァテマラのコーヒーを嗜む。

いつも飲んでいたマンデリンと違って、鼻を通り抜ける果物のような爽やかな酸味の強い香りに思わずむせそうになる。

「チーズケーキはレアよりもトルテがおすすめなの。焼き加減が絶妙なんだよね。」

ってドヤ顔で教えてあげたかった。

「これうめえ!」

って無邪気に笑う彼の笑顔を一番近くで笑いながら見ていたかった。

もう後悔したって遅い。

別れというのは突然で、失うのは呆気なくて。

なんであの時、引きとめなかったのか

なんであの瞬間、気持ちをちゃんと伝えなかったのか


私は、彼が私の目の前から消えてしまった理由を、知る由のないまま大人になっていった...


あの出来事から半年。


半年前は肩につくかつかないかくらいの長さだった髪の毛は、いつのまにか胸のあたりまで伸びていた。

髪の毛を手ぐしで梳きながら、時の流れの速さを自らに説く。

あの頃と変わらない、マスターの作ったチーズケーキだけが私を癒してくれた。

最後の一切れを口の中に入れ、コーヒーで流し込む。

コンビニのお菓子コーナーでは無意識に『オレンジの味の飴』を探してしまう。そこに彼が現れるわけでもないのに。

どうしても彼を感じたくて、無意識に彼のニオイのするものを追いかけてしまう。

重たい腰を上げ、今日もまた、いるかもわからない面影を、求めて、町を、練り歩く。

どれだけ歩いたんだろう。サイズの合わないパンプスのせいで小指の先がズキズキと脈打っていた。

どこかで休もう...

見渡した先にあったのは小さなはこのライブハウス。

疲れ果てふらふらになって帰ってきた夜。一人の夜が寂しくて、よく立ち寄っていたのを思い出す。

思えば、彼とインターネットという場所で出会ってからはめっきり行かなくなった。

部屋に一人だったのは変わらないのに、独りじゃなかった。

__気づけばライブハウスの分厚い扉をひいていた。

ドアの音に反応して数本の視線が身体に突き刺さる。

昔は注目を浴びるのが嫌で仕方なかった。

それなのに今は、誰かの意識の中に一瞬でも出演できることに快感を覚えているから不思議。

見渡すと、対バンするバンドマン以外のお客さんは見当たらなかった。

空っぽのライブハウス

そこはまるで、私のこころの中を具現化したようだった

ステージの上には、目までかかった前髪の黒髪マッシュボブの男の子と、毎朝鏡の前でセットに命かけてそうな茶髪の盛りヘアの男の子。

それに白くて今にも折れてしまいそうなほどか細い女の子が夢を唄い、理想を描いていた。

奏でる音楽は、素人の私が聴いても危なっかしく、綱渡りしてるペンギンを眺めているようだった。

それなのにその不完全さに妙に惹き込まれるのだ。

演奏が終わり、ボーッと彼らの立つ眩しいステージに視線を向ける。

「あっ」

前髪で隠れていてはっきりとはわからなかったが、マッシュの男の子と目があった気がした。

それも2、3秒くらい。

時が止まったかのような感覚に戸惑いながらも、これ以上深入りしてはいけないような、そんな気がして足早にはこを飛び出した。

家に帰りシャワーで身体を洗い流す。

垢と一緒に負の感情も綺麗さっぱり落としてくれたらいいのにな

寝る支度を終えベットに横になったのは午前2時を回った頃。

体は疲れてヘトヘトなのに心がざわついてなかなか眠れない。

彼の前髪の隙間からチラリと見えた訴えるような目が、どこまでも頭から離れなくなってしまった。

その日は、マッシュくんのことを考えながら眠りについた。

__ネット恋愛がダメなんて、誰が決めた?_2丁目2番地 特売日のスーパー

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